iPS細胞初移植の高橋政代氏 理研、ヘリオスらを相手に特許技術の使用を求め裁定請求


iPS細胞から作った網膜の細胞を世界で初めて患者に移植した、高橋政代・元理化学研究所プロジェクトリーダーが代表を務める会社が、目の細胞の製造方法の特許をもつ理研と、バイオベンチャーのヘリオス(本社・東京)などに対し、特許の技術を使わせるよう経済産業相に裁定を求めた。高橋氏が28日、取材に明らかにしたと朝日新聞DEGITALは2021 年9月28日伝えている。

裁定を求めたのは、ビジョンケア(本社・神戸市)とその関連会社「VC Cell Therapy」(同)。対象にしている特許は高橋氏が発明者の一人で、網膜の細胞を大量につくるにあたって重要な技術に関するもの。当時高橋氏が所属していた理研が、ヘリオスとの間で特許契約を結んだ。高橋氏はその後理研を退職し、現在はこの技術を自由に使えない状態になっているという。

出典:特許6518878号公報

高橋氏によると、網膜の細胞を目の難病の患者に移植する治療の展開をめざしてこの技術を発明した。特許契約により、ヘリオスが治験を進めると期待していたが、同社は治験を始めていない。

そこで、自分たちで治験を進めたいと考え、数年にわたり協議を求め続けたが応じなかったという。高橋氏は正当な対価のもと、特許の技術を使わせてほしいとしている。

私たちはそれぞれの患者に最適な治療を開発できると自負しているし、計画はある。患者も待っている。そのために自分たちがつくった特許を機関の契約によって使えないというのは公益的に問題ではないか」他の産学連携に関わる特許トラブルについても、情報を集めているという。

請求に対して朝日新聞がコメントを求めたところ、理研は「今後、関係者間での協議を含め、定められた手続きにのっとって対応いたします」、ヘリオスは「現在裁定手続き中のため、当社からの回答は差し控えさせていただきます」などとそれぞれ答えた。

高橋氏は2014年、大幅な視力低下の恐れがある目の難病「加齢黄斑変性」の患者へ、網膜の細胞を移植。iPS細胞が臨床応用された世界初の事例となった。ヘリオスの立ち上げにも関わったが、今は離れている。

請求は特許法に基づく、「公共の利益のための通常実施権」を求める裁判のような手続き。経産相が請求を受け付けた後は、審査をした上で、裁定をする。特許庁によると、「公共の利益のための通常実施権」による裁定請求は過去に1度だけで、却下されている。今回裁定の判断がされれば初のケースになるという。

今回関連するのは特許法93条(公共の利益のための通常実施権の設定の裁定)の規定。
“特許発明の実施が公共の利益のため特に必要であるときは、その特許発明の実施をしようとする者は、特許権者又は専用実施権者に対し通常実施権の許諾について協議を求めることができる。”
“2 前項の協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、その特許発明の実施をしようとする者は、経済産業大臣の裁定を請求することができる。”

【オリジナル記事・引用元・参照】
https://www.asahi.com/articles/ASP9X5GYWP9QPLBJ01K.html
https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20210922-00259507


Latest Posts 新着記事

10月に出願公開されたAppleの新技術〜Vision Proの「ペルソナ」を支える虹彩検出技術〜

はじめに 今回は、Apple Inc.によって出願され、2025年10月2日に公開された特許公開公報 US 2025/0308145 A1に記載されている、「リアルタイム虹彩検出と拡張」(REAL TIME IRIS DETECTION AND AUGMENTATION)の技術内容、そしてこの技術が搭載されている「Apple Vision Pro」のペルソナ(Persona)機能について詳説してい...

工場を持たずにOEMができる──化粧品DXの答え『OEMDX』誕生

2025年10月31日、化粧品OEM/ODM事業を展開する株式会社プルソワン(大阪府大阪市)は、新サービス「OEMDX(オーイーエムディーエックス)」を正式にリリースした。今回発表されたこのサービスは、化粧品OEM事業を“受託型”から“構築型”へと転換させるためのプラットフォームであり、現在「特許出願中(出願番号:特願2025-095796)」であることも明記されている。 これまでの化粧品OEM業...

特許で動くAI──Anthropicが仕掛けた“知財戦争の号砲”

AI開発ベンチャーのAnthropic(アンソロピック)が、200ページ以上(報道では234〜245ページ)にわたる特許出願(または登録)が明らかになった。その出願・登録文書には、少なくとも「8つ以上の発明(distinct inventions)」が含まれていると言われており、単一の用途やアルゴリズムにとどまらない広範な知財戦略が透けて見える。 本コラムでは、この特許出願の概要と意図、そしてAI...

SoC時代の知財戦争──ホンダと吉利が仕掛ける“車載半導体覇権競争”

自動車産業が「電動化」「自動運転」「ソフトウェア定義車(SDV)」へと急速にシフトするなか、車載半導体・システム・チップ(SoC:System­on­Chip)を巡る知財・開発競争が激化している。特に、ホンダが「車載半導体関連特許を8割増加」させているとの情報が注目されており、同時に中国自動車メーカーが特許活動を爆発的に拡大しているとされる。なかでもジーリー(Geely)が“18倍”という成長率を...

試験から設計へ──鳥大が築くコンクリート凍害評価の新パラダイム

はじめに:なぜ“凍害”がコンクリート耐久性の大きな壁なのか コンクリート構造物が寒冷地・凍結融解環境(凍害)にさらされると、ひび割れ・剥離・かさ上がり・耐荷力低下といった劣化が進行しやすい。例えば水が凍って膨張し、内部ひびを広げる作用や、塩分や融雪剤の影響などが知られている。一方、これらの劣化挙動を実験室で迅速に・かつ実サービスに近づけて評価する試験方法の開発は、長寿命化・メンテナンス軽減の観点か...

Perplexityが切り拓く“発明の民主化”──AI駆動の特許検索ツールが変える知財リサーチの常識

2025年10月、AI検索エンジンの革新者として注目を集めるPerplexity(パープレキシティ)が、全ユーザー向けにAI駆動の特許検索ツールを正式リリースした。 「検索の民主化」を掲げて登場した同社が、ついに特許情報という高度専門領域へ本格参入したことになる。 ChatGPTやGoogleなどが自然言語検索を軸に知識アクセスを競う中で、Perplexityは“事実ベースの知識検索”を強みに急成...

特許が“耳”を動かす──『葬送のフリーレン リカちゃん』が切り開く知財とキャラクター融合の新時代

2025年秋、バンダイとタカラトミーの共同プロジェクトとして、「リカちゃん」シリーズに新たな歴史が刻まれた。 その名も『葬送のフリーレン リカちゃん』。アニメ『葬送のフリーレン』の主人公であるフリーレンの特徴を、ドールとして高精度に再現した特別モデルだ。特徴的な長い耳は、なんと特許出願中の専用パーツ構造によって実現されたという。 「かわいいだけの人形」から、「設計思想と知財の結晶」へ──。今回は、...

“低身長を演出する靴”という逆転発想──特許技術で実現した次世代『トリックシューズ』の衝撃

ファッションと遊び心を兼ね備えた新発想のシューズ「トリックシューズ」が市場に登場した。通常、多くの「シークレットシューズ」や「厚底スニーカー」は身長を高く見せるために設計されるが、本モデルは逆に身長を「低く見せる」ための構造を意図しており、そのためにいくつもの特許技術が組み込まれているという。今回は、このトリックシューズの設計思想・技術構成・使いどころ・注意点などを掘り下げてみたい。 ■ コンセプ...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る