神秘の健康力❝にんじんちゃん❞の特許技術を調査


昨年から、東京都営バスや大阪シティバスのラッピング広告で、「神秘の健康力」と銘打った高麗人参のマスコット「にんじんちゃん」のバスが走っているのを見かけた方、いらっしゃいますか?

赤いバスで、東京では新橋~六本木経由~渋谷を走行しています。大阪では梅田、なんば、新大阪、京橋などの繁華街やオフィス街を中心に走っているようです。この広告、ちょっとあやしげ?という第一印象を持ってしまったのですが、よく見ると「特許商品」との文字がありました。神秘の健康力が特許で守られているのか?と少し興味を持ちましたので、早速どのような特許技術が使われているのか、調べてみることとしました。

東京を走るにんじんちゃんバス。なお、後ろに見える建物は特許庁です。

広告の内容から、出願人は「金氏高麗人参株式会社」であると予想し、取得している特許を調べてみますと、特許6209304号(2017年9月15日登録)が見つかりました。

発明の名称は「ジンセノサイド組成物」という聞き慣れない名前です。

【特許6209304号】

要約には発明の課題として「経口用の組成物や身体関連の非経口用の組成物の用途に有用な薬用人参由来のジンセノサイド組成物を提供することを目的とする」とあります。

明細書の記載を見ると、どうやら「ジンセノサイド組成物」を効率的に抽出し、その有効成分によって疾病や美容に関して悩みを抱えている人々の助けになるのではないか、というのが発明の動機のようです。思いのほか、ちゃんとしていました……。

発明の内容はかなり難解で、当初予想していた「ちょっとあやしげ」なんていう印象は皆無です。大変失礼いたしました。本コラムでは少々かいつまんで、なるべく平易に説明をいたします。

まず、ジンセノサイド組成物って何なのか

本発明を理解するにあたって、ジンセノサイド組成物とは何なのか、これだけは基礎知識が必要です。ジンセノサイド組成物は、薬用人参の有効成分であるサポニンのことなのですが、現在40種類以上のジンセノサイド組成物が知られています。

このうち、「ジオール系」と分類されるジンセノサイド組成物のうち、特に「CK」と「XVII」という組成物は薬効が高く、CKは抗癌活性、糖尿病の改善、肝臓保護効果などが報告されています。XVIIは細胞の抗酸化作用を高め、活性酸素による細胞傷害を抑制し、抗アルツハイマーの作用があることがわかっています。

しかし、薬用人参の成分を直接調べても、このCKとXVIIは検出されないのです。実は、薬用人参の成分が人の腸内微生物によって分解されてはじめて生成するという物質なのです。ところが、人の腸内環境は様々で、薬用人参の成分を分解することができない人は4人に1人いるとのことで、そのような人はいくら薬用人参を摂取してもその効果を得られないということが問題でした。

CKとXVIIの2成分の相乗効果が重要だった

さらに、CKとXVII、それぞれの薬効は様々な研究者から報告がありましたが、これらを単独で使用しても、思ったほどの効果は得られないものでした。発明者らは、CKに対してXVIIが0.5~1.0重量%含有している比率の組成物を用いることで、特別に優れた効果が得られることを見出しました。例えば美容クリームに配合した場合には肌の弾力性改善効果や明度改善効果、錠剤に配合した場合には不眠改善効果などが得られたのです。

このような2成分系の組成物を取得するために、発明者らは高麗人参のエキスを原料として、βグルコシダーゼという酵素を用いて2段階の分解反応を行わせ、適切な割合の組成物を得ることに成功しました。

以上のような、論理的な試験と考察、そして科学的に証明される効能を見ると、ちょっと買ってみようかな、試してみようかなと思いますね。バスのラッピング広告だけではなんかうさんくさい(失礼)と思ってしまったのですが、特許の内容を調べてみると、さすが特許になるだけの技術だな、と納得しました。

大きなお世話だとは思いますが、このような技術的な部分も宣伝すれば、もっと売れ行きが伸びるかもしれませんよ!



Latest Posts 新着記事

GE薬促進の陰で失われる特許の信頼性―PhRMAが警告する日本の制度的リスク

2025年4月、米国研究製薬工業協会(PhRMA)が日本政府に提出した意見書が、医薬業界および知財実務者の間で波紋を呼んでいる。矛先が向けられたのは、ジェネリック医薬品(GE薬)に関する特許抵触の有無を判断する「専門委員制度」だ。PhRMAはこの制度の有用性に疑問を呈し、「構造的な問題がある」と批判した。 一見すれば、専門家による中立的判断制度は知財紛争の合理的解決に寄与するようにも思える。だが、...

破産からの逆襲―“夢の電池”開発者が挑む、特許逆転劇と再出発

2025年春、かつて“夢の電池”とまで称された次世代蓄電技術を開発していたベンチャー企業が、ついに再建を断念し、破産に至ったというニュースが駆け巡った。だが、そのニュースの“続報”が業界に波紋を呼んでいる。かつて同社を率いた元CEOが、新会社を設立し、破産企業が保有していた中核特許の“取り戻し”に動き出しているのだ。 この物語は、単なる一企業の興亡を超え、日本のスタートアップエコシステムにおける知...

サンダル革命!ワークマン〈アシトレ〉が“履くだけ足トレ”でコンディションまで整うワケ

「サンダルなのに快適」「履いた瞬間にわかる」「この値段でこれは反則級」――こうした驚きと称賛の声が続出しているのが、ワークマンの〈アシトレサンダル〉だ。シンプルな見た目に反して、履き心地・健康効果・歩行補助といった多面的な機能を備える同製品は、単なる夏の室内履き・外出用サンダルという枠を超えて「履くことで整う道具」として注目されつつある。 このコラムでは、アシトレサンダルの具体的な機能や構造だけで...

斬新すぎる中国製“センチュリーMPV”登場!アルファード超えのサイズと特許で快適空間を実現

中国の高級ミニバン市場に、新たな主役が登場した。GM(ゼネラルモーターズ)の中国ブランド「ビュイック(Buick)」が展開するフラッグシップMPV「世紀(センチュリー/CENTURY)」は、その名の通り“100年の誇り”を体現する存在だ。日本の高級ミニバンの代名詞・トヨタ「アルファード」をも超えるボディサイズに、贅沢を極めた2列4人乗りの内装、そして快適性を徹底追求した独自の“特許技術”が組み込ま...

実用のドイツ、感性のフランス──ティグアン vs アルカナ、欧州SUVの進化論

かつてSUVといえば、悪路走破性を第一義に掲げた無骨な4WDが主役だった。しかし今、欧州を中心にSUVの在り方が劇的に変化している。洗練されたデザイン、都市部での快適性、電動化への対応、そしてブランドの哲学を反映した個性の競演。そんな潮流を牽引するのが、フォルクスワーゲン「ティグアン」とルノー「アルカナ」だ。 この2台は単なる競合ではない。それぞれ異なる立ち位置とブランド戦略を背景に、「欧州SUV...

戦略コンサルはもういらない?OpenAI『Deep Research』の衝撃と業界の終焉

OpenAI「Deep Research」のヤバい背景 2025年春、OpenAIがひっそりと発表した新プロジェクト「Deep Research」。このプロジェクトの正体が徐々に明らかになるにつれ、コンサルティング業界に戦慄が走っている。「AIは単なるツールではない」「これは人間の知的職業に対する“本丸攻撃”だ」とする声もある。中でも、戦略コンサル、リサーチアナリスト、政策提言機関など、いわゆる“...

老化研究に新展開——Glicoが発見、ネムノキのセノリティクス作用を特許取得

はじめに:老化研究の新潮流「セノリティクス」 近年、老化そのものを「病態」と捉え、その制御や治療を目指す研究が進んでいる。中でも注目されるのが「セノリティクス(Senolytics)」と呼ばれるアプローチで、老化細胞を選択的に除去することで、慢性炎症の抑制や組織の若返りを促すというものだ。加齢とともに蓄積する老化細胞は、がんや糖尿病、心血管疾患、認知症といった加齢関連疾患の引き金になるとされ、これ...

EXPO2025に見る「知と美」の融合──イタリア館が描く未来の肖像

2025年大阪・関西万博(EXPO2025)が近づくなか、多くの国が自国の強みをテーマにパビリオンを構築している。イタリアといえば、多くの人が思い浮かべるのは、パスタやピザ、ワインといった「食」、アルマーニやプラダ、グッチなどの「ファッション」だろう。しかし、イタリアの真の魅力はそれだけではない。今回の万博では「もうひとつのイタリア」、すなわち高度な技術力と伝統文化、そして未来志向の融合が強く打ち...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

大学発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る