特許の価格決定の方法とは?


特許の価値評価は、特許の取引やライセンス供与において非常に重要な役割を果たします。しかしながら、実際に特許の価値がどのように算出されるかご存知ではない方も多いのではないでしょうか?

今回は、特許の価値がどのように評価され、その価格がどのように決定されるかを、具体例を交えながら簡単に解説していきます。

特許の価値評価方法

特許の価値評価には、主に以下の3つの方法があります

  • コスト・アプローチ
    特許取得にかかった費用を基準に価値を評価する方法。歴史的原価法や再構築法があります。
  • マーケット・アプローチ
    市場での類似特許の取引価格を基準に価値を評価する方法。平均取引価格を使用します。
  • インカム・アプローチ
    特許が将来生み出すキャッシュフローを基に価値を評価する方法。利益三分法や25%ルール、超過収益法、免除ロイヤルティ法があります。

これらの評価方法は、特定の業界や企業に限らず、一般的に広く使用されています。特許評価の専門家や企業の知的財産部門でも、これらの方法を基に特許の価値を評価しています。

評価方法評価方法具体例評価額
コスト・アプローチ特許取得にかかった費用を基準に価値を評価特許取得費用5,000万円5,000万円
マーケット・アプローチ市場での類似特許の取引価格を基準に価値を評価類似特許の取引価格1億円1億円
インカム・アプローチ (利益三分法)収益を「技術、資本、経営」の3つに分け、技術の貢献度を約33%とする評価年間利益1億円の33%3,300万円
インカム・アプローチ (25%ルール)特許による収益の25%を基準とする評価年間利益1億円の25%2,500万円
インカム・アプローチ (超過収益法)特許技術を使用することで得られる超過収益を基に評価年間売上2億円の超過収益20%4,000万円
免除ロイヤルティ法特許を使用しない場合に支払うべきロイヤルティを免除されることによる価値を評価年間ロイヤルティ1,000万円の免除1,000万円

各評価方法と具体例

コスト・アプローチ

歴史的原価法では、特許取得にかかった実際の開発費用を基に評価します。例えば、ある特許の取得に5,000万円かかった場合、その特許の価値も5,000万円と評価されます。

しかし、この方法では将来の収益性を反映できないため、特許の価値が低く見積もられることがあります。

再構築法は、評価時点で同じ技術を再取得するのに必要な費用を基に評価します。例えば、技術再取得に現在なら3,000万円かかると見積もられる場合、その特許の価値は3,000万円と評価されます。

マーケット・アプローチ

マーケット・アプローチでは、市場での類似特許の取引価格を参考にします。例えば、ある技術分野で最近取引された特許が1億円だった場合、それと同様の技術を持つ特許の価値も1億円と見積もります。

インカム・アプローチ

利益三分法は、特許が生み出す収益を「技術、資本、経営」の3つに分け、技術の貢献度を約33%と評価する方法です。例えば、ある特許が製品の売上により年間1億円の利益を生む場合、その特許の価値は3,300万円となります。

25%ルールは、特許による収益の25%を基準とします。例えば、特許製品が年間1億円の利益を生む場合、その特許の価値は2,500万円となります。

超過収益法は、特許技術を使用することで得られる超過収益を基に評価します。例えば、特許技術により製品価格が20%上昇し、年間2億円の売上が見込める場合、その特許の価値は4,000万円となります。

免除ロイヤルティ法は、特許を使用しない場合に支払うべきロイヤルティを免除されることによる価値を評価します。例えば、他社にロイヤルティとして年間1,000万円支払うべきところを、自社特許で免除される場合、その特許の価値は1,000万円となります。

特許の取引価格は、技術分野や特許の重要性によって大きく異なります。例えば、製薬業界では新薬特許が数億円から数十億円で取引されることがあります。一方、IT業界のソフトウェア特許は、数百万円から数千万円で取引されることが一般的です。

具体例として、ある革新的な医療機器の特許が3億円で取引されたケースがあります。この特許は、インカム・アプローチを用いて将来のキャッシュフローを評価し、特許技術が生み出す収益性を基に価格が設定されました。

まとめ

特許の価値評価と価格決定は、技術取引やライセンス供与において非常に重要です。コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチの3つの主要な評価方法があり、それぞれが異なる観点から特許の価値を評価します。これらの方法は一般的に広く使用されており、特定の企業や業界に限定されたものではありません。

具体的な取引事例を基に、特許の価格がどのように決定されるかを理解することは、特許管理や技術取引において不可欠です。適切な評価と価格設定を通じて、特許の持つ潜在的な価値を最大限に引き出し、技術革新と経済成長に貢献することが期待されます。


ライター

+VISION編集部

普段からメディアを運営する上で、特許活用やマーケティング、商品開発に関する情報に触れる機会が多い編集スタッフが順に気になったテーマで執筆しています。

好きなテーマは、#特許 #IT #AIなど新しいもが多めです。




Latest Posts 新着記事

終わりなき創造の旅 厚木の発明家が挑む“次の技術革命”」

特許数でギネス更新 21世紀のエジソン、厚木に―発明の街が問いかける、日本の未来図 神奈川県厚木市―東京からわずか1時間足らずの距離にあるこの街が、世界の技術史に名を刻んだ。特許数の世界記録を更新した発明家、山﨑舜平(やまざき・しゅんぺい)氏が拠点を構えるのが、まさにこの地である。彼の名がギネス世界記録に再び載ったというニュースは、科学技術の世界だけでなく、日本人のものづくり精神を象徴する話題とし...

知財は企業の良心を映す鏡――4億ドル評決が語るイノベーションの倫理

2025年10月、米テキサス州東部地区連邦地裁で、韓国の大手電子機器メーカー・サムスン電子に対し、無線通信技術の特許侵害を理由に4億4,550万ドル(約690億円)の賠償を命じる陪審評決が下された。この判決は、単なる企業間の紛争を超え、ハイテク産業における知的財産権(IP)の重みを再認識させる事件として、世界中の知財関係者の注目を集めている。 ■ 「技術を使いたいが、支払いたくない」——内部文書が...

知財が揺るがす電機業界――TMEIC×富士電機、UPS特許訴訟の裏側

2025年夏、産業用電源装置分野を揺るがすニュースが伝わった。東芝三菱電機産業システム(TMEIC)が、富士電機の無停電電源装置(UPS)製品が自社の特許を侵害しているとして、韓国において訴訟および輸入禁止の措置を求めた件である。韓国貿易委員会(KTC)は8月下旬、TMEICの主張を一部認め、富士電機製の特定UPSモデルについて韓国への輸入を禁止する決定を下した。日本企業同士の知財紛争が、国外で具...

「JIG-SAW、AI画像技術で米国特許を獲得へ 知財を武器にグローバル競争へ挑む」

はじめに:発表概要と意義 JIG-SAW(日本発の IoT / ソフトウェア/AI ベンチャーと理解される企業)は、米国特許商標庁から「コンピュータビジョン技術」に関する Notice of Allowance(特許査定通知) を取得した旨を、自社ウェブサイトおよびニュースリリースで公表しています。 具体的には、JIG-SAW は「コンピュータビジョン技術、画像処理・画像生成支援技術」分野において...

「特許で世界を包囲する中国 イノベーション強国への加速」

はじめに:なぜ国際特許出願数が注目されるか イノベーション(技術革新)の国際競争力を測る指標として、研究開発投資、論文発表数、特許出願数などが長らく注目されてきました。特に国際特許(例えば、特許協力条約 PCT 出願、あるいは各国出願による外国での保護を意図した出願)は、一国の発明・技術が国際市場を見据えて保護を志向していることを示すため、技術力だけでなく国際志向性の強さも反映します。 近年、中国...

「AI×知財が生む国産イノベーション ナレフルチャットの議事録特許が拓く未来」

2025年秋、CLINKS株式会社が提供する法人向け生成AIチャット「ナレフルチャット」が、議事録生成技術に関する特許を取得した。 このニュースは単なる技術発表にとどまらず、「AIが人の仕事の記録と知識をどう扱うか」という大きな変化の象徴でもある。 いま、AIは“人の代わりに考える”段階から、“人の思考を支える”段階へと進化している。 その中で、「会議をどう記録し、どう活かすか」は、企業の知的生産...

「日用品にも知財戦争 クレシア×大王製紙、“3倍巻き”特許訴訟の行方」

はじめに:争点と構図 日本製紙クレシア(以下「クレシア」)は、トイレットペーパーについて、従来品に比して「長さ3倍(長巻き)」としつつ実用性を保つ技術を有する特許を取得しており、これを背景に、同種製品を販売する大王製紙(以下「大王製紙」)に対し、製造・販売の差止めおよび約3,300万円の損害賠償を求めて訴訟を提起しました。 第1審(東京地裁)では、クレシアの請求は棄却され、大王製紙の製品がクレシア...

「ナノレベルの精度を支える静電チャック ― ウエハー温度均一化の秘密」

ウエハー温度を均一に保つ静電チャック ― 半導体製造を支える見えない精密技術 半導体製造の現場では、目に見えない高度な工夫が、日々の歩留まりや性能向上に直結しています。その代表例の一つが、静電チャック(Electrostatic Chuck, ESC)です。静電チャックは、半導体ウエハーをチャック面で静電力により吸着保持し、ナノメートル単位の加工を可能にする装置です。表面からはただの「吸着板」のよ...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る