必殺スマッシュでも折れない!?


必殺スマッシュでも折れない!?

ミズノ特許弁理士

ミズノの技ありシャトル

「なるほど、そうきたか…!」と誰もがうなる“発想の転換”。
今回は、そんな思考の妙技を活かした発明をご紹介します。その発明とは、ずばり、スポーツメーカー・ミズノが発明したバドミントンのシャトル。シャトルには、天然羽根を使ったものと、人工羽根を使ったものがあるのですが、人工羽根のシャトルは、軸部分が硬すぎて、ラケットで打ち返すと折れやすいという問題がありました。では、どうしたら折れない軸が作れるのか…!と普通は考えるのですが、ミズノが着目したのは、軸を固定するベース部分。糸状部材を使った特殊な構造のベース部分で“遊び”をもたせながらも、きちんと固定することで、軸の硬さはそのままに羽根が折れにくいシャトルが誕生しました。

■従来の課題

従来、ガチョウやアヒルの天然羽根を使ったシャトルコックが知られています。

一方で、人工羽根を使ったシャトルコックも使われていますが、人工羽根の軸部分を天然羽根の軸部分の硬さに近づけて硬くすると、ラケットで打ち返されたときに軸部分に力が集中して加わり、軸部分が折れてしまいやすいという問題がありました。

■本発明の効果

本発明は、人工羽根の軸部材が折れにくく、かつ人工羽根の軸部材を確実にベース部に固定できるシャトルコックを提供する。

■全体構成

本発明のシャトルコックは、ラケットの網に直接あたる部分(ベース部1)と、ベース部1に固定された複数の人工羽根2と、複数の人工羽根2を上記のベース部1に固定するベース固定部3とを備えます。

さらに詳しく説明しますと、ベース部1には、人工羽根の軸部材22(軸の部分)が突き刺さって入り込むための複数の挿入穴が形成されています。
例えば図1に示すように、ベース部1は、細長い球を半分に割ったような形状をしています。先端の丸い部分(ラケットの網に当たる部分)がベース部1の下面11で、人工羽根2が並んでいる方の平らな面がベース部1の上面12です。

【図1】

ミズノ特許弁理士

■細部

人工羽根2は、軸部材22と、羽部材21とを有します。軸部材22の一部は、ベース部の上面12に刺さって下面11へ向けて挿入されています(図3および図4をご参照)。

【図3】

ミズノ特許弁理士

【図4】

ミズノ特許弁理士

■本発明のポイント

本発明の最も特徴的なところは、人工羽根2の軸部材22を固定するベース固定部3です。ベース固定部3は、図5に示すように、軸部材22の周囲に巻き付けられた糸状部材31と、糸状部材31を丸ごと包み込んでいる接着部材32とを有します。ベース部1(半球状部分)の上面12の近くにおいて、ベース固定部3によって人工羽根の軸部材22が固定されています。よって、人工羽根2の軸部材22が折れにくく、軸部材22を確実にベース部1に固定できます。一方、従来のシャトルコックでは、羽根の軸を硬くするという工夫があったものの、単に硬くしても軸が折れてしまいやすかったという問題がありました。

【図5】

ミズノ特許弁理士

■実施例

本発明のシャトルコックには、さらに工夫があります。図1に示すように、上述したベース固定部3と同様の構造を有する第1の軸固定部4及び第2の軸固定部5をさらに有します。第1の軸固定部4は、人工羽根2の羽部材21よりも少しベース部側で人工羽根の軸部材22を固定しています。第2の軸固定部5は、ベース固定部3と第1の軸固定部4との間で、人工羽根の軸部材22を固定しています。第1及び第2の軸固定部は、上述したベース固定部3と同様に、軸部材の周囲に巻き付けられた糸状部材と、糸状部材を丸ごと包み込んでいる接着部材とを有します。
天然羽根の軸よりも人工羽根の軸部材が硬さの点で劣るにも関わらず、上記のように第1及び第2の軸固定部で人工羽根の軸部材22をさらにしっかりと固定することによって、天然シャトルに近い飛翔特性を得ることができます。

さらなる工夫もあります。ベース固定部3の幅(厚さ)をW1とし、第1の軸固定部4の幅(厚さ)をW2とし、第2の軸固定部5の幅(厚さ)をW3としたときに、W1≧W3≧W2の関係を満たすと、次のような良い点があります。
もし、ベース固定部3の幅(W1)が狭いと、シャトルコックの飛翔時に周囲の空気が回り込んで、シャトルコックの飛翔特性が劣化します。これに対して、ベース固定部3の幅(W1)を第2の軸固定部5の幅(W3)よりも広くすることによって、このような周囲の空気の回り込みを抑制できるため、飛翔特性を良好にできます。

以上ご説明しましたように、細くて折れやすい人工羽根を使っていても、人工羽根の軸部材をうまく固定することによって、軸部材が折れにくく、また、飛翔特性も良好にすることができます。このような工夫が詰め込まれたシャトルコックは、注目できる発明です。

■権利範囲

本発明は、主にバドミントン用のシャトルコック(羽根球)です。国際出願(いわゆるPCT出願)されて、日本国での審査を待っている状態です。

■概要

発明の名称:シャトルコック
出願番号:特願2018-522452(P2018-522452)
出願日:2017年6月2日
公開日:2017年12月14日
出願人 :美津濃株式会社
経過情報:2017年6⽉2⽇に国際特許出願され、2020年1月29日に審査請求され、現時点では特許査定になっていません。

<免責事由>
本解説は、主に発明の紹介を主たる目的とするもので、特許権の権利範囲(技術的範囲の解釈)に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解を示すものではありません。自社製品がこれらの技術的範囲に属するか否かについては、当社は一切の責任を負いません。技術的範囲の解釈に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解については、特許(知的財産)の専門家であるお近くの弁理士にご相談ください。


Latest Posts 新着記事

知財分析に地殻変動:Patentfieldが中韓データ標準化を実現

はじめに 企業がグローバル市場で競争力を維持・強化するうえで、知的財産(IP:Intellectual Property)の戦略的な活用は欠かせません。特許情報の分析は、新たな事業機会の発見、研究開発の方向性決定、競合の動向把握など、多様な意思決定の根拠となります。その中で、知財分析プラットフォームとして多くの企業や研究機関に支持されてきた「Patentfield(パテントフィールド)」が、このた...

iPhoneの次はこれ?アップルが仕掛けるAIウェアラブル革命

2025年5月、米Apple(アップル)が出願した新しい特許資料が公開され、テック業界やウェアラブル技術の未来に関心を持つ多くの人々の間で話題となっている。その内容は、従来のスマートウォッチやARグラスの枠を超える、まさに「身体拡張」と呼ぶにふさわしい次世代のAIウェアラブルデバイスに関するものだった。 本稿では、特許から読み取れるデバイスの可能性、他社動向との比較、そしてアップルが目指すであろう...

エーザイ、レンビマ特許訴訟に勝訴 知財強化で収益基盤を防衛

2024年3月、日本の製薬大手エーザイ株式会社は、同社が開発・販売する抗がん剤「レンビマ(一般名:レンバチニブ)」に関する米国での特許侵害訴訟において、インドの大手後発医薬品メーカーであるサン・ファーマシューティカル・インダストリーズ(Sun Pharmaceutical Industries Ltd.)との間で和解に至ったことを発表した。この訴訟での勝訴は、単なる一製薬企業の勝利にとどまらず、国...

「宇宙旅行OS」が誕生──スペースデータ、次世代ステーション統合特許を取得

2025年、宇宙ビジネスのフロンティアを牽引する日本企業「スペースデータ株式会社」が、宇宙ステーションの統合管理から宇宙旅行の予約・運用システムに至るまでを包括的にカバーする特許を取得した。これは単なる技術的成果にとどまらず、宇宙産業全体の未来像を方向づけるマイルストーンとなり得る重要な出来事である。 本コラムでは、スペースデータ社の取得した特許の概要、技術的・社会的な意義、そしてそこから見えてく...

ステランティス、ブラジルで特許出願急増 3倍増で革新の最前線へ

2024年、ステランティスはブラジルにおいて目覚ましい成果を収めた。特許出願数が前年比で3倍に達し、国内企業としては第3位という快挙を成し遂げたのである。これは単なる数字の増加ではなく、同社が南米、特にブラジルを次世代モビリティの技術革新の中核と位置づけ、グローバルな戦略拠点として本格的に機能させ始めていることを示す重要な指標だ。 ブラジルでの研究開発強化 ステランティスが急速に特許出願数を増やし...

知財リノベーション:老舗企業に求められる特許戦略の転換

はじめに:増え続ける「数」の先にあるもの 日本は長年にわたり、技術立国として数多くの特許を生み出してきた。特に1980年代から1990年代にかけては「知財大国」として世界を牽引していたが、21世紀に入り、特許出願件数が急増する一方で、その“質”への懸念が深まっている。いま、企業は単なる特許の“数”ではなく、社会的価値や経済的インパクトを持つ“質”を問われる時代に突入しているのだ。 この流れの中で、...

知財戦略の先に未来がある ― IT企業の特許から見る国際競争力

近年、IT業界のグローバル競争は激化の一途をたどっている。GAFAを筆頭に、中国BAT(Baidu, Alibaba, Tencent)や新興のスタートアップが覇権を争う中、各社がグローバル市場での競争優位を築くために重視しているのが「知的財産」、特に「特許」である。特許は単なる技術の保護にとどまらず、国際戦略の可視化、競合排除、M&Aの交渉材料としても機能する。各社がどの分野にどのような...

ジェネリックに逆風?東レ新薬が特許侵害で沢井製薬に大勝利

2025年5月、知的財産高等裁判所(知財高裁)は、東レ株式会社が起こした特許権侵害訴訟において、沢井製薬株式会社をはじめとするジェネリック医薬品メーカーに対して、217億円の損害賠償を命じる判決を下した。このニュースは製薬業界関係者を驚かせるとともに、日本の知財制度と医薬品政策のあり方について、改めて深い議論を呼び起こす契機となっている。 本稿では、この判決の背景、判決が意味するもの、そして今後の...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

中小企業 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る