Apple Watchに複数の特許侵害が見つかる


今回のコラムは、Apple Watchが特許侵害により米国国内で販売中止になったニュースを受けて、その詳細についてまとめたものです。

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2312/19/news095.html

販売停止は米国国際貿易委員会の勧告によるもの

今回の販売停止措置は、アメリカ合衆国国際貿易委員会(USITC)による「特定の光ベースの生理測定デバイスおよびその部品に関する調査」の最終決定を受けてなされたものです。この調査の報告書が以下にアップロードされていますので、その内容をまとめてみます。

https://cdn.arstechnica.net/wp-content/uploads/2023/10/USITC-ruling.pdf

調査の背景

この調査は、Masimo CorporationとCercacor Laboratories, Inc.による申立に基づいて2021年8月18日に開始されました。この申立では、特定の光ベースの生理測定デバイスとその部品が、複数の特許権を侵害していると主張されています。

Appleに対する決定

USITCは、Appleが複数の特許権を侵害していると判断しました。これにより、Appleまたは関連会社によって製造または輸入される、特定の特許クレームに該当する製品、つまりApple Watchの最新モデル(光ベースの脈拍酸素測定機能を持つウェアラブル電子デバイスとその部品)の無許可の輸入及び米国国内での販売を禁止する限定的な排除命令が発行されました。また、Appleに対する販売停止命令も発行されました。

調査の結果

調査の結果、Appleは、Masimo社による「User-worn device for noninvasively measuring a physiological parameter of a user (ユーザーが非侵襲的に生理的パラメータを測定するためのユーザー着用デバイス)」と題された特許、米国特許番号10,912,502の請求項22並びに28について、および、米国特許番号10,945,648の請求項12、24、30を侵害しているとの判断が下されました。
【米国特許番号10912502】https://patents.google.com/patent/US10912502B2
【米国特許番号10945648】https://patents.google.com/patent/US10945648B2

参考までに、特許番号10912502の請求項28の内容を日本語訳すると、以下のとおりとなります。

【請求項28】
ユーザーの酸素飽和度を非侵襲的に測定するように設定されたユーザー着用デバイスで、このユーザー着用デバイスは以下を含む:
第一のセットの発光ダイオード(LED)、この第一のセットのLEDは、少なくとも第一の波長で光を発するように設定されたLEDと、第二の波長で光を発するように設定されたLEDを含む;
第一のセットのLEDから離れた位置に配置された第二のセットのLED、この第二のセットのLEDは、少なくとも第一の波長で光を発するように設定されたLEDと、第二の波長で光を発するように設定されたLEDを含む;
ユーザーの組織によって光の少なくとも一部が減衰された後に光を受信するように設定された、ユーザー着用デバイスの内側表面に四角形配置で配置された四つのフォトダイオード;
温度信号を提供するように設定されたサーミスター;
内側表面の上に配置された突起で、この突起は以下を含む:

凸面;
凸面における複数の開口部で、これらは突起を通って伸び、四つのフォトダイオードと整列しており、各開口部は光のパイピングを減少させるように設定された不透明な表面によって定義される;
複数の透過窓で、各透過窓は異なる開口部を横切って伸びる;
内側表面と突起の間に伸びる少なくとも一つの不透明な壁で、少なくとも内側表面、不透明な壁、および突起は空洞を形成し、フォトダイオードは内側表面上の空洞内に配置される;
少なくとも一つのフォトダイオードからの一つまたは複数の信号を受信し、ユーザーの酸素飽和度測定を計算するように設定された一つまたは複数のプロセッサで、これらのプロセッサはさらに温度信号を受信するように設定される;
モバイルフォンまたは電子ネットワークの少なくとも一つに酸素飽和度測定を無線で通信するように設定されたネットワークインターフェース;
タッチスクリーンディスプレイを含むユーザーインターフェースで、このユーザーインターフェースはユーザーの酸素飽和度測定に応答して表示内容を表示するように設定される;
少なくとも測定を一時的に保存するように設定された記憶装置;および
ユーザーにユーザー着用デバイスを位置づけるように設定されたストラップ。

請求項の内容をみて明らかなように、ソフトウェアによる侵害ではなく、メカニカルな部分を含むデバイス自体が侵害を構成していると考えられるため、AppleがApple Watchのソフトウェア・アップデート等によってこの特許を回避することは困難ではないかと推測されます。Appleにとっては手痛い判断がなされましたが、今後の推移から目が離せない状況


ライター

+VISION編集部

普段からメディアを運営する上で、特許活用やマーケティング、商品開発に関する情報に触れる機会が多い編集スタッフが順に気になったテーマで執筆しています。

好きなテーマは、#特許 #IT #AIなど新しいもが多めです。




Latest Posts 新着記事

「しなやかでタフ」なカルコパイライト太陽電池の進化戦略

はじめに 太陽光パネルといえば、重くて硬いシリコン製を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし今、次世代技術として「カルコパイライト太陽電池」が静かにその存在感を高めています。 「曲がる太陽電池」カルコパイライトとは? カルコパイライト太陽電池は、銅(C)、インジウム(I)、ガリウム(G)、セレン(S)などを原料とする化合物系の薄膜太陽電池です。これらの構成元素の頭文字をとって「CIGS(シグス)」と...

連邦政府が大学の特許収入を狙う トランプ政権の新方針が波紋

はじめに 米国の大学は、研究開発活動を通じて得られる特許収入を重要な財源としてきました。大学の特許収入は、新しい技術の商業化やスタートアップ企業の設立に活用され、イノベーションの促進に直結しています。しかし、トランプ政権下で、連邦政府が大学の特許収入の一部を請求する方針が検討されており、大学の研究活動やベンチャー企業の育成に対する影響が懸念されています。 特に米国は、大学発ベンチャーの育成や産学連...

脱石炭から技術輸出へ:中国が描くクリーンエネルギーの未来

21世紀に入り、世界各国が環境問題やエネルギー安全保障への対応を迫られるなか、中国はクリーンエネルギー分野で急速に存在感を高めてきた。とりわけ再生可能エネルギー技術、電気自動車(EV)、蓄電池、送配電網、そしてグリーン水素などの分野において、中国は「追随者」から「先行するイノベーター」へと変貌を遂げつつある。なぜ中国が短期間でこのような飛躍を実現できたのか。その背景には、国家戦略、産業政策、市場規...

世界のAI特許6割を握る中国 5G・クラウドを基盤に国際競争を主導

近年、中国はデジタル経済の拡大と技術革新を国家戦略の中核に据え、AIや5G、クラウド、データセンターといった基盤技術において世界を牽引する存在となっている。その象徴的な事実として注目されるのが、人工知能(AI)に関する特許出願件数である。国際特許機関の最新統計によれば、中国からのAI関連特許は世界全体の約6割を占め、米国や欧州、日本を大きく上回る圧倒的なシェアを記録している。 本稿では、中国がいか...

AgeTech知財基盤を強化――パテントアンブレラ(TM)が累計41件出願、AI特許も追加

高齢社会の進展に伴い、健康維持、生活支援、介護軽減を目的としたテクノロジー領域「AgeTech(エイジテック)」への注目がかつてないほど高まっている。その中で、知的財産を軸に事業競争力を高める取り組みが活発化しており、今回、独自の「パテントアンブレラ(TM)」戦略を進める企業が、AI関連特許を含む29件の新規出願を追加し、累計41件の特許出願を完了したと発表した。これにより、類型141件の機能をカ...

フォシーガGE、特許の壁を突破 沢井・T’sファーマの挑戦

2025年9月、日本の医薬品市場において大きな話題を呼んでいるのが、SGLT2阻害薬「フォシーガ(一般名:ダパグリフロジン)」の後発医薬品(GE、ジェネリック)の登場である。糖尿病治療薬の中でも売上規模が大きく、近年では慢性腎臓病や心不全の領域にも適応拡大が進んだフォシーガは、アストラゼネカの主力製品のひとつである。その特許の“牙城”を突破し、ジェネリック医薬品の承認を獲得したのが沢井製薬とT&#...

電池特許はCATLだけじゃない――AI冷却から宇宙利用まで、注目5大トピック

近年、知的財産の世界では、特定の企業やテーマに関心が集中しやすい傾向がある。中国・CATLの電池特許戦略や、AIをいかに効率的に冷却するかといったテーマは、テクノロジー産業の今を象徴するキーワードだ。しかし同時に、その裏側には見落とされがちな知財動向や、将来を左右しかねない新しい潮流が潜んでいる。本稿では、「電池特許CATL以外にも」「特集AIを冷やせ」を含め、いま注目すべき5本のトピックを整理し...

バックオフィス改革へ ミライAI、電話取次自動化で特許取得

AI技術の進化が加速するなか、企業のバックオフィスや顧客対応の現場では「省人化」「自動化」をキーワードとした取り組みが急速に広がっている。その中で、AIソリューションを展開するミライAI株式会社は、従来の電話取次業務を人手に頼ることなく「完全無人化」するための技術を開発し、特許を取得したと発表した。この技術は、音声認識・自然言語処理・対話制御を組み合わせ、従来課題とされてきた「誤認識」「取次精度の...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る