ペロブスカイト太陽光パネル – 環境への優しい未来を照らす


再生可能エネルギーが世界的に求められるようになり、太陽光を電気エネルギーに変換する太陽光パネルは、サステナブルなエネルギーの象徴として急速に普及しています。しかし、その製造や廃棄に伴う環境への影響は無視できないもので、活発な議論の中心となっています。こうした課題に対処するために、環境に優しい太陽光パネルの開発が進められています。その中でも近年注目を浴びているのが、ペロブスカイト太陽光パネルです。

本コラムでは、関連特許にも触れつつ、ペロブスカイト太陽光パネルの特徴と環境への利点、さらには太陽光パネルの廃棄やリサイクルの課題について解説します。

ペロブスカイト太陽光パネルの特徴

ペロブスカイト太陽光パネルは、近年、次世代の太陽電池技術として注目を集めています。この技術は、ペロブスカイトと呼ばれる特殊な材料を使用して太陽光を電力に変換するものです。ペロブスカイトは、組成式AMX3(Aは1価のカチオン、Mは2価のカチオン、Xはハロゲンアニオン)で示される構造体で、高い光吸収率と電荷移動特性を備えています。そのため、比較的薄い層でも高い効率で太陽光をエネルギーに変換することができます。太陽光パネルとして利用可能である代表的なペロブスカイト型光吸収材料として、CH3NH3PbI3(通称MAPbI3)や(NH2)2CHPbI3(通称FAPbI3)が挙げられます。

(参考論文)
Jeong-Hyeok Im, 他4名、”Nature Nanotechnology”(米国)、2014年11月、第9巻、p.927-932

また、ペロブスカイト太陽光パネルは、環境に対する多くの利点を持っています。

低コストの製造

ペロブスカイト太陽光パネルの製造プロセスは、従来のシリコン太陽電池に比べて単純で、低コストで実施できます。これにより、エネルギーの生産コストが削減され、再生可能エネルギーの普及が促進されます。例として、ペロブスカイト太陽光パネルはスピンコート法により、液膜を塗りつけることで薄いパネルを作成することができます。

(参考リンク)
https://core.ac.uk/download/pdf/199686055.pdf
https://engineer.fabcross.jp/archeive/190529_kyoto-u2.html

高い光電変換効率

ペロブスカイト太陽光パネルは、高い光吸収率と効率的な電荷移動特性を持つため、太陽光を効率的に電力に変換できます。これにより、同じ面積でより多くのエネルギーを生み出すことが可能です。

柔軟性と軽量性

ペロブスカイト太陽光パネルは、薄膜で柔軟な材料を使用しているため、建築物の外壁や窓ガラスに統合することができます。また、軽量性もあるため、施設への負荷を最小限に抑えることができます。

太陽光パネルの廃棄とリサイクルの課題

太陽光パネルの普及に伴い、その製造後の廃棄やリサイクルが問題となっています。従来のシリコン太陽電池においても、リサイクルの難しさや廃棄物処理の課題が指摘されてきました。ペロブスカイト太陽光パネルも同様に、環境への影響を最小限に抑えるために、廃棄とリサイクルの問題に取り組む必要があります。

特に、上述した通り、代表的なペロブスカイト太陽光パネルにはPb(鉛)が含まれています。廃棄やリサイクルにおいては、環境中への鉛の漏出を防止しなければならず、この課題に対していくつかの特許が出願されています。

リサイクル技術の開発

ペロブスカイト太陽光パネルのリサイクル技術の開発が進行中です。この技術は、材料を効率的に分離し、再利用可能な部品を取り出すことを目指しています。リサイクル技術の進展により、廃棄物の量を削減し、リソースの有効活用を実現できるでしょう。

(参考特許) 特許6997705号
廃モジュールから基板を回収して、初期の高い光電変換効率レベルに再製作することを可能にする技術
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6997705/F95A693BF4697FDBEC5A1E69D99267265EA367989C9F6F3A55FA4ADD588BDDF8/15/ja

(参考特許)US2023/0088203A1
鉛など、有毒な金属イオンを吸収するためのポリマー・多孔質テンプレート複合材料を備えたペロブスカイト太陽電池。本発明を適用した太陽電池モジュールを意図的に破壊する実験を行ったところ、鉛がテンプレートに捕捉され、漏出を抑えることが可能であることが確認された。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/US-A-2023-0088203/09DF181B537D5E9282EA9728544CBB71DEABE78255AD7CE1CC7A13D47FBA1EAB/50/ja

廃棄物の適切な処理

廃棄される太陽光パネルは、適切に処理されるべきです。鉛をはじめとした有害物質のリークや環境汚染を防ぐために、専門的な廃棄物処理施設が必要です。さらに、廃棄物の最終処分方法を検討し、環境への影響を最小限に抑える工夫が求められます。

(参考特許)特開2017-222913
鉛およびハロゲンの含有物から鉛を回収する方法の発明。実施例として、ペロブスカイト太陽電池をハンマーで破砕して、そこから鉛を効率的に回収している。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2017-222913/DB33520E16C398618DAE87DA4E71F7FC3686043EB0DAF66A140565A8CD9AD1C2/11/ja

未来への展望

ペロブスカイト太陽光パネルは、環境に優しい太陽光発電の未来を開く可能性を秘めています。その高い効率と低コストの製造プロセスは、再生可能エネルギーの普及に大きく貢献すると考えられます。

しかし、環境への影響を最小限に抑えるためには、リサイクル技術の発展や廃棄物の適切な処理に関する技術開発が不可欠といえるでしょう。


ライター

+VISION編集部

普段からメディアを運営する上で、特許活用やマーケティング、商品開発に関する情報に触れる機会が多い編集スタッフが順に気になったテーマで執筆しています。

好きなテーマは、#特許 #IT #AIなど新しいもが多めです。




Latest Posts 新着記事

終わりなき創造の旅 厚木の発明家が挑む“次の技術革命”」

特許数でギネス更新 21世紀のエジソン、厚木に―発明の街が問いかける、日本の未来図 神奈川県厚木市―東京からわずか1時間足らずの距離にあるこの街が、世界の技術史に名を刻んだ。特許数の世界記録を更新した発明家、山﨑舜平(やまざき・しゅんぺい)氏が拠点を構えるのが、まさにこの地である。彼の名がギネス世界記録に再び載ったというニュースは、科学技術の世界だけでなく、日本人のものづくり精神を象徴する話題とし...

知財は企業の良心を映す鏡――4億ドル評決が語るイノベーションの倫理

2025年10月、米テキサス州東部地区連邦地裁で、韓国の大手電子機器メーカー・サムスン電子に対し、無線通信技術の特許侵害を理由に4億4,550万ドル(約690億円)の賠償を命じる陪審評決が下された。この判決は、単なる企業間の紛争を超え、ハイテク産業における知的財産権(IP)の重みを再認識させる事件として、世界中の知財関係者の注目を集めている。 ■ 「技術を使いたいが、支払いたくない」——内部文書が...

知財が揺るがす電機業界――TMEIC×富士電機、UPS特許訴訟の裏側

2025年夏、産業用電源装置分野を揺るがすニュースが伝わった。東芝三菱電機産業システム(TMEIC)が、富士電機の無停電電源装置(UPS)製品が自社の特許を侵害しているとして、韓国において訴訟および輸入禁止の措置を求めた件である。韓国貿易委員会(KTC)は8月下旬、TMEICの主張を一部認め、富士電機製の特定UPSモデルについて韓国への輸入を禁止する決定を下した。日本企業同士の知財紛争が、国外で具...

「JIG-SAW、AI画像技術で米国特許を獲得へ 知財を武器にグローバル競争へ挑む」

はじめに:発表概要と意義 JIG-SAW(日本発の IoT / ソフトウェア/AI ベンチャーと理解される企業)は、米国特許商標庁から「コンピュータビジョン技術」に関する Notice of Allowance(特許査定通知) を取得した旨を、自社ウェブサイトおよびニュースリリースで公表しています。 具体的には、JIG-SAW は「コンピュータビジョン技術、画像処理・画像生成支援技術」分野において...

「特許で世界を包囲する中国 イノベーション強国への加速」

はじめに:なぜ国際特許出願数が注目されるか イノベーション(技術革新)の国際競争力を測る指標として、研究開発投資、論文発表数、特許出願数などが長らく注目されてきました。特に国際特許(例えば、特許協力条約 PCT 出願、あるいは各国出願による外国での保護を意図した出願)は、一国の発明・技術が国際市場を見据えて保護を志向していることを示すため、技術力だけでなく国際志向性の強さも反映します。 近年、中国...

「AI×知財が生む国産イノベーション ナレフルチャットの議事録特許が拓く未来」

2025年秋、CLINKS株式会社が提供する法人向け生成AIチャット「ナレフルチャット」が、議事録生成技術に関する特許を取得した。 このニュースは単なる技術発表にとどまらず、「AIが人の仕事の記録と知識をどう扱うか」という大きな変化の象徴でもある。 いま、AIは“人の代わりに考える”段階から、“人の思考を支える”段階へと進化している。 その中で、「会議をどう記録し、どう活かすか」は、企業の知的生産...

「日用品にも知財戦争 クレシア×大王製紙、“3倍巻き”特許訴訟の行方」

はじめに:争点と構図 日本製紙クレシア(以下「クレシア」)は、トイレットペーパーについて、従来品に比して「長さ3倍(長巻き)」としつつ実用性を保つ技術を有する特許を取得しており、これを背景に、同種製品を販売する大王製紙(以下「大王製紙」)に対し、製造・販売の差止めおよび約3,300万円の損害賠償を求めて訴訟を提起しました。 第1審(東京地裁)では、クレシアの請求は棄却され、大王製紙の製品がクレシア...

「ナノレベルの精度を支える静電チャック ― ウエハー温度均一化の秘密」

ウエハー温度を均一に保つ静電チャック ― 半導体製造を支える見えない精密技術 半導体製造の現場では、目に見えない高度な工夫が、日々の歩留まりや性能向上に直結しています。その代表例の一つが、静電チャック(Electrostatic Chuck, ESC)です。静電チャックは、半導体ウエハーをチャック面で静電力により吸着保持し、ナノメートル単位の加工を可能にする装置です。表面からはただの「吸着板」のよ...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る