パリオリンピック開幕!しかしマリー・アントワネットの物議を醸す演出とその権利関係とは?


2024年のパリオリンピックが華々しく開幕しましたが、開会式でのマリー・アントワネットの猟奇的ともとれる演出が物議を醸しています。

フランス革命時に処刑された王妃マリー・アントワネットのイメージを利用した演出が、多くの批判と議論を引き起こしました。そこで今回は、歴史的人物の知的財産とその扱いについて考察します。

開会式の物議

開会式でのマリー・アントワネットの演出は、豪華な衣装をまとった役者が彼女を象徴するキャラクターとして登場し、フランスの歴史と文化を象徴するシーンが描かれました。

しかし、フランス革命の象徴とも言える人物を用いたこの演出は、多くの人々にとって不適切であると感じられました。特に、革命の歴史的背景を考慮すると、この演出は一部の人々にとって侮辱的であると感じられたのです。

実際に、フランス王族の末裔であるシャルル=フィリップ・ドルレアン公爵がこの演出を批判し、「フランスに対する恥」と表現しています。彼は、マリー・アントワネットの処刑シーンを再現することは、革命の痛みと暴力を思い出させるものであり、オリンピックの平和と友愛の精神に反すると述べています。【※1】

歴史的キャラクターと知的財産の違い

歴史的キャラクターといわゆる知的財産(IP)を持つキャラクターの利用には、権利的な役割に大きな違いがあります。

知的財産(IP)キャラクターの場合

著作権および商標権:IPキャラクターは、著作権や商標権などの知的財産権によって保護されます。これにより、キャラクターの無断利用が制限され、権利者の許諾が必要となります。
商業的利用の管理:IPキャラクターの利用は、権利者によって厳密に管理されており、商業的な利用にはライセンス契約が必要です。

歴史的キャラクターの場合

著作権の対象外:歴史的キャラクターは、一般的には著作権の対象外とされます。これは、彼らが公共の財産であり、その利用は原則として自由であるためです。そのため、誰も特定の権利を有していないことが多いです。
法的制約の欠如:歴史的キャラクターに関しては、著作権や商標権のような具体的な法的保護が存在しないため、商業的利用や公共の場での利用に対する法的制約が少ないです。

マリー・アントワネットの名前やイメージは、数多くの映画や書籍、さらにはファッションブランドや化粧品に至るまで幅広く利用されています。例えば、映画『マリー・アントワネット』は彼女の生涯を描き、多くの人々に彼女の物語を伝えました。また、彼女の名前を冠した高級ブランドも存在し、その豪華さと優雅さを象徴する商品を提供しています。


マリーアントワネットの肖像画

しかし、歴史的キャラクターとしてのマリー・アントワネットには特定の権利者が存在せず、彼女のイメージや名前に対する法的保護はありません。これにより、誰もが彼女の名前やイメージを利用することが可能となります。したがって、オリンピックの開会式での彼女の演出も、法的には問題ありません。

しかしながら、歴史的キャラクターを利用する際には、法的対応と責任ある利用が求められます。具体的には、以下の点を考慮する必要があります

  • 歴史的背景の理解
    利用するキャラクターの歴史的背景や象徴する意味を十分に理解し、適切なコンテクストで利用することが重要です。
  • 商業的利用の制限
    特定の歴史的キャラクターが持つ文化的・歴史的価値を尊重し、商業的利用を適切に制限することが求められます。
  • 道徳的・倫理的配慮
    法的保護がない場合でも、歴史的キャラクターの利用に際しては、社会的な影響や道徳的・倫理的な配慮を考慮することが重要です。

企業やクリエイターは、歴史的キャラクターを利用する際に、上記の法的および責任ある利用の視点を踏まえて活動することが重要です。例えば、映画制作会社やブランドは、キャラクターの歴史的背景を尊重し、適切な方法で利用することを心がけるべきです。また、新しい商品やサービスを開発する際に、歴史的キャラクターを活用する際のガイドラインを策定することが求められます。

まとめ

歴史的キャラクターの知的財産としての利用は、今後も続くと考えられます。適切な法整備と責任ある利用の促進が求められる一方で、新たな技術やプラットフォームがその支援を可能にしています。国際的な法制度の調整や、責任ある利用のガイドラインの整備により、歴史的キャラクターの利用における問題を解決することが期待されます。

歴史的キャラクターの利用は、正しく行えば大きな価値を生み出します。しかし、その利用においては、歴史的背景や文化的価値を尊重し、責任を持つことが求められます。企業、法制度、技術、そして社会全体が協力して、この新たな課題に立ち向かうことが必要です。


※1:https://histoiresroyales.fr/prince-charles-philippe-pleure-honte-france-condamne-ceremonie-douverture-jeux-olympiques/


ライター

+VISION編集部

普段からメディアを運営する上で、特許活用やマーケティング、商品開発に関する情報に触れる機会が多い編集スタッフが順に気になったテーマで執筆しています。

好きなテーマは、#特許 #IT #AIなど新しいもが多めです。




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