中小企業 知財活用収益ランキング


はじめに

知的財産(知財)は、模倣品を排除するための「守りの盾」から、権利そのものを対価に変えて稼ぐ「攻めの武器」へと役割を移している。2025年度から2026年度にかけては、大学発ベンチャーによる大手企業への早期ライセンスアウト、半導体IPコアのライセンス供与、そして特許・意匠・商標を組み合わせた「知財ミックス」による価格支配権の確保という、性質の異なる複数の収益化モデルが同時に存在感を強めている。本レポートでは、これらのモデルのうち、知財そのものが直接収益に転化する度合いを重視して2026年の知財活用収益ランキングを体系化する。

総合ランキング【知財活用収益ベース・トップ5】

本ランキングでは、ライセンス料・ロイヤリティ・マイルストーンなど知財そのものを売買・ライセンスして得た収益を最上位に置き、特許で守られた製品やサービスの売上(知財を製品に組み込んで得る収益)はその次に位置づけた。知財が製造力・販売力を介さず直接収益化しているかどうかを、順位付けの第一基準としている。単位は億円。

順位

企業名(本社所在地)

知財収益(億円)

主な知財活用技術

第1位

株式会社坪田ラボ(東京都)

2.00

ライセンス供与型:近視・ドライアイ等の眼科・脳領域治療パイプラインの特許パッケージを、ジンズホールディングス、ロート製薬、仏Laboratoires Théaへ早期ライセンス

第2位

ディジタルメディアプロフェッショナル(東京都)

1.24

ライセンス供与型:画像処理・AI向け半導体IPコアのライセンス供与(IPコアライセンス事業のみを区分開示)

第3位

スリー・ディー・マトリックス(東京都)

76.2

製品売上増加型:自己組織化ペプチド技術による止血材・創傷治療材の特許製品化

第4位

カルナバイオサイエンス(兵庫県)

5.79

製品売上増加型:キナーゼ創薬プラットフォームを核にした創薬支援・創薬事業

第5位

サスメド(東京都)

3.08(年換算)

製品売上増加型:不眠障害治療用アプリ・治験DXシステムのソフトウェア知財

収益額だけを見ればスリー・ディー・マトリックスが突出するが、その収益源は特許で守られた製品の製造・販売であり、知財そのものへの対価ではない。これに対し坪田ラボとディジタルメディアプロフェッショナルは、知財という無形資産そのものがライセンス料・ロイヤリティという形で直接収益に転化しており、本レポートではこれをより重要な知財活用のかたちと位置づけて上位に置いた。なお、ティムス・DWTI・カイオム・バイオサイエンス等も知財のライセンス化を主軸とする企業とみられるが、決算短信・IR資料で正確な金額を確認できなかったため、本ランキングには含めていない。

業種別トレンド分析

創薬・医療分野(ライセンス供与型が主役)

慶應義塾大学医学部眼科発のベンチャーである坪田ラボは、令和7年度知財功労賞・経済産業大臣表彰(知財活用企業)を受賞している。

大学との共同研究から生まれた基礎技術を、学術論文の発表前に国内外で「コア特許」として権利化し、用途特許・製剤特許などの周辺特許群で技術パッケージ化したうえで大手パートナーへ早期ライセンスする「完全ファブレス」モデルを徹底しており、2026年3月期の売上高2.00億円はマイルストーン収入と契約一時金でほぼ構成されている。ただし前期の大型契約一時金の反動で売上高は前期比85.3%減となっており、知財起点の契約収益は単年度の振れ幅が大きい点も見て取れる。

半導体IP分野

ディジタルメディアプロフェッショナルは、2025年3月期の連結売上高30.77億円のうち、IPコアライセンス事業の売上高を1.24億円と区分開示している。アミューズメント市場向け画像処理半導体「RS1」を含む製品事業やロボティクス分野のサービス事業が全社売上の大半を占める一方、知財そのものの対価であるIPコアライセンス収入を切り分けて開示している点は、収益の中身を外部から検証できる数少ない事例である。

医療機器・創薬支援分野(知財を組み込んだ製品・プラットフォームで稼ぐ企業)

スリー・ディー・マトリックスは、MIT発の自己組織化ペプチド技術を核に止血材・創傷治療材を展開し、2026年4月期に売上高108.86億円・営業利益13.35億円で、上市製品による営業利益の黒字化を初めて達成した。米国での消化器内視鏡・耳鼻咽喉科領域の販売拡大が牽引役である。

カルナバイオサイエンスはキナーゼ創薬プラットフォームを軸に契約一時金・マイルストーン・ロイヤルティを受け取るモデルを掲げるが、2025年12月期は米欧の大口顧客における研究フェーズ移行で創薬支援事業の需要が低調となり、売上高5.79億円・営業損失20.74億円となった。

知財を保有すること自体と、それを継続的な収益に転化できるかは別問題であることを示す事例である。サスメドは不眠障害治療用アプリと治験DXシステムのソフトウェア知財を軸に、2026年6月期第3四半期累計の事業収益2.31億円(年換算3.08億円)を計上している。

ものづくり・生活雑貨分野(政府表彰企業の知財ミックス事例)

経済産業省・特許庁が毎年選定する知財功労賞の受賞企業には、特許・意匠・商標を多層的に組み合わせて模倣品を排除する「ものづくり」中小企業が並ぶ。大阪府の錦城護謨株式会社は令和7年度知財功労賞・特許庁長官表彰(デザイン経営企業)を受賞し、誘導マット「歩導くんガイドウェイ」等の特許・意匠取得と自社ブランド「KINJO JAPAN」(大阪・関西万博採用実績)で受託製造中心の事業構造からの転換に成功した。

岡本株式会社(大阪府)は令和7年度知財功労賞・経済産業大臣表彰(商標)を受賞し、靴下「ココピタ」シリーズの形状特許・意匠に加え商品名・パッケージまで商標登録を徹底し、大手ECプラットフォームでの商標権侵害を理由とした迅速なテイクダウンを可能にしている。

シヤチハタ株式会社(愛知県)は令和7年度知財功労賞・特許庁長官表彰(意匠)を受賞し、「Xスタンパー」のインキ残量確認窓を部分意匠として権利化するなど細部までの意匠権行使を徹底する。山崎実業株式会社(奈良県)は令和8年度知財功労賞・特許庁長官表彰(意匠)を受賞し、インテリア「tower」シリーズの意匠権網で高いブランド価値を維持している。

なお岐阜県の浅野撚糸株式会社は、特殊撚糸の製法特許とブランド「エアーかおる」の商標登録を組み合わせた知財ミックスの代表例として広く知られるが、本レポートの調査では知財功労賞の受賞は確認できなかった。

地域別の傾向

地域

傾向

東京都

坪田ラボ・ディジタルメディアプロフェッショナル・スリー・ディー・マトリックス・サスメドが集積。大学発ライセンスアウト型から半導体IP、医療機器の製品化まで、性質の異なる知財活用モデルが共存する

近畿(大阪府・奈良県・兵庫県)

錦城護謨・岡本・山崎実業によるデザイン経営・商標多重権利化での自社ブランド転換に加え、カルナバイオサイエンス(神戸市)の創薬支援プラットフォームが立地する

中部(愛知県・岐阜県)

シヤチハタ・浅野撚糸に代表される、特許×商標の多重ロックでプレミアム市場を守る伝統的なものづくり企業が中心

収益モデル別の成功例

ライセンス供与型:坪田ラボやディジタルメディアプロフェッショナルのように、自社技術を他社へライセンスし、マイルストーン・ロイヤルティ・ライセンス料として直接収益を得る。開発段階から収益化でき資本リスクを抑えられる一方、契約タイミング次第で単年度の売上が大きく変動する。ティムスやDWTIも導出・ロイヤリティ収入を中心とするこの型に該当するとみられるが、確定金額は一次資料で確認できていない。

エクイティ連動型:大学発ベンチャーが特許ライセンスの対価として新株予約権を取得し、株式公開や株式売却によって収益化する形態で、経済産業省の指針でも大学発ベンチャーにおける一般的な知財対価のあり方として位置づけられている。ただし本レポートで検証した候補企業の中に、この形態を主たる収益源として公開情報で確認できた事例はなかった。

製品売上増加型:スリー・ディー・マトリックス、カルナバイオサイエンス、サスメドのように、特許・技術基盤を製品やサービスに組み込み、その売上として収益化する。売上規模は大きくなりやすいが、知財の優位性がどこまで価格政策に転化できているかは製造・営業体制にも左右され、知財単体の収益力を示す指標としてはライセンス供与型に劣る。

現場の声と課題

錦城護謨株式会社(大阪府)は、単なる外観デザインの改善にとどまらず、自社の成形加工技術と社会課題解決(視覚障害者の移動支援等)を融合させる開発姿勢を、経営の中核に据えるデザイン経営として掲げている。

業界横断で見られる共通課題としては、以下が挙げられる。

  • 知財収益の算定方法・会計処理が企業ごとに異なり、外部からの比較可能性が低い
  • 権利化と事業化の間を橋渡しする専門人材が不足している
  • 海外出願・海外での権利行使にかかる費用負担が中小企業には重い
  • 知財の意義が「出願件数」で評価されがちで、契約イベント(NDA締結・PoC到達等)を収益指標として管理する体制が未整備な企業が多い

今後の展望と提言

中小企業が知財活用収益を伸ばすには、特許・商標・ノウハウを一枚の収益化マップに整理し、各事業部門に知財責任者を置いて出願承認や他社権利対応を開発現場主導で行う体制を築くこと、大企業・大学の未利用特許を導入するライセンスイン戦略を検討すること、J-PlatPatでの定点観測とINPIT知財総合支援窓口を活用して知財戦略を事業計画・海外展開と一体化させること、そして出願件数ではなくNDA締結数やPoC到達件数といった契約イベントを収益指標として管理することなど、包括的な取り組みが求められる。

技術力・デザイン・ブランドという無形の価値を、法的な権利という目に見える資産へと転換し、それを自社の製造・販売力に依存しない形でライセンスアウト・売買できる企業こそが、資本力に制約のある中小企業にとって収益を知財の価値に直接連動させる、2026年以降を生き抜く鍵となる。

参考リンク

  • 経済産業省・特許庁「令和7年度知財功労賞」受賞者発表(https://www.jpo.go.jp/news/koho/tizai_koro/2025_tizai_kourou.html)
  • 経済産業省・特許庁「令和8年度知財功労賞」受賞者発表(https://www.jpo.go.jp/news/koho/tizai_koro/2026_tizai_kourou.html)
  • 特許情報プラットフォーム J-PlatPat(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)
  • INPIT(工業所有権情報・研修館)知財総合支援窓口(https://www.inpit.go.jp/)
  • 前身記事:+VISION「中小企業 知財活用収益ランキング」(https://vision00.jp/report/中小企業-知財活用収益ランキング/)

※本レポートの知財収益は、各社が開示した2025〜2026年の決算短信・IR資料に基づく。ライセンス供与型の企業は開示金額をそのまま採用し、製品売上増加型の企業は直近の売上高・事業収益を、開示期間が12カ月に満たない場合は年換算のうえ掲載した。


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