知財戦争の最前線 韓国が富士電機UPSを差止、TMEICが勝利


韓国で、日本大手の電機メーカーである富士電機製の無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power Supply)が特許侵害を理由に輸入差止の措置を受けたことが明らかとなった。輸入禁止の判断を下したのは韓国の特許庁傘下にある知的財産審判院(IP Tribunal)および関税庁であり、差止の根拠となったのはTMEIC(東芝三菱電機産業システム株式会社)が保有する電力変換技術に関する特許である。本件は、グローバル市場における産業用電源装置を巡る特許紛争の一端を浮き彫りにした格好となった。

UPS市場の背景

UPSは停電や電力瞬断が発生した際にバックアップ電力を供給し、データセンターや工場設備、病院など重要インフラの安定稼働を支えるために不可欠な装置である。近年では、クラウドサービスの拡大や半導体工場の稼働増加により世界的な需要が高まり、各国メーカーがシェア拡大を狙って技術開発と特許出願を加速してきた。日本企業もこの分野で高い技術力を有しており、TMEICや富士電機、日立製作所などが市場で存在感を示している。

特にTMEICは、電力エレクトロニクス技術に強みを持ち、大規模産業施設や再生可能エネルギー分野向けのインバータやコンバータにおいて豊富な特許ポートフォリオを保有している。一方の富士電機もUPSの国際市場で競争力を高めており、韓国市場でも一定の販売実績を有していた。

特許侵害と輸入差止の経緯

今回の差止は、TMEICが保有する「電力変換制御技術」に関する特許を根拠としているとみられる。具体的には、UPS内部における整流器とインバータを高効率かつ安定的に制御する技術であり、TMEICの長年の研究開発成果として特許化されていた。この特許技術は、過渡的な負荷変動時にも安定した電力供給を可能にする点が特徴で、産業用UPSにおいて高い信頼性を確保するために不可欠な要素とされる。

TMEICは、富士電機製UPSが韓国に輸入・販売されている過程で自社特許を侵害していると主張し、韓国当局に差止申請を行った。その後、知的財産審判院が技術的検討を実施し、TMEICの特許権が有効であること、富士電機の製品がその技術的範囲に属することを認定。結果として韓国関税庁は当該UPS製品の輸入を禁止する措置を講じた。

影響と波紋

本件の輸入差止により、富士電機は韓国市場でのUPS販売に大きな制約を受けることになる。韓国は東アジア地域における製造業・データセンターの集積地であり、UPS需要が旺盛な市場であるため、販売停止は業績にも一定の影響を与える可能性がある。

一方で、TMEICにとっては自社の知的財産を守り、競合他社に対する優位性を確立する格好の成果となった。近年、電力関連装置の国際市場では、中国や韓国メーカーが価格競争力を武器にシェアを拡大しているが、特許権の行使によって日本企業が技術的優位を維持する動きが強まっている。

さらに今回の事例は、韓国当局が外国企業の特許権も尊重し、厳格に執行する姿勢を示したことにも注目が集まる。韓国は知財立国を標榜しており、自国企業だけでなく海外企業の権利保護にも力を入れることで国際的信用を高めようとしている。

グローバルな特許戦略の重要性

UPSやインバータといった電力変換機器は、再生可能エネルギーの普及やデータセンター需要の拡大により、今後も世界的に市場が成長する分野である。そのため、各社は研究開発と並行して特許の取得・防衛戦略を強化している。

特許侵害訴訟や輸入差止は、単なる法律問題にとどまらず、市場シェアや企業収益に直結する経営課題となる。特に新興国市場や第三国での販売活動においては、自社製品が他社特許を侵害していないかを綿密に検証する必要がある。逆に、自社の技術を守るためには各国での特許出願・権利化を徹底し、侵害が疑われる場合には迅速に法的措置を講じることが欠かせない。

今回のTMEICと富士電機の事例は、日本企業同士の争いが韓国市場で表面化した点でも特徴的である。グローバル展開を進める企業にとって、競合は必ずしも外国企業に限らず、同じ国内の大手企業とも衝突することを示している。

今後の展望

富士電機は、輸入差止に対して異議申し立てや特許無効審判を求める可能性がある。仮にTMEICの特許の一部が無効と判断されれば、輸入再開の道が開けるが、判定が確定するまでには時間がかかるとみられる。また、両社が和解交渉を行い、ライセンス契約を結ぶシナリオも考えられる。

産業界では、本件を契機に「他国市場での知財リスク管理をどう徹底すべきか」が改めて課題となるだろう。特に日本企業は、国内では互いの競合関係が透明化されやすい一方、海外市場では販売代理店や現地法人を通じて製品が流通するため、意図せぬ形で他社特許を侵害するリスクが高まる。こうしたリスクを最小化するには、グローバルな視点での特許調査やクロスライセンス戦略が重要となる。

結論

韓国での富士電機製UPS輸入差止は、知財紛争が企業戦略や国際競争に直結する現代のビジネス環境を象徴している。TMEICは自社特許を武器に市場での優位を確保する一方、富士電機は海外事業戦略の見直しを迫られている。今後の展開次第では、日本企業同士の関係にも影響を及ぼし、産業界全体が知的財産をめぐる競争の激しさを再認識することになるだろう。


Latest Posts 新着記事

AI×半導体の知財戦略を加速 アリババが築く世界規模の特許ポートフォリオ

かつてアリババといえば、EC・物流・決済システムを中心とした巨大インターネット企業というイメージが強かった。しかし近年のアリババは、AI・クラウド・半導体・ロボティクスまで領域を拡大し、技術企業としての輪郭を大きく変えつつある。その象徴が、世界最高峰AI学会での論文数と、半導体を含むハードウェア領域の特許出願である。アリババ・ダモアカデミー(Alibaba DAMO Academy)が毎年100本...

翻訳プロセス自体を発明に──Play「XMAT®」の特許が意味する産業インパクト

近年、生成AIの普及によって翻訳の世界は劇的な変化を迎えている。とりわけ、専門文書や産業領域では、単なる機械翻訳ではなく「人間の判断」と「AIの高速処理」を組み合わせた“ハイブリッド翻訳”が注目を集めている。そうした潮流の中で、Play株式会社が開発したAI翻訳ソリューション 「XMAT®(トランスマット)」 が、日本国内で翻訳支援技術として特許を取得した。この特許は、AIを活用して翻訳作業を効率...

特許技術が支える次世代EdTech──未来教育が開発した「AIVICE」の真価

学習の個別最適化は、教育界で長年議論され続けてきたテーマである。生徒一人ひとりに違う教材を提示し、理解度に合わせて学習ルートを変化させ、弱点に寄り添いながら伸ばしていく理想の学習プロセス。しかし、従来の教育現場では、教師の業務負担や教材制作の限界から、それを十分に実現することは難しかった。 この課題に真正面から挑んだのが 未来教育株式会社 だ。同社は独自の AI学習最適化技術 で特許を取得し、その...

抗体医薬×特許の価値を示した免疫生物研究所の株価急伸

東京証券取引所グロース市場に上場する 免疫生物研究所(Immuno-Biological Laboratories:IBL) の株価が連日でストップ高となり、市場の大きな注目を集めている。背景にあるのは、同社が保有する 抗HIV抗体に関する特許 をはじめとしたバイオ医薬分野の独自技術が、国内外で新たな価値を持ち始めているためだ。 バイオ・創薬企業にとって、研究成果そのものだけでなく 知財ポートフォ...

農業自動化のラストピース──トクイテンの青果物収穫技術が特許認定

農業分野では近年、深刻な人手不足と高齢化により「収穫作業の自動化」が急務となっている。特に、いちご・トマト・ブルーベリー・柑橘など、表皮が繊細な青果物は人の手で丁寧に扱う必要があり、ロボットによる自動収穫は難易度が極めて高かった。そうした課題に挑む中で、株式会社トクイテンが開発した “青果物を傷付けにくい収穫装置” が特許を取得し、農業DX領域で大きな注目を集めている。 今回の特許は単なる「収穫機...

<社説>地域ブランドの危機と希望――GI制度を攻めの武器に

国が地理的表示(GI:Geographical Indication)保護制度をスタートしてから10年が経つ。ワインやチーズなど農産物を地域の名前とともに保護する仕組みは、欧米では産地価値を国境を越えて守る知財戦略としてすでに大きな成果を上げてきた。一方、日本でのGI制度は、導入から10年が経った今ようやくその重要性が幅広く認識される段階に差し掛かったと言える。 農林水産省によれば、2024年時点...

保育データの構造化とAI分析を特許化 ルクミー「すくすくレポート」技術の本質

保育業界におけるDXが本格的に進む中、ユニファ株式会社が展開する「ルクミー」は、写真・動画販売や登降園管理、午睡チェックシステムなどを通じて保育の可視化と効率化を支えてきた。その同社が開発した 保育AI™「すくすくレポート」 が特許を取得したことは、保育現場のデジタル化における大きな節目となった。 「すくすくレポート」は、子どもの日々の成長・発達をAIが分析し、保育士の観察記録を補助...

JIG-SAW、動物行動AIの“核技術”を米国で特許化 世界標準を狙う布石に

IoTプラットフォーム事業を展開する JIG-SAW株式会社 が、米国特許商標庁(USPTO)より「AI算出によるベクトルデータをベースとしたアルゴリズム・システム」に関する特許査定を受領した。対象となるのは 動物行動解析分野—つまり動物の動き・姿勢・行動をAIで読み取り、ベクトルデータとして構造化し、行動傾向や異常を自動判定するための技術だ。 近年、ペットヘルスケア、畜産、動物実験、野生動物の行...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る