特集:体温を味方にするリカバリー特許


イントロダクション

近年、「着るだけで疲労回復」「睡眠の質を高める」といった“リカバリーウェア”が、アスリートからビジネスパーソンまで広く浸透しています。背景には、遠赤外線や鉱物粒子など、人体の熱エネルギーを上手く扱う素材技術の進化があります。

Vol.56では、リカバリーウェアの中核技術を支える特許を3件ピックアップし、「なぜ効くのか」を特許の記載に沿って読み解きます。タグに刻まれた素材名の裏側には、配合比率・粒子サイズ・繊維設計など、細部まで詰められた“設計図”が存在します。

「光電子®(KODENSHI®)」に代表される体温リサイクル型の保温技術、アンダーアーマーの“UAリカバー”にも通じる鉱物埋め込み繊維、そして薄さと温熱効果の両立を狙う新しい繊維レシピ──。3本を通して、リカバリーの科学を立体的に捉えていきましょう。


光電子:自分の体温をリサイクルする、究極のエコ・ヒーティング

「着るだけで疲労回復」を謳うリカバリーウェアが市場を席巻しています。その中で、Goldwinの「C3fit」や「Re-Pose」、THE NORTH FACEのダウンジャケットなど、名だたるブランドのタグに刻まれている「光電子®(KODENSHI®)」という文字を見たことがあるでしょうか。

これは、株式会社ファーベストが開発した高機能繊維の名称です。多くの発熱インナーが汗などの水分と反応して熱を生み出す「加温」タイプであるのに対し、光電子®は「保温」に特化しています。暑くなりすぎず、自分の体温を利用して自然な暖かさをキープする——この絶妙な熱管理能力こそが、アスリートや健康意識の高い層から支持される理由です。この「光電子®」がいかにして体温をコントロールし、リラクセーションや疲労軽減といったコンディショニング効果を生み出しているのか、その特許技術の全貌に迫ります。

1.背景と課題

背景技術

アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカなどを含むセラミックスが遠赤外線を放射する性質を利用し、物品の加熱や衣類の保温に応用する技術は古くから存在していました。

しかし、従来の遠赤外線放射材料には、人体などの動植物体に含まれる「水分子」を励起(活性化)させるのに適した波長の遠赤外線を、効率よく放射できていないという課題がありました。また、性能を高めようとすると製造コストが高くなるという問題点もありました。

そこで本発明は、人体に含まれる水分子の回転振動波長(6〜12μm程度)に合致した遠赤外線を効率的に放射し、かつ低コストで汎用性の高い材料を提供することを目的としています。

どんな発明?

2−1.発明の目的

本発明は、特定の金属酸化物や炭化物を特定の比率で配合し、さらに微量の希土類金属酸化物を添加することで、人体や動植物に吸収されやすい波長領域(4〜20μm以上)の遠赤外線を、極めて効率よく放射する材料を提供することを目的としています。

2−2. 発明の詳細

この特許における「遠赤外線放射材料」の黄金比とも言える配合は以下の通りです。

① 基本成分の配合(合計100重量部)

• チタン成分(60〜90重量部): 二酸化チタン(TiO2​)および炭化チタン(TiC)から選択。

• 珪素成分(10〜40重量部): 二酸化珪素(SiO2​)および炭化珪素(SiC)から選択。

② 添加剤

• 希土類金属酸化物(0.01〜0.5重量部): ランタン、ネオジム、イットリウムなどの酸化物。これをわずかに加えることで、遠赤外線放射効率が劇的に向上します。

この配合により、人体から放出される熱エネルギーを効率よく吸収し、それを身体に戻す(輻射する)能力が高まります。この材料は微細な粉末にして合成樹脂(ポリエステルなど)に練り込み、繊維(糸)として加工することが可能です。

3.ここがポイント!

本発明の最大のポイントは、「特定の配合比率」によって実現された圧倒的な保温持続性にあります。特許公報に記載された実験データを用いて解説します。

肌着の保温性能試験:脱衣後も冷めにくい

特許公報では、本発明の材料を練り込んだ肌着(HK)と、通常の肌着(HS*、Ha)を着用した後の「皮膚温度の経時変化」を比較しています。

脱衣直後において、本発明品(HK)は基準品より1.0℃高い皮膚温度を示しています。さらに重要なのは「30分後」の数値です。基準品が28.0℃まで下がっているのに対し、本発明品は31.0℃という高い温度を維持しています。

これは、光電子繊維が身体の芯まで温め、脱衣後もそのぬくもりが持続すること(保温効果の高さ)を客観的な数値として実証しています。

遠赤外線放射量の向上

また、公報では、様々な配合比率(A〜L)における遠赤外線放射量(mW/cm2)が測定されています。 人体から放射される量(4.5mW/cm2)を上回る5.0∼5.5mW/cm2という高い数値を記録しており、エネルギーを増幅して身体に戻す「輻射作用」が高いことが示されています。

D

4.未来予想

ファーベスト社の「光電子®」は、既にアウトドアやスポーツ分野で確固たる地位を築いていますが、今後は「フェムテック(女性の健康課題解決)」や「サステナビリティ」の分野での展開が加速すると予想されます。 実際に、女性特有の冷えや体調不良に寄り添うファーベスト社のサブブランド「efe(エフェ)」の展開や、生鮮食品の鮮度保持への応用など、繊維以外の分野への広がりも見せています。

「自分の体温を守る」というシンプルかつ強力な機能は、省エネが求められるこれからの社会において、暖房に頼りすぎないライフスタイルを実現するキーテクノロジーとなるでしょう。

5.特許情報

権利概要

掲載特許情報https://patents.google.com/patent/JP4175558B2/ja?oq=4175558
発明の名称遠赤外線放射材料
出願番号特願2002-214328
公開番号特開2004-51896
特許番号特許第4175558号
出願日2002.7.23
公開日2004.2.19
登録日2008.8.29
審査請求日2005.2.9
出願人株式会社ファーベスト
発明者菊池 俊一
経過情報
国際特許分類 (IPC)H05B 3/10
F24D 13/02
C04B 35/56
C04B 35/46

アンダーアーマー:「柔らかさ」と「高濃度ミネラル」の共存。天然由来繊維が実現したリカバリー技術

近年、トップアスリートからビジネスパーソンまで、パフォーマンス向上を目的とした「リカバリーウェア」が急速に普及しています。中でも注目を集めているのが、アンダーアーマーが展開する「UAリカバー」シリーズです。トム・ブレイディ選手らトップアスリートの声を反映して開発されたこのウェアは、単なる着心地の良いウェアではありません。その裏側には、繊維の中に特殊な鉱物を練り込むという、極めて高度な材料科学が隠されています。

今回紹介する特許(特表2022-518460/出願人:ホロジェニックス社)は、まさにこのリカバリーウェアの中核をなす技術です。

従来、遠赤外線効果を持つ鉱物を繊維に練り込む技術はありましたが、天然由来の柔らかい素材に十分な量の鉱物を混ぜると、繊維が脆くなり、強度が保てないという課題がありました。しかし、この発明は「ビスコース(木材パルプ由来の再生繊維)」という柔らかな素材に対し、「10.1%以上」という高濃度の鉱物粒子を配合することに成功しました。

なぜこの「配合比率」が画期的なのか、鉱物による「回復の科学」について解説します。

1.背景と課題

背景技術

人間や物体は熱(赤外線)という形で電磁放射線を放出していますが、通常、このエネルギーは周囲の環境へと逃げて失われてしまいます。従来より、この放射線を保持・活用するために、特定の鉱物を利用する技術はありましたが、それを衣類として快適な「繊維」に加工することには技術的な限界がありました。 特に、肌触りの良い天然由来の素材(セルロースやビスコースなど)に、効果を発揮するのに十分な量の鉱物粒子を混ぜ込もうとすると、繊維が脆くなり、糸や布地として加工するのに必要な強度(機械的特性)を維持できないという課題がありました。

どんな発明?

2−1.発明の目的

本発明は、ビスコースなどのセルロース系担体材料(ベースとなる繊維素材)の中に、電磁放射線(赤外線など)と相互作用する複数の鉱物粒子を埋め込んだ「活性繊維材料」を提供することを目的としています。 これにより、人体からの熱を吸収・反射・波長変換して体に還元する機能(血行促進や酸素レベルの向上など)を持ちながら、テキスタイルとして十分な強度としなやかさを併せ持つ繊維を実現します。

2−2. 発明の詳細

① 繊維の構成 この技術では、以下の要素を組み合わせています。

• 担体材料(ベース): ビスコース、モダール、リヨセル、レーヨンなどのセルロースまたはセミセルロース材料。これらは木材パルプや竹などを原料とする再生繊維で、肌触りが良いのが特徴です。

• 埋め込む素材: 酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、二酸化チタンなどの「電磁的に活性な鉱物粒子」。

• 粒子のサイズ: 平均粒径が約2.0マイクロメートル未満の微細な粒子を使用します。

② 配合比率の工夫(補正による変更点) 当初の公開公報では、鉱物粒子の含有量は「約1.25〜10重量%」とされていましたが、その後の補正により、特許請求の範囲(Claim 1)において「少なくとも約10.1重量%を占める」という、より高濃度な配合に焦点が当てられています。 通常、合成樹脂(PETなど)以外の柔らかいセルロース系素材にこれほど多量の鉱物を混ぜると繊維が弱くなりますが、本発明では高い配合率でも紡績に耐えうる強度を実現している点が重要です。

③ 作用メカニズムと効果 この繊維は、人体から放射される熱(電磁放射線)を吸収し、異なる波長の光(遠赤外線など)として再放射(発光)します。

• tcPO2(経皮的酸素分圧)の増加: 鉱物を含まない繊維と比較して、皮膚組織の酸素レベル(tcPO2)を少なくとも約7%、実験結果によっては9.4%〜14.3%増加させる効果が確認されています。

• 放出能の向上: ベースラインと比較して、赤外線エネルギーの放出能力(ΔEP)が増加します。

④ 繊維の内部構造 公開された公報の図面(図1Aおよび図1B)は、ビスコース繊維の中に鉱物粒子がどのように分布しているかを示しています。

• 図1A(5%含有): 繊維材料に対して5重量%の鉱物粒子を含有させた繊維の断面です。粒子が繊維全体に分散しており、良好な紡績挙動(糸にしやすさ)を示しています。 • 図1B(10%含有): 繊維材料に対して10重量%という高濃度の鉱物粒子を含有させた繊維の断面です。通常、ここまで多くの鉱物を柔らかいビスコースに入れると繊維が弱くなりますが、本発明では良好な粒子分布と紡績適性を維持していることが示されています。

3.ここがポイント!

本発明の最大のポイントは、「天然由来の柔らかい素材(ビスコース等)」と「高濃度の鉱物粒子(10.1%以上)」を両立させた点にあります。 従来の技術では、高濃度の鉱物を練り込むと繊維がボロボロになりやすかったのですが、この技術により、肌着やパジャマとして快適に着用できる「柔らかさ」と、医療機器レベルの「血行促進・疲労回復効果」を同時に提供することが可能になりました。これが、アンダーアーマーのリカバリーウェアがトップアスリートに支持される科学的な裏付けとなっています。

4.未来予想

この技術は、現在主流の「スリープウェア(パジャマ)」だけでなく、日常着やスポーツ時のベースレイヤー、さらには家具の張り地や包帯などの医療用途への応用も期待されています。 「着ているだけで酸素供給量が増え、回復が早まる」という機能は、アスリートだけでなく、多忙な現代人のコンディショニングや、高齢者の健康維持(関節の保温や血流改善)など、幅広いヘルスケア分野での標準技術となっていく可能性があります。

5.特許情報

権利概要

掲載特許情報https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2022-518460/11/ja
発明の名称鉱物粒子が埋め込まれているセルロース及びセミセルロース系繊維及び糸並びにそれらを作製する方法
出願番号特願2021-541314
公開番号特表2022-518460
特許番号-
公開日2020.7.23
登録日-
審査請求日-
出願人ホロジェニックス・エル・エル・シー
発明者ホリネック,デイビッド
経過情報本稿執筆時点では補正却下により拒絶査定となっている。
優先日2019.1.16
国際特許分類 (IPC)D06M 11/74 (2006.01)
D06M 11/46 (2006.01)
D06M 11/45 (2006.01)
D06M 11/79 (2006.01)
D06M 101/06 (2006.01)

BAKUNE:「薄さ」と「温かさ」の矛盾を解く チタニア×ジルコニアが導き出した、次世代の熱マネジメント

「着るだけで疲労回復」で話題のリカバリーウェア。しかし、これまでは「高い温熱効果を得るには、生地を厚くしなければならない」という物理的な壁がありました。快適な薄さと機能性の両立は、開発者たちの長年の課題でした。

2025年12月に公開された特許(特開2025-185359)は、このジレンマに対する科学的な回答です。開示されたのは、チタニアとジルコニアという異なる素材をナノレベルで配合した、極めて緻密な「繊維のレシピ」でした。なぜこの技術を使えば「薄手のインナーでも血流が良くなる」のか、そのメカニズムと驚きの実証データについて解説します。

1.背景と課題

背景技術

従来より、セラミックスが人体から放射される遠赤外線を吸収し、再び遠赤外線として放射(輻射)する性質を利用して、繊維にセラミックスを添加することで着用者に温感を与えたり、血行を促進したりする技術は知られていました。

しかし、従来の技術(例えば二酸化チタンや炭化チタンなどを含む遠赤外線放射材料)を繊維に添加して衣服を作成した場合、特に肌着のような「布地の厚みが薄い衣服」においては、衣服から放射される遠赤外線の強度が低くなりやすいという課題がありました。その結果、着用者の血行を促進する効果が十分に得られにくいという問題点がありました。

どんな発明?

2−1.発明の目的

本発明は、上記課題に鑑み、布地の厚みが薄い衣服においても十分な強度の遠赤外線を放射し、着用者の血行を促進することができる繊維、およびこの繊維を含む布地や衣服(肌着)を提供することを目的としています。これにより、薄手で快適な着心地を維持しながら、高いリカバリー効果を実現することを目指しています。

2−2. 発明の詳細

本発明の核心は、繊維に練り込む「セラミック粉末」の配合比率にあります。

① 特殊な配合比率のセラミック粉末 熱可塑性樹脂(ポリエステルなど)の中に分散させるセラミック粉末として、以下の2つの成分を特定の質量比率で配合しています。

• 第1セラミック成分(40〜75質量%) チタニア(TiO2)、炭化チタン、ホウ化チタンから選択。人体からの遠赤外線を吸収・放射する効果に加え、繊維の光沢を抑える効果もあります。

• 第2セラミック成分(25〜60質量%) ジルコニア(ZrO2)、炭化ジルコニウム、ホウ化ジルコニウムから選択。繊維の蓄熱性や断熱性を高め、薄い布地でも効率よく遠赤外線を吸収する役割を果たします。

さらに、シリカやアルミナといった第3の成分を少量(10質量%以下)加えることで、断熱性や放熱性を微調整する場合もあります。

② 実際の効果検証 この繊維を用いた布地(試験品)と、セラミックを含まない布地(対照品)を用いた比較実験が行われています。

• 遠赤外線放射率の向上 図1や図3に示されるように、本発明の繊維を含む測定試料は、基準試料に比べて全波長域で高い分光放射率を示しました。特に薄手の生地(190g/m2など)でもその効果が確認されています。

• 血流量の増大(血行促進) 図7および図8に示される被験者実験の結果、対照品を着用した場合は血流量が減少する傾向(平均-15.8%など)にあったのに対し、試験品を着用した場合は血流量が増大する傾向(平均+7.9%や+23.3%)が確認されました。これにより、本発明の繊維を含む布地は、血流を促進する効果を有することが実証されています。

3.ここがポイント!

従来の技術では、遠赤外線効果を高めようとすると、セラミックスの量を増やすか、生地を厚くする必要があり、着心地やデザイン性が損なわれる傾向にありました。 本発明の最大のポイントは、「チタニア系」と「ジルコニア系」という異なる特性を持つセラミックスを、それぞれ「40〜75%」「25〜60%」という絶妙なバランスで配合した点にあります。第2成分(ジルコニア系)を第1成分に対して0.4倍以上配合することで、薄い生地であっても人体からの熱を効率よく吸収・蓄熱し、それを遠赤外線として再放射するサイクルを最適化しました。 これにより、「薄くて軽くて快適なのに、しっかり温まり疲れが取れる」という、リカバリーウェアとしての理想的な機能性を実現しています。

4.未来予想

この技術により、厚手のパジャマや冬物衣料だけでなく、薄手のインナーシャツ、レギンス、あるいは夏用の軽量ウェアなど、一年を通して着用可能なリカバリーウェアの展開が可能になります。 将来的には、この繊維技術がスポーツウェアや日常のビジネスインナーにも応用され、「生活しているだけで無意識にコンディショニングができる」というライフスタイルが定着するかもしれません。また、特定の配合を変えることで、季節や用途(活動時・睡眠時)に合わせた最適な「熱マネジメント」ができる衣類へと進化していくことが期待されます。なお、この発明はTENTIALの「BAKUNEシリーズ」に採用されているものと考えられます。

https://tential.jp/features/howtochoose_recoverywear_sleepitem

5.特許情報

権利概要

掲載特許情報https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2025-185359/11/ja
発明の名称繊維、布地及び肌着
出願番号特願2024-93544
公開番号特開2025-185359
特許番号-
出願日2024.6.10
公開日2025.12.22
登録日-
審査請求日-
出願人株式会社MTG、豊島株式会社
発明者松下 剛
武藤 貴雄
岡田 歩美
石津 亮
柏木 克仁
経過情報
国際特許分類 (IPC)3B128
4J002
4L035

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