X JAPANが保有する「X」の商標と、Twitterの社名変更の「X」との関係についての考察

知的財産権の専門家、弁理士の杉浦健文(パテ兄®)です。

先日、世界的有名バンドのX JAPAN のYOSHIKIさんは、X社(イーロン・マスク氏)がTwitterの社名を「X」にするとのことを受けて、以下の文章をSNS上に投稿しました。

そこで、今回はこの問題について考察していきます。

1.X JAPANが保有する「X」の商標

(1) 商標法の規定

商標法によると、商標法第3条第1項第5号には、「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」は商標登録できないと規定されています。

ではどういう商標が、これに該当するかは法律上、例示も規定もされていません。特許庁は商標審査基準というものに具体的な内容を規定しています。

(2) 商標審査基準の規定

この商標審査基準をみますと、商標法第3条第1項第5号の「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」に該当するものとして、審査基準には以下の通り記載されています。

参考:商標審査基準

(ア) 数字について

数字は、原則として、「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当する。

(イ) ローマ字について

① ローマ字の1字又は2字からなるもの
② ローマ字の2字を「-」で連結したもの

したがって、「アルファベット1文字」は原則、商標登録できません。つまり、単純な「X」の文字は商標登録できません。

(3)「ありふれた」どうかの判断

審査基準上は、「・・・ありふれた標章」と規定されていますので、「ありふれて」いないといえるようでしたら、この規定に該当しないため、商標登録されます。

本事案で考察対象となるX JAPANのロゴは、単純な「X」(一般的なフォントで記載されたX)ではなく、デザイン化、図形化された「X」で、これはおそらくX JAPANがオリジナルにデザインしたものと思われます。」

このような「Xのロゴ」のように、デザイン化、図形化の要素が強ければ、そのデザイン的な要素が加味されていれば、審査基準上は、「・・・ありふれた標章」とまでは言えなくなってきます。

そうすると、「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」に該当せず、第3条第1項第5号の規定に該当せずに、他の要件を満たす限り、商標登録されます。したがって、XJAPANの商標が登録されているのは、このような解釈がされたからです。

2.Twitterの社名変更の「X」との関係

原則、「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」が、デザイン化、図形化されて商標登録されたものは、このデザイン、図形的な要素も類似範囲(権利範囲)の一部と解釈されます。

つまり、単純な文字で「X」と表示していてもダメで、商標登録されているデザイン・図形的な要素を採用していないと、他社の商標との関係では類似にはなり得ません。

Twitterの社名変更の「X」は、XJAPANの「X」とはデザイン・図形的な要素が異なるため、日本で商標出願した際にも、非類似で登録される可能性があります。

さらに、権利行使する場合も同様に、デザイン・図形的な要素が異なるため、非類似の商標として侵害が認められない可能性があります。

(1)XJAPAN(YOSHIKI氏)の取り得る措置

もし、XJAPAN(YOSHIKIさん)がイーロン・マスクさんの「X」の商標登録をやめさせたいと考えているならば、例えば、XJAPANの「Xのロゴ」が世界的有名で、混同が生じるなどを理由に、X社(イーロン・マスク氏)の「X」の申請に対して、情報提供や異議申立をすることになります。

(2)XJAPAN(YOSHIKI氏)の「X」のロゴの権利拡大

念のために、XJAPANの「X」だけのロゴを、SNSに関係する区分を追加するのをおすすめする。例えば、9類,35類、38類,42類、45類などについて、追加で商標出願してもらいたい。


ライター

杉浦 健文

パテ兄

特許事務所経営とスタートアップ企業経営の二刀流。

2018年に自らが権利取得に携わった特許技術を、日本の大手IT企業に数千万円で売却するプロジェクトに関わり、その経験をもとに起業。 株式会社白紙とロックの取締役としては、独自のプロダクト開発とそのコア技術の特許取得までを担当し、その特許は国際申請にて米国でも権利を取得、米国にて先行してローンチを果たす。 その後、複数の日本メディアでも取り上げられる。

弁理士としてはスタートアップから大手企業はもちろん、民間企業だけではなく、主婦や個人発明家、大学、公的機関など『発明者の気持ち、事業家の立場』になり、自らの起業経験を生かした「単なる申請業務だけでない、オリジナル性の高い知財コンサル」まで行っている。

■日本弁理士会所属(2018年特許庁審判実務者研究会メンバー)
■株式会社白紙とロック取締役
■知的財産事務所エボリクス代表
■パテント系Youtuber