「赤い靴底」は商標たるか~クリスチャン・ルブタンの「赤い靴底」商標が日本において拒絶


赤い靴底(レッドソール)で知られるクリスチャン・ルブタンというブランドがある。情熱のレッドソールというブランドイメージを浸透させ、高級靴市場をけん引。レッドソールは、ヨーロッパ、北米など50か国で商標登録されている。

しかし、日本では、このブランドはそれほど認知されていなかったようだ。ルブタンが、靴底を赤くした靴を展開する日本の会社を相手取り、損害賠償を求めて東京地裁に提訴したが、敗訴したのだ。このことについて日本経済新聞は22年4月16日その独創と歴史について伝えている。
また、Yahooニュースでも、フランスの高級ハイヒール、クリスチャン・ルブタンのレッドソール(赤い靴底)の商標登録出願(商願2015-29921)が7月19日付けで拒絶査定になっていたと、19年9月19日次のように伝えている。

本商標は、日本で色彩のみから成る商標制度が始まった初日(2015年4月1日)に出願されているので、出願人も権利化の意欲満々であったことがうかがわれる。

色彩のみから成る商標の登録には「使用による識別性」(セカンダリミーニング)を獲得している、つまり、ほとんどの消費者がその商標を見れば「ああ、あの商品ね」とわかるレベルになっていることが求められる。一般に、セカンダリミーニング獲得の立証には、市場シェア、広告宣伝予算、メディアでの取り扱い、消費者調査等々、膨大な証拠の提出が必要となり大変な作業となる。

商標の審査経過を見るとわかるが、本商標にはクリスチャン・ルブタンからセカンダリミーニングに関する膨大な証拠資料が提出されていると共に、競合他社からの情報提供(刊行物等提出)も行なわれています(赤い靴底の靴はクリスチャン・ルブタン以外にも数多くあるので識別性はないと主張することが目的です)。また、第三者による審査経過資料の閲覧請求も相当な件数(200件以上)行なわれており、業界における注目度が高いことがうかがわれる。

しかし、特許庁は以下のとおり、セカンダリミーニングを否定し、商標登録を認めなかった。
我が国において、出願人の高級ブランド「クリスチャン・ルブタン」の商品が「レッドソール」であるとの認識はある程度浸透しているものであり、なかでも、芸能人、セレブ、海外ブランドを好む富裕層を中心とした一部の需要者においては、「レッドソールといえばクリスチャン・ルブタン」との認識があることも推認できます。

しかしながら、上記のとおり、類似する商品が本願商標の出願時から現在に至るまで流通していること、出願人がこれらの類似する商品に対して積極的に法的措置を行っているとはいえないこと、それなりの需要者がこれらの類似する商品を購入していることからすると、一般の需要者はこれらの類似する商品も含めた女性用ハイヒール靴の靴底部分に付されている赤色の色彩から特定の者(クリスチャン・ルブタン)を認識しているとはいい難い状況であるといわざるを得ない。(中略)

そうすると、商品「女性用ハイヒール靴」の靴底部分に付した赤色である本願商標は、自他商品の識別標識として認識されているとまではいうことができず、使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っているとはいうことができない。
出願人の上申書によれば、レッドソール商標は海外47国において有効に登録されており、2019年5月22日、EUにおいて無効審判請求が棄却された(商標の有効性が再確認された)とのこと。また、身近にいる女性に「赤い靴底のハイヒールと言えば?」と聞いたところ「ルブタン」と即答が返ってきたので(サンプル数1ではありますが)日本でもセカンダリミーニングは確立しているようにも思える。


【オリジナル記事・引用元・参照】
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60065020W2A410C2KNTP00/
https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20190919-00143272


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