立体商標


立体商標制度

立体商標制度とは、商品やサービスの形状そのものを商標として保護する制度です。通常の商標は、文字や図形など平面的な要素ですが、立体商標は、商品の容器、包装、キャラクターの形状など、立体的な形状が対象となります。

例えば、コカ・コーラの瓶の形状、ヤクルト容器の形状、ルービックキューブの形状などが立体商標として登録されています。また、最近ではキャラクターとしての「シン・ゴジラ第4形態」の形状について知財高裁で争われ、その結果ゴジラの形状が立体商標として認められました。

参考)https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/479/093479_hanrei.pdf

立体商標制度の基本的な仕組み

商標制度は、商標を使用する人(権利者)と社会との間で、「契約」のような関係を形成するものといえます。権利者は自分の使用する商標を世の中に公開し、誰もがその内容を知ることができるようにします。その代わりに、国はその商標を一定期間(日本の場合は登録日から10年間。10年ごとに更新可能で、更新を続ける限り半永久的に存続可能)、権利者だけが独占的に使えるように保護します。

立体商標の場合、その形状が商品の識別標識として機能することが重要です。そのため、登録のためには、その立体的な形状が、商品やサービスの出所を示すものとして、需要者の間に広く認識されている(識別力を有する)ことが求められます。

立体商標の対象となるもの

商標法における「立体商標」は、需要者が商品・サービスを認識することができる立体的な形状であり、次の要件を満たす必要があります。

(1) 自己と他社を区別できる立体的な形状

立体商標は、自社の商品・サービスと他社の商品・サービスを区別できる立体的な形状であることが必要です。具体的には、商品の容器、包装、キャラクターの形状などが該当します。

(2) 商品・サービスに使用される立体的な形状

立体商標は、商品・サービスに使用される立体的な形状であることが必要です。商品・サービスの広告やパンフレットなどに使用される立体的な形状も含まれます。

(3) 識別力がある立体的な形状

立体商標は、需要者が商品・サービスの出所を識別できる立体的な形状であることが必要です。具体的には、ありふれた形状ではなく、独創的な形状であることが求められます。

立体商標制度の目的

商標制度に関する用語解説でも述べていますが、商標制度全体の目的として、以下の点が挙げられます。

  • 権利者の権利保護
  • 需要者の利益保護
  • 産業の発展

これらの目的は、立体商標制度にも共通して当てはまります。

さらに、立体商標制度は、その対象が「立体的な形状」であるという特性から、以下のようないくつかの独自の観点からもその目的を考えることができます。

  1. 商品の形態模倣の防止: 商品の形状が独自の特徴を持ち、消費者に広く認識されている場合、その形状は重要な識別機能を持つことがあります。立体商標制度は、他社がこの特徴的な形状を模倣して商品を販売することを防ぎ、権利者の競争上の優位性を保護します。
  2. ブランドイメージの確立と維持: 立体商標は、商品やブランドの象徴として機能し、消費者に強い印象を与えます。これにより、企業は独自のブランドイメージを確立し、維持することができます。立体商標制度は、このブランドイメージの保護に貢献します [3]。
  3. デザインの保護: 立体商標制度は、商品のデザインを保護する手段としても機能します。意匠法など他の知的財産法制度と連携しながら、立体的な形状のデザインを保護し、創造的な商品開発を促進します。

これらの観点は、立体商標制度が、単に商品・サービスを識別するだけでなく、企業のブランド戦略やデザイン戦略においても重要な役割を果たしていることを示しています。

立体商標の商標権を取得することで生じるメリットとデメリット

立体商標の商標権を取得することのメリット

(1)独占排他権の獲得

登録された立体商標を、指定された商品・役務について独占的に使用できる権利を得ます。

これにより、他社が同一または類似の立体商標を使用することを排除し、自社の商品・サービスのブランド価値を保護できます。

(2)強力な識別力の確立

立体商標は、商品の形状自体が識別標識となるため、文字や図形による商標よりも強い印象を与え、消費者の記憶に残りやすいといえます。

これにより、商品やブランドの識別力を高め、競争優位性を確立することができます。

(3)模倣品の排除

立体商標の商標権を有することで、自社の商品形態を模倣した製品の販売を差し止めたり、損害賠償を請求したりすることができます。

これにより、模倣品から自社の商品・ブランドを保護し、市場での信頼性を維持できます。

(4)ブランドイメージの向上

特徴的な立体商標は、商品や企業のイメージを象徴するものとなり、ブランド価値の向上に貢献します。

消費者は、立体商標を通じて商品や企業を認識し、信頼感や安心感を抱くことがあります。

(5)ライセンスによる収益

立体商標の商標権を他社にライセンスすることで、ロイヤリティ収入を得ることができます。

これにより、自社のブランド価値を有効活用し、新たな収益源を確保することが可能になります。

立体商標の商標権を取得することのデメリット

(1)登録のハードルが高い

立体商標は、その形状が識別力を有することが求められるため、登録のハードルが高く、通常の商標登録出願よりも厳しい審査となる場合が多くあります。

特に、ありふれた形状や機能的な形状は、識別力がないとして登録が認められません。

(2)費用と時間がかかる

立体商標の出願から登録までには、調査費用、出願費用、登録料などの費用がかかります。

また、審査期間が長くなる場合もあり、時間的なコストも考慮する必要があります。

(3)権利範囲が不明確になりやすい

立体商標は、その形状によって権利範囲が定まるため、文字や図形商標に比べて権利範囲が不明確になりやすいという側面があります。

そのため、権利侵害の判断が難しい場合や、権利解釈をめぐる紛争が生じる可能性があります。

(4)使用義務がある

立体商標に限らず、商標権は、登録後も継続的に使用する義務があります。

長期間使用していないと、第三者からの不使用取消審判により取り消される可能性があります。

商標登録までのプロセス

立体商標の商標登録までのプロセスは、通常の商標登録と同様です。

(1) 商標の選定・商標調査

登録したい商標を選定し、特許情報プラットフォームなどで類似する商標がすでに登録されていないか調査します。

(2) 出願書類の作成

商標登録願、商標見本、区分などを記載した出願書類を作成します。

(3) 特許庁への出願

作成した出願書類を特許庁に提出します。

(4) 方式審査・拒絶理由通知

出願書類に不備がないか、登録要件を満たしているかなどが審査されます。拒絶理由がある場合は、拒絶理由通知が送付されます。

(5) 登録査定・登録料の納付

拒絶理由がない場合、登録査定が送付されます。登録料を納付することで、商標登録が完了します。

(6) 商標公報への掲載

登録された商標は、商標公報に掲載され、一般に公開されます。

まとめ

立体商標とは、商品やサービスの形状そのものを商標として保護する制度であり、企業のブランド戦略において重要な役割を果たします。立体商標権を取得することで、登録立体商標を独占的に使用し、信用力の維持や損害賠償請求などが可能になります。立体商標登録には費用と時間がかかりますが、企業のブランド価値を保護するために重要な手段となります。


Latest Posts 新着記事

AIカメラ+音声識別による非接触発情検知システム、特許出願へ

近年、畜産業界において「牛の発情検知」は受胎率向上や繁殖効率改善に向けた重要課題となっています。その解決に向けて、画像と音声の両面から発情する牛を自動検知する革新的システムが開発され、すでに特許出願段階に至っています。本記事では、その背景・技術・効果・今後の展望を徹底解説します。 1.発情検知の重要性と従来技術 牛の発情期を正確に捉えることは、人工授精の適期を逃さず受胎率を維持するうえで不可欠です...

世界初!宿泊予約者の希望に応じて自動紹介するビジネスモデル特許「移動先宿泊施設レコメンド3」取得

2025年、日本発の革新的な宿泊予約関連技術が注目を集めている。旅行者の利便性を格段に向上させるビジネスモデル特許「移動先宿泊施設レコメンド3」が、このたび世界で初めて取得されたのだ。これは、旅行中や移動中に次の宿泊地をまだ決めていない旅行者に対し、自動で宿泊施設を提案・紹介するという仕組みで、観光業界、特に地方創生を推進する自治体や宿泊事業者から大きな期待が寄せられている。 この基本特許技術は、...

猛暑に革命!ワークマン『TSU-KEDカーゴパンツ』の涼しさが異次元すぎる

夏の暑さが年々厳しくなるなか、通勤もレジャーも「涼しさ」がファッション選びの鍵になってきました。そんな中、機能性ウェアで注目を集め続けるワークマンが放つ新作パンツが話題沸騰中。それが、「TSU-KED(ツーケッド)カーゴパンツ」です。 「まるで穿いていないかのような軽さと涼しさ」──この一言で一躍注目を浴びているこの商品は、現在特許出願中のテクノロジーを搭載。今回はこのTSU-KEDカーゴパンツの...

ニコリオ、「ラクビプレミアム」で腸内環境改善に関する新特許取得 独自性と競争力を強化

2025年、株式会社ニコリオは、同社の主力サプリメント「ラクビプレミアム」に関連する新たな特許を取得した。この特許は、腸内環境の改善に関する有効成分の組成およびその摂取方法に関するものであり、健康食品市場における同社製品の独自性と競争優位性をさらに強化することが期待されている。本稿では、今回の特許取得に至った背景、ラクビプレミアムの特長、そして今後の展望について詳述する。 ■腸内環境と健康の関係:...

パナソニックGの休眠特許が生む次世代産業 スタートアップ連携投資の全貌

技術の再活用で新産業創出とオープンイノベーション加速を狙う パナソニックホールディングス(以下、パナソニックG)は、これまで活用されずに社内に眠っていた「休眠特許」を軸に、スタートアップ企業への投資および協業を本格化させる新たな戦略を打ち出した。大企業が保有する膨大な知的財産を、スタートアップの機動力や柔軟な発想と掛け合わせることで、社会課題の解決、新たな市場の創出、そして日本経済の再活性化を狙う...

トヨタグループ、知財DX加速 AIサムライが特許補正業務を刷新

トヨタ自動車グループの知的財産関連企業が、人工知能(AI)を活用した特許補正支援システムを開発し、実務での運用を開始した。社内では「AIサムライ」と呼ばれるこのシステムは、特許庁から送付される拒絶理由通知や意見書に基づき、わずか数分で補正案の草稿を自動生成できるという。特許補正作業はこれまで人手に大きく依存してきたが、AIの力でスピードと精度を大幅に向上させることで、知財戦略の次世代化を目指す動き...

次世代モビリティー特許出願、浜松地域で初の実態調査 中小企業の活躍は限定的に

はじめに 浜松地域イノベーション機構は、地域経済の活性化と産業競争力の強化を目的に、近年注目が高まっている次世代モビリティー分野における特許出願の実態調査を初めて実施した。調査結果によると、特許出願数自体は堅調に推移しているものの、地域の中小企業による特許出願は限定的であり、今後の技術開発や知財戦略における課題が明らかになった。本稿では、調査の背景や内容、そして中小企業の現状と今後の展望について詳...

謎の新型セダン発見!日産『EVO』中国向けPHEVか?

近年、自動車業界はEV(電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)へのシフトが加速しており、各メーカーが次世代モデルの開発に力を注いでいます。そんな中、日産が中国市場向けに開発中と噂されるPHEVセダン「EVO」の市販型と思われる新たな特許出願車両が発見され、注目を集めています。今回はその謎のセダンのデザインや性能の可能性、市場戦略などを詳しく分析し、今後の日産の動向を予測してみました。 ...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

中小企業 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る