健康を楽しむ「タニタ」のキーマン開発者が語る「開発戦略」のカギ


健康総合企業タニタにおいて、新しいゲームシステムの開発を手掛けている和智湧斗(わちゆうと)さんに、開発の経緯やそこで使われた技術についてお話をうかがった。

名だたるコラボ企画に名の上がるタニタだが、健康とIT、そして特許技術を生かした開発戦略のカギには、「企業コンセプト」と「技術開発へのこだわり」がふんだんに詰まっていた。

PROFILE

和智 湧斗

YUTO WACHI

2016年株式会社タニタ入社。

同社の子会社、合同会社thousandsmilesの技術責任者も担当。

生体データの解析業務を主軸にし、体形分析に関する特許出願のほか、2022年4月には体組成計を使った紳士服のサイズ推定アルゴリズムを発表した。

2019年には同社を退社し、雇用契約から業務委託契約に切り替えるタニタの「日本活性化プロジェクト」のメンバーとしてタニタの業務に取り組んでいる。

体組成計でおなじみのタニタが「ゲーム」を展開!?

「筋肉量がそのまま攻撃力に換算されるんです」

と、ゲームデモ画面に現れたキャラクターのスペック設定を語るのは、本サービスを生み出した、事業戦略本部 開発部 生体科学課の和智湧斗(わちゆうと)さんだ。

紹介してくれたのは、株式会社タニタの子会社thousandsmilesが試験的に開発した「プレイヤーの生体情報をそのままキャラクターモデルに反映できる」ランゲームだ。体組成計をはじめとしたヘルスケア分野を開拓していく企業・タニタは、アニメ「TIGER&BUNNY」へのプレイスメント協賛を筆頭にさまざまなポップカルチャーとのコラボ企画を世に輩出している。ゲーム、という分野とも相性が良い土壌があった。

「生体情報(人間の身体情報)を組み合わせて遊べるようなゲームというのは、これまでもあったんです。この商品の新しい部分というのは、もともとタニタで培ってきたBIA(Bioelectrical Impedance Analysis)の技術を取り入れたところ」と、和智さんは語る。

「個人の身長や体重、筋肉量、基礎代謝量などを、そのままキャラクターの特性にするんです」

実際のデモ画面では、キャラクターの周りには武器の火の玉が飛んでいる。これは基礎代謝量が反映されているそうで、プレイヤーの代謝がそのまま火力としてキャラクターのスキルを上げる。

「からだが大きかったり、小さかったり。それによって障害物の乗り越え方も違います。お腹に脂肪がついてしまっていると細い道が通れないので、周りを破壊したり。軽量で筋肉もあると、その分ジャンプ力が高かったりします」

ゲームでもキャラクターによって「操作感」が違う、というのは定石だが、この商品ではその操作感…つまり移動速度や、攻撃の重さにプレイしている「自分」の要素が「リアル」に映し出されるのだ。

早速、デモプレイ!

説明を一通りしてもらった後に「やってみてもらうのが一番ですね」とのことで、実際に2020年にラスベガスのCES(Consumer Electronics Show)で発表したデモ版をプレイさせてもらうことになった。

「僕ら、どっちが強いのかな?笑」と煽るスタッフAと「1週間前から腹筋だけはしてきました!」とやる気のスタッフBが火花を散らしている間に、和智さんはサクッとスタッフの体重や性別を入力していく。体組成計ではかる時と同じようなグリップを握ること10秒…。「できましたね」と、そこにはプレイヤーキャラクターの姿が。

「あまりリアルでも良くないな、と社内で試行錯誤し、プレイヤーがなじみやすいように、既存のゲームに寄せてデフォルメしてあります」。コントローラーに持ち替え、さっそくゲームの中を進んでいく。細身のキャラクターになったスタッフが「(からだを)分厚くして道が通れないのやってみたい!」とオーダーしたところ、「身長を低くしたら変えられますよ」と即座に裏技を教えてもらった。

早速別スタッフが設定を調整したところ、ジャンプ力が大きく下がり、その変わり攻撃力は格段にUP。体組成情報が反映された、まさに『人間のIoT化』を体験した。

だから、今、「タニタ」がやる。

開発にあたっての近年の追い風について和智さんはこう語る。

「ゲームはゲームでいたい、現実と違う方がいいという声が発表時はあったんですが、最近は没入感というか、仮想空間にこそリアルな自分を作りたいというニーズも高まっていて、愛着がわくというコメントも多いんです」

確かに、なんとなく1世代遡ると、ゲームや空想の世界では普段とは違う自分を、といったニーズが高かったように思う。デジタルデバイスの普及や個人が発信を簡単にできる時代、そしてオンラインにもコミュニティがあることが当たり前の世代が新しい価値観を作り始めているのだろう。

なお、本サービスにおいて構想から試作ができるまでの期間はなんとたった「4か月」とのこと。もともと人間の体形をデジタルで再現するという技術は別で特許を取得していたため、発想のベースはすでにあり、そこからいろいろな要素をかき集めて形にしたのだそうだ。

そして発案の際は「タニタがやる意味」と常に向き合い続けたという。どこの会社でもない、ライフヘルス分野を牽引するタニタだからこそ「なぜ自分たちがやるのか」ということを考え続ける姿勢にもより大きな社会を背負う意思を感じた。

技術の開発だけではなく、既存の技術と閃きをクロスさせてこれまでになかった分野や世界を開拓していく、タニタらしい挑戦心と、何より遊び心がまさに現れた魅力的なゲームだった。

『これから新規事業を展開する人へ』

インタビューの最後に、未来の発明者・新しくアイデアをする人へのアドバイスを一言お願いした。開発のキーマンとして事業を支えてきた和智さんからいただいた、力強くも実用的なエールを、本記事をご覧になる開発者・経営者の方へお届けしたい。

「これまでの経験からすると、とにかく作ること。作り始めるからこそ、壁があることがわかるんです。タニタでは、ありがたいことにアドバイスやアイデアを出してくれる人がいる。頭の中であれこれせず、とにかく目に見える形にすることを大事にしてみてください」


Latest Posts 新着記事

「しなやかでタフ」なカルコパイライト太陽電池の進化戦略

はじめに 太陽光パネルといえば、重くて硬いシリコン製を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし今、次世代技術として「カルコパイライト太陽電池」が静かにその存在感を高めています。 「曲がる太陽電池」カルコパイライトとは? カルコパイライト太陽電池は、銅(C)、インジウム(I)、ガリウム(G)、セレン(S)などを原料とする化合物系の薄膜太陽電池です。これらの構成元素の頭文字をとって「CIGS(シグス)」と...

連邦政府が大学の特許収入を狙う トランプ政権の新方針が波紋

はじめに 米国の大学は、研究開発活動を通じて得られる特許収入を重要な財源としてきました。大学の特許収入は、新しい技術の商業化やスタートアップ企業の設立に活用され、イノベーションの促進に直結しています。しかし、トランプ政権下で、連邦政府が大学の特許収入の一部を請求する方針が検討されており、大学の研究活動やベンチャー企業の育成に対する影響が懸念されています。 特に米国は、大学発ベンチャーの育成や産学連...

脱石炭から技術輸出へ:中国が描くクリーンエネルギーの未来

21世紀に入り、世界各国が環境問題やエネルギー安全保障への対応を迫られるなか、中国はクリーンエネルギー分野で急速に存在感を高めてきた。とりわけ再生可能エネルギー技術、電気自動車(EV)、蓄電池、送配電網、そしてグリーン水素などの分野において、中国は「追随者」から「先行するイノベーター」へと変貌を遂げつつある。なぜ中国が短期間でこのような飛躍を実現できたのか。その背景には、国家戦略、産業政策、市場規...

世界のAI特許6割を握る中国 5G・クラウドを基盤に国際競争を主導

近年、中国はデジタル経済の拡大と技術革新を国家戦略の中核に据え、AIや5G、クラウド、データセンターといった基盤技術において世界を牽引する存在となっている。その象徴的な事実として注目されるのが、人工知能(AI)に関する特許出願件数である。国際特許機関の最新統計によれば、中国からのAI関連特許は世界全体の約6割を占め、米国や欧州、日本を大きく上回る圧倒的なシェアを記録している。 本稿では、中国がいか...

AgeTech知財基盤を強化――パテントアンブレラ(TM)が累計41件出願、AI特許も追加

高齢社会の進展に伴い、健康維持、生活支援、介護軽減を目的としたテクノロジー領域「AgeTech(エイジテック)」への注目がかつてないほど高まっている。その中で、知的財産を軸に事業競争力を高める取り組みが活発化しており、今回、独自の「パテントアンブレラ(TM)」戦略を進める企業が、AI関連特許を含む29件の新規出願を追加し、累計41件の特許出願を完了したと発表した。これにより、類型141件の機能をカ...

フォシーガGE、特許の壁を突破 沢井・T’sファーマの挑戦

2025年9月、日本の医薬品市場において大きな話題を呼んでいるのが、SGLT2阻害薬「フォシーガ(一般名:ダパグリフロジン)」の後発医薬品(GE、ジェネリック)の登場である。糖尿病治療薬の中でも売上規模が大きく、近年では慢性腎臓病や心不全の領域にも適応拡大が進んだフォシーガは、アストラゼネカの主力製品のひとつである。その特許の“牙城”を突破し、ジェネリック医薬品の承認を獲得したのが沢井製薬とT&#...

電池特許はCATLだけじゃない――AI冷却から宇宙利用まで、注目5大トピック

近年、知的財産の世界では、特定の企業やテーマに関心が集中しやすい傾向がある。中国・CATLの電池特許戦略や、AIをいかに効率的に冷却するかといったテーマは、テクノロジー産業の今を象徴するキーワードだ。しかし同時に、その裏側には見落とされがちな知財動向や、将来を左右しかねない新しい潮流が潜んでいる。本稿では、「電池特許CATL以外にも」「特集AIを冷やせ」を含め、いま注目すべき5本のトピックを整理し...

バックオフィス改革へ ミライAI、電話取次自動化で特許取得

AI技術の進化が加速するなか、企業のバックオフィスや顧客対応の現場では「省人化」「自動化」をキーワードとした取り組みが急速に広がっている。その中で、AIソリューションを展開するミライAI株式会社は、従来の電話取次業務を人手に頼ることなく「完全無人化」するための技術を開発し、特許を取得したと発表した。この技術は、音声認識・自然言語処理・対話制御を組み合わせ、従来課題とされてきた「誤認識」「取次精度の...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る