特許はガードストーン!“二次流通戦国時代”に切り込む極意とは?


メルカリやネットオークションなど、個人間で物を売買するのが当たり前となった現代。

だが、市場に「ニセモノ」が流通されるなど、トラブルが相次いでいる。
そうしたトラブルを回避するために、立ち上がったのが株式会社シティーデジタル・社長の杉野 寛樹氏。

特許に関する“イロハ”をゼロから学んで培った独自の“特許の活かし方”に迫ります。

PROFILE

杉野 寛樹

HIROKI SUGINO

株式会社シティーデジタル 社長

広告代理店、海外転勤、外資系戦略コンサルフォームを経て、2018年、株式会社シティーデジタルを起業。

テクノロジーとビジネスを掛け合わせ、新しい価値を生み出し続ける、世界に先駆けたデジタル総合商社。

座右の銘は「有言実行」。少しでも世の中・人のためになりたいという志を基に活躍中。

「スニーカー」のニセモノを排除する独自のサービス

今流行りの二次流通(オークションやフリマなどの中古品流通の事)は個人間売買が一般的だが、個人間売買ではトラブルが多く、そのトラブル回避の仕組みを提供しているのがこの会社の特許を使ったサービスだ。

価値のある二次流通で、流通量が多いものとして挙げられるのがスニーカーだが、トラブルの一例として「ニセモノ」がある。そのニセモノをはじく対応をしても、それを超えるニセモノが作られば、永久に対応し続けなければならない。株式会社シティーデジタルは、そのようなわずらわしさを排除し、安心・安全を高めるサービスを提供している。

NFTとは、Non-Fungible Tokenの略で、日本語では「非代替性トークン」と呼ばれる。

※NFTはデータ管理にブロックチェーン技術を活用することで改ざんできず、個別のIDやデータなどを持ち、ほかの仮想通貨や現金で代替することはできない技術のこと。

NFTのようなブロックチェーン技術を活用した、デジタルデータのコピーや改ざんができないような仕組みを、アナログ物品で提供できないかと考え、株式会社ハヤト・インフォメーション(東京都新宿区四谷三栄町12-5 ライラック三栄ビル)と共同で出願したのがこの特許だ。

それ以外にも、シティーデジタルは、物品の検品の仕組みに関する特許も保有している。買い取り販売の様に物品を1つずつ人が見て判断するのではなく、分散して物品を検品する仕組みの特許である。

「我々はこのサービスをテストトライアルとしてとらえています。新しい事業としてこのサービスの一部を、大手二次流通会社に向けて販売しているのです。」と杉野氏は言う。

ビットコインネットワークとRFIDの結びつき

共同開発者との出会いは、RFIDで検索したらハヤト・インフォメーションが上位に表示されたことと、ハヤト・インフォメーションのオフィスが家から30分以内にあったことがきっかけだった。

「単純なきっかけだったが、共同出願するまでに至ったことは縁があった。」

もともと、ハヤト・インフォメーションのMANICAのブランドプロテクションという基礎的な考え方があり、それが多くの商品を一次流通に使用するには適しているため、私がやろうとしていた二次流通の1点モノのアナログ商品に合わせたような特許が出せるのではないかと杉野氏は考え、相談を持ちかけた。ゼロから考えたのではなく、MANICAというベースを基に改良するようなアイディアから、特許が出せると考えたのだ。

ブランドプロテクションの技術は、ビットコインネットワークに、例えば誰が使用したか、といった履歴を紐づけるというのが新しい技術になる一方で、RFIDは、唯一無二の固有IDを持っているということと、偽装が限りなく不可能に近いという特徴がある。ブロックチェーンは改ざんがほぼ不可能である。この2つがあってはじめて、このビジネスが成立する。

いつ、どこで捕れた、どういう特徴の大間のまぐろなのか

「発想としては、いまあるブロックチェーンの物品保証は、比喩としてだが『(ただの)まぐろ』の証明だ。どこの一時流通のブランドもそうなっている。しかし、われわれが相談したのは、デジタル物品だとできないが、アナログ物品であれば可能になる、何時何分にどこで取れた魚なのか、個体まで追跡できるようにしたいということ。取った瞬間のマグロの重さをはかったり、うろこの枚数を数えたり、瞳孔が開いているサイズをはかったり、デジタルデータで後日、『X月X日に水揚げされた、XX産のまぐろのうちの、X番目に大きな個体』である、ということまで分かれば面白い」と杉野氏。

「マイケルジョーダンが履いていたスニーカーというだけで、物凄く価値が上がる。だが、本当にマイケルジョーダンが履いていたスニーカーそのものか。と聞かれると、鑑定書だのなんだの、となってしまう。そこが急にダサい」

そこで、MANICAのブランドプロテクションの追加機能という形で、マグロの測り方をシティーデジタルが、保存の仕方などをハヤト・インフォメーションが、と分業することによって、アナログ物品を唯一無二で保証することができる取り組みを行った。

「エアジョーダンなどのにせものが多く出回っていたが、この技術を使うことで安心、安全にものを買うことができる。アナログ物品にはタグが付いていて、そのタグを読み込むと情報が出てきて、その情報とアナログ物品が1対1であることがポイントだ。」と杉野氏

世の中にある、例えば化粧品のロット番号は同じでも、1個1個は識別できない。RFIDの唯一性とアナログ物品が紐づいているのがポイントである。

特許を理解すると、他者の動向が見えてくる

「私自身、特許に関する知識は全く無かったが、顧問弁護士経由で特許事務所を紹介してもらい、物品管理をやる前の検品システムの特許を出した時に、やりながら勉強した。これが意外と面倒くさかったが、勉強したからこそ、目利きが出来るようになり、変な勧誘には乗らなくなった。特許を理解すると、他社がどのように攻めてくるか、どうすれば他社をけん制できるか、ということが見えてくる。また、特許のメリットとして、パテントペンディング(特許出願中)の宣伝広告的な効果があるのではないか」と杉野氏は考える。

「特許はカーリングのガードストーン」杉野流・知財戦略

「特許は『カーリングのガードストーン(自分の陣地を守るカーリングのストーン)』だ」とは杉野氏の考え。

「良いガードストーンを置けることが、良い特許の取り方だと考える。なぜなら、特許自体が活躍するわけではなく、あくまでビジネスを守ってくれるもので、それはどこでもよいわけではない。良い場所に置けば相手は切り崩しにくく、逆にたいしたところに置いていないと、特許出願してもなんの役にも立たない。今はわからないが、良い場所においておけば将来的に良い結果をもたらしてくれる可能性がある。それが特許のイメージだ。」と杉野氏は語る。

特許について相談されることがしばしばあるが、結果的に、面倒くさい、お金がかかる、という理由から出願しない会社もある。だが、他社が攻めてきたとき果たしてガードストーンでガードできているのかは分からない。

先述したように、特許自体が活躍するわけではないので、効果がなかなか見えにくいために、なぜそこまでお金をかけるのか、という意見もある。

「最低限、特許を出そうとしているものの何がすごくて、どんなビジネスの『ガードストーン』になるのか、を考えて出願する。あるいはとれる範囲で出す。というのが大事である。」と杉野氏は言う。

「私は特許をガードストーンとしてしか使えていないが、ガードストーンの横を通過する通行料を取ることもできる(ライセンス)。特許を上手く使って、ライセンス料を支払わせたり、売却したり、色々な活用方法があると聞いた。

ビジネスの海外展開を考えているので、将来的には海外知財についても力を入れていきたい。」と杉野氏は言う。


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