特許の価値を独自手法で指標化し企業の将来成長性を見通す

特許の価値を独自手法で指標化し企業の将来成長性を見通す「工藤一郎国際特許事務所」所長が説く「無形資産の経営戦略活用」の有効性とは?

開発投資の結果である技術資産を守り企業の将来成長の源泉となる特許。

企業にとって命綱ともいえる知的財産のひとつ・特許について、独自に開発したYK値を使った客観的な評価・指標化を行い、企業の経営戦略の新たな形を提案し続けているのが工藤一郎所長だ。

Intangible Assets すなわち無形資産の価値を重要視する工藤所長が目指す「特許の価値評価」という分野の存在意義と展望について伺った。

PROFILE

工藤一郎

ICHIRO KUDO

NEC関西開発研究部、NEC関西特許センター、NEC本社知的財産部渉外部を経て2000年に工藤一郎国際特許事務所を設立。

無形資産の価値評価を通した企業の成長性情報の提供という新たな分野を切り開いた。IPランドスケープの実践、知的財産に関するコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針、改訂版)の義務履行、特許の流通市場の構築など、企業が迎える大変化に対応するべく活躍している。

特許の価値を相対評価する画期的システムを構築

システムの根幹となるYK値とは?

工藤所長が発明した「YK値」とは、特許が持つ価値を技術力の経済的な競争優位性と定義し、競合企業間でお互いが相手に技術競争優位のポジションをとらせないために投入される資金の大きさをものさしとして算出される数値だ。

これまでは特許の価値を評価する方法として特許の市場価値から判断するマーケットアプローチや、特許によって将来得られるであろう利益を予想して特許の価値とするインカムアプローチ、特許技術開発に要したコストをベースに評価額を設定するコストアプローチなどがあったが、企業が所有している多数の特許の全体価値を簡易に評価する方法はなかった。

またこれらの評価方法には少なからず評価者の主観が影響を及ぼすという点も弱点として指摘されてきた。

対してYK値は、競合他社等の第三者からの特許に対する攻撃(特許が成立するのを阻止するためのアクションや成立した特許を無効にするためのアクション)を評価のベースにしている。

「他社がアクションを起こすということは、それだけ取得されては困る特許であり、他社からのアクションが多い=価値のある特許だと認識できます。」と工藤氏。

YK値は技術力の経済的な競争優位性の評価を可能とした画期的システムなのである。

特許の流通市場をつくりたい

工藤所長は、NEC関西(以下「NEC」)在籍時から特許に関するさまざまなケースを取り扱ってきた経験を持つ。

競合他社が特許への攻撃を行ってくるたびに、NECの持つ特許は相手にとって価値が大きいものなのだということを肌で感じていたという。

そうした経験から、工藤所長は、特許を相対的に評価する尺度の構築を思いつき、NECを退職して事務所を設立。

特許の経済的な価値基準が明確になれば競争環境に置かれている自社のポジションが明確になり、競争優位性を獲得するための事業戦略が明確になるとともに、その一つの効果として特許がよりスムーズに流通し、企業の成長効率を高めることもできる。

企業の無形資産を生かした成長戦略のための特許評価

YK値を使って、自社特許を評価してほしいという依頼は増えてきているという。

同業他社との比較だけでなく、自社の技術力が客観的に見てどれくらいのものなのかを経営層に把握してもらう目的で依頼されるケースも少なくない。

「特許の評価を外部機関に依頼するのは、ネームバリューのある大手企業であるイメージが強いでしょう。しかし、実は中小企業やベンチャー企業にとってもメリットは大きいんです。日本銀行が出した論文では、銀行が考える企業のデフォルト率(債務不履行)への影響度としてもっとも大きいのは現預金、その次がYK値で測定した企業の技術競争力です。経常利益や総負債よりも効果的な判断材料と位置付けられているんですよ。

大手企業はもちろん、中小企業やベンチャー企業にとってもYK値で特許の評価を受ける意義は十分あると言えるだろう。

さらに工藤所長が思い描くのは、技術力という目に見えない資産を企業の成長戦略に活用するという価値観をつくり出すスタイルだ。

「企業の将来性や成長性を図る指標として、従来は財務データや金融データが使われていました。企業の将来は過去の成長ラインの延長線上にあるという考えがベースにあって、 こうした数値をもとに経営戦略を決めていくのが王道だったんですね。しかし企業の将来性や成長性をバランスシートや損益計算書などの決算情報だけで判断して、経営戦略を決めていくのはもはや現代には合いません。企業の投資行動は有形なものに対する有形投資と、無形なものに対する無形投資とからなります。そして投資の結果としての資産とは、『ある期間、企業に便益を与える経済リソース』と定義することができます。」

つまり、有形投資の結果生まれる資産が有形資産。無形投資の結果生まれる資産が無形資産となるのだと言う。

「有形資産はその経済的価値の計測が可能でありバランスシート上に現れますが、無形資産はその経済的価値の計測が困難なためにバランスシート上には表れません。つまり、オフバランス資産なのです。有形投資よりも無形投資の方が企業の活動として優勢になりつつある現状では、無形資産が投資家やステークホルダー(利害関係者)に客観的に開示されていないことが問題です。」と工藤氏。

このような状況下で、2021年6月11日に東京証券取引所が発表し、同日に施行された「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針、改訂版)」には、知的財産に関する規定が新たに盛り込まれ、「知的財産情報の開示」と、「知的財産への投資について監督する取締役会等」の義務が明示された。これは、無形資産の開示を重視したことによる社会のルールの変化と取ることができる。

企業の技術力競争力、つまり技術の観点からの無形資産の経済的価値を相対的に評価できるシステムはこれまでなかった。

大企業ですら倒産するリスクを常に抱えている現代では、技術競争力という無形資産に関する情報や評価を正しくつかみ、将来何が起こるか、キャッシュフローを生み出す情報は何かを常にチェックする姿勢が必要だ。

そのためにも、YK値による特許の価値評価を成長戦略決定材料として生かしてほしいと工藤所長は考えている。

YK値を広く利用するためのウエブサービス PATWARE

企業の技術競争力をYK値を用いて分析できる世界初の経済的特許価値評価ウェブサービス 「PATWARE」を工藤一郎国際特許事務所とアクロソフト株式会社とで共同開発をした。

PATWARE(パットウェア)は、YKS手法を用いて算出された特許価値をリアルタイムに取得できる世界初のウェブサービスとなる。

IPランドスケープ経営戦略の中核ツールとして多くの企業での活用が期待されている。全技術分野の企業の技術競争力を工藤一郎国際特許事務所独自の業種分類であるYKS技術業種分類を用いてYK値で見ることができる。

PATWARE:https://www.patware.net/

すでに証明されているYK値と株価の連動性

工藤所長曰く「YK値と株価の連動性はすでに金融機関等で証明されている。」という。

YK値が高い特許を持つ企業は市場独占力があるため価格競争をする必要がない。そのため売上高利益率が上がり、最終的にはROE(自己資本利益率)が上がるという流れにつながっていく。

投資家にとってはROEが高い企業は低い企業より魅力的なため、より多くの資本を集めることができ、持続的かつ効果的な成長戦略を描きだせる可能性が高まる。

「地球ができたときから地球上にある物は物質的にはかわらない。人間が生まれる前、すなわち富という概念が生まれる以前から現在まで基本的に地球上に存在している物には変化がありません。しかしながら、現在地球上には文明が存在し、文化が存在し、膨大な富が蓄えられています。この文明や文化、膨大な富は、人間が頭の中から作り出したものに他ならないと考えます。人間の無形なる意思、思考が原始地球から存在していたものを変化させたととらえることができます。この意思や思考こそが文明、文化、富の源泉であり、無形なものである、ということになります。」

さらに例えとして、自身の考えを付け加えた。

「例えば、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品が持つ価値は作品を描くために使用された絵の具の価値で図られるものではなくキャンバスに描かれ表された思想で図られるべきです。つまり単なる物質に価値を与えるのはアイデアや思想という無形資産。目に見えないものこそ価値の生成には欠かせない大事なものだと私は考えています。

伝わりにくい技術力の価値を広く知ってもらいたい

YK値を利用すれば、将来キャッシュフローの変化を推定できる。

知的財産の金銭的評価は知的財産を売却したり、投資家からの投資を誘致する場合などに用いられる。

これに対し、相対的評価指標であるYK値は知的財産の売却の有無をとわず、技術による経済的な競争優位性情報を得るために使う。その情報を使って自社や競合他社の将来を見通すことができる。

「YK値を使って把握した企業の特許価値の情報は、単なる評価だけにとどめるのでなく、企業として今何をするべきか、将来どんなことが起こる可能性があるかを見通す手段のひとつとして利用すべきです。YK値による特許の価値評価を活用すれば、企業が今後も生き残って成長していくための方向性をさらにはっきりさせられるでしょう。

商標の価値にも着目

工藤所長はさらに、特許と同じく価値が高い無形資産である商標についても注目している。

技術競争力の水準以上に株式市場で大きく評価されている例としてソニーグループ(6758)を挙げることができる。技術競争力と、時価総額との比をとった値であるYK値/時価総額の値を計算すると、値は、0.07となった。

この値が大きいほど技術競争力を市場が評価していない傾向が高く、この値が小さいほど技術競争力以外の要素を市場が評価している傾向が高くなる。ソニーグループの東証業種分類「電気機器」内の順位は165/247で半分よりも下側、すなわち技術競争力以外の要素を市場が高く評価している、という結果。これはブランド力が貢献していると思われる。

このように市場が評価する重要な要素として技術競争力の他にブランド力も考慮する必要がある。そこで、独自の商標価値評価指標・TK値を開発した。

「TK値が上がれば企業価値が上がる傾向があり、企業価値への影響要素としてYK値との交互作用も確認されています。技術競争力のみならずブランド力も評価し、総合的に企業を観察することで企業の将来成長性を推定するための情報の確度をより向上させることが可能です。」

自社独自の技術力の価値を理解しきれていない、把握できていないことで成長の機会を逃すのはあまりにもったいない。

競合他社からの攻撃対策や市場での独占性獲得を通して継続的に成長していくためにも、持っている技術力から判断された知財の客観的評価は強力な武器になるだろう。


PATWARE(パットウェア)は、工藤一郎国際特許事務所(東京都千代田区、所長:工藤一郎)とアクロソフト株式会社(京都府京都市、代表取締役社長:小川秀明)が共同開発。経済的な特許価値評価指標として知られているYK値、YK3値を用いた特許価値評価webサービスです。
https://www.patware.net/