ARを利用した溶接技術訓練システム!?


溶接訓練

AR(拡張現実)を利用した溶接技術訓練システム!?

ARを利用した溶接技術訓練システム!?

工場や造船所、建設現場において、熟練した溶接工の存在はとても重要です。
溶接工のようなエッセンシャルワーカーは、世の中に必要不可欠である反面、比較的早期に退職してしまう傾向にあり、従来のような指導員による溶接工訓練だけでは技術の習得が遅くなってしまいます。長年にわたって、このような訓練と合わせてより効率的な訓練を行う手法やツールが必要とされてきました。
そこで、遠隔指導を含む溶接訓練のためのシステムが新しく開発されました。訓練は、所定の訓練プロセス(例えば高等専門学校の溶接コースなど)に基づいて、このコースに合格すること等を目的に進められます。これらのコースは①自動音声指導、②指導員支援の音声指導、③移行形態フィードバック、④拡張現実による溶接レンダリングからなります。これらの訓練はリモートで行われ、訓練生の横に指導員が立ち会う必要はありません。最終的な拡張現実による指導においては、マイクと透過VRディスプレイが備えられた溶接ヘルメットを使用します。これにより、訓練生の透過ディスプレイにアーク溶接に必要な溶融池の形状及び位置が示されます。
最終的には、訓練演習の終了時に、溶接パフォーマンスを評価され、合格・不合格が決定されるという仕組みです。
若年人口の減少が避けられない日本社会においては、このような遠隔指導による技術習得が必須となってくるのでしょうね。

■従来の課題

本件発明は溶接工の訓練システム、および訓練方法に関するものです。

近年、工場、造船所、建設現場などの製造業界では熟練した溶接工が不足しています。そのため、製造業界では溶接工を確保するため、従来型の指導員による溶接工訓練と合わせ、より効率的な溶接工訓練技術の開発が渇望されています。しかし、溶接作業の大半を占める手作業の出来栄えを追跡することができるツールが不足しているのが現状です。

■本発明の効果

本件発明は、溶接訓練生による実際の手作業によって生成されたデータをリアルタイムで取り込み、処理、表示することによって、効率的に溶接工を訓練することができ訓練システム、およびその訓練システムを用いた訓練方法を提供するものです。

■特許請求の範囲のポイントなど

本件発明における訓練システムは、ハードウェア、ソフトウェアの両方を含む溶接訓練装置を用い、選択された規定の訓練目標に基づくカリキュラムに従って、実際に実効される訓練演習から得られるリアルタイムデータを収集し、溶接品質データに基づいて訓練生のパフォーマンスを評価し、パフォーマンス評価に基づいて任意選択的にカリキュラムを適応させ、カリキュラムの終了後に資格証明、認証等を訓練生に授与することを特徴としています。

■全体構成

本件発明の溶接システムについて説明します。溶接システムは、(a)データ生成コンポーネント、(b)データ取り込みコンポーネント、及び(c)データ処理コンポーネントで構成されます。
(a) データ生成コンポーネントは、
(i)寸法形状特性が予め決まっている設備と、
(ii)溶接される少なくとも1つの接合部を含み、前記接合部に沿って延在するベクトルが作業経路を画成し、前記設備に取り付けられる母材と、
(iii)較正装置であって、該較正装置は、該較正装置と一体型の少なくとも2つの第1のポイントマーカを含み、該第1のポイントマーカと前記作業経路との間の寸法形状関係は予め決まっている較正装置と、
(iv)溶接工具であって、前記接合部において溶接を形成するよう動作し、工具ポイント及び工具ベクトルを画成し、前記溶接工具には前記溶接工具に取り付けられる対象を含み、前記対象は所定のパターンで前記対象に取り付けられる複数の第2のポイントマーカを含み、前記第2のポイントマーカの所定パターンは、剛体を画成するよう動作する溶接工具とで構成されます。
(b)データ取り込みコンポーネントは、前記第1のポイントマーカ及び前記第2のポイントマーカの少なくとも一方の画像を取り込むための撮像システムを含みます。
(c)データ処理コンポーネントは、前記データ取り込みコンポーネントから情報を受信し、
(i)前記撮像システムによって視認できる三次元空間に対する前記作業経路の位置及び向きと、
(ii)前記剛体に対する前記工具ポイントの位置及び前記工具ベクトルの向きと、
(iii)前記作業経路に対する前記工具ポイントの位置及び前記工具ベクトルの向きと、を計算するよう動作します。
次に、このような溶接システムを用いた、訓練目標の選択から開始して溶接資格証明の獲得で終了する手溶接訓練の方法について、図1のフロー図を用いて説明します。
まず初めのステップとして、訓練目標を選択します(ステップ110)。選択される目標は、産業溶接工訓練規格(例えば、米国溶接協会(AWS)D1.1)や、認可された溶接施工要領(WPS)、または、特定レベルの溶接品質(例えば、ビードサイズ、凸性、欠陥形成、溶接ビード抱き合わせ、等)に関連付けることができます。
次のステップとして、ステップ110で選択された訓練目標に基づいて、ユーザーを指導する仮想カリキュラムが生成されます(ステップ120)。このカリキュラムは訓練の開始時に初期化され、プロセス全体を通してユーザーに適合されます。
その後、訓練演習の実行(ステップ130)、リアルタイムフィードバック支援(ステップ140)、パフォーマンス評価(ステップ150)、パフォーマンスに基づくカリキュラムの適応または変更(ステップ160)のシーケンスを繰り返します。 最終的な目標が満たされると(ステップ155)、ユーザは所望の資格証明を獲得(ステップ170)し、カリキュラムを「卒業」します。

【図1】

■細部

各ステップの詳細について説明します。
ステップ110の訓練目標の選択は、個々の、または一連の訓練目標を選択することができます。これは、システムのエンドユーザーに基づいて変化させることができます。代表的な訓練のための環境、およびそれぞれの目標を表1にまとめました。

【表1】

次に、ステップ120では、ステップ110で選択された訓練目標に基づいて、溶接手順を習得するための1つ以上のタスクから構成されるカリキュラムが生成されます。ここではカリキュラムは溶接施工要領を習得するよう進捗します(図3参照)。溶接施工要領は、表2に示す形態変動要素、表3に示す実行変動要素の観点から特定の溶接手順を説明しています。図4は横向き姿勢におけるGMAWすみ肉溶接のための溶接施工要領の例です。

【図3】

【表2】

【表3】

【図4】

次に、生成されたカリキュラムが開始され、ステップ130で訓練演習が実行されます。訓練演習はアーク(放電)をOFFにした状態とONにした状態で行うことができ、始め、溶接工としての適正が入門レベルの時にはアーク(放電)をOFFにした状態で行われ、そこから技術の向上がシステムによって認められると、アークをONにした状態に以降することができます。
ステップ140では、ユーザーはリアルタイムフィードバックメカニズムを活用することができます。リアルタイムフィードバックメカニズムは図6に示す通りです。リアルタイムフィードバックコンポーネント600は、演習が開始される(ステップ610)と、実行変動要素を測定(ステップ620)し、演習の終了(ステップ630)または、パフォーマンスの評価(ステップ640)に進みます。パフォーマンスの評価ではパフォーマンスが測定、解析され、フィードバックがリアルタイムにユーザーに生成され(ステップ650)、再び実行変動要素が測定され、演習が終了するまで繰り返します。

【図6】

ステップ130の訓練演習が終了すると、ステップ150でパフォーマンスを評価する機会が与えられます。パフォーマンス評価の種類は、訓練ゴールの順守、認可手順必須変動要素の順守、変動性順守、溶接品質仕様の順守、標準化認証仕様の順守、相対的個体数との比較、経時的なパフォーマンス、労働倫理、または、パフォーマンスの他の要因および対策などがあります。
そして、ステップ160では、生徒がある特定の変動要素に苦労していることを認識すると、自動的に変動要素に重点を置いた個別指導を提供します。すなわち、カリキュラムが適応されます。例えば、生徒の移動速度が常に速すぎる場合には、速度を安定させるための姿勢に関する個別指導などに重点を置くようにカリキュラムを適応します。
すべての訓練目標が完了すれば、訓練における最終段階と認識され、ステップ170で訓練生は資格証明を獲得し、訓練が終了します。
以上ご説明しましたとおり、本発明の訓練システムは、実際に手作業で行われる溶接作業によって生成されたデータをリアルタイムで取り込み、訓練に役立つ情報をリアルタイムに訓練生にフィードバックすることができるため、より効率的に溶接工を訓練することができるため、製造業界における溶接工不足の憂いを解消してくれます。

■概要

出願国:日本 発明の名称:手溶接訓練のためのシステム及び方法
出願番号:特願2016-569029(P2016-569029)
特許番号:特許第6687543号(P6687543)
出願日:2015年5月29日
公開日:2016年7月06日
優先権主張番号:US14/293,700
優先日:2014年6月02日
登録日:2020年4月06日
出願人:リンカーン グローバル、インコーポレイテッド
経過情報:2020年4月6日に特許登録がなされ、現在も登録は維持されています。特許存続期間の満了日は2035年5月29日となっています。
その他情報:2014年6月2日の米国特許出願を基礎として国際出願がされたものです。日本のほか、米国、欧州、中国、韓国、加国で特許登録となっています。
IPC:G09B9/00、G09B19/00

<免責事由>
本解説は、主に発明の紹介を主たる目的とするもので、特許権の権利範囲(技術的範囲の解釈)に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解を示すものではありません。自社製品がこれらの技術的範囲に属するか否かについては、当社は一切の責任を負いません。技術的範囲の解釈に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解については、特許(知的財産)の専門家であるお近くの弁理士にご相談ください。


Latest Posts 新着記事

11月に出願公開されたAppleの新技術〜PCに健康状態センサーをつけるとどうなるのか〜

はじめに もし、あなたが毎日使っているノートパソコンが、仕事や勉強をしながらそっとあなたの健康状態をチェックしてくれるとしたら、どう思いますか? これまで、私たちが使ってきたノートパソコンのような電子機器には、ユーザーの体調をモニターするような高度なセンサーはほとんど搭載されていませんでした。Appleから11月に出願公開された発明は、その常識を覆す画期的なアイデアです。キーボードの横にある、普段...

AI×半導体の知財戦略を加速 アリババが築く世界規模の特許ポートフォリオ

かつてアリババといえば、EC・物流・決済システムを中心とした巨大インターネット企業というイメージが強かった。しかし近年のアリババは、AI・クラウド・半導体・ロボティクスまで領域を拡大し、技術企業としての輪郭を大きく変えつつある。その象徴が、世界最高峰AI学会での論文数と、半導体を含むハードウェア領域の特許出願である。アリババ・ダモアカデミー(Alibaba DAMO Academy)が毎年100本...

翻訳プロセス自体を発明に──Play「XMAT®」の特許が意味する産業インパクト

近年、生成AIの普及によって翻訳の世界は劇的な変化を迎えている。とりわけ、専門文書や産業領域では、単なる機械翻訳ではなく「人間の判断」と「AIの高速処理」を組み合わせた“ハイブリッド翻訳”が注目を集めている。そうした潮流の中で、Play株式会社が開発したAI翻訳ソリューション 「XMAT®(トランスマット)」 が、日本国内で翻訳支援技術として特許を取得した。この特許は、AIを活用して翻訳作業を効率...

特許技術が支える次世代EdTech──未来教育が開発した「AIVICE」の真価

学習の個別最適化は、教育界で長年議論され続けてきたテーマである。生徒一人ひとりに違う教材を提示し、理解度に合わせて学習ルートを変化させ、弱点に寄り添いながら伸ばしていく理想の学習プロセス。しかし、従来の教育現場では、教師の業務負担や教材制作の限界から、それを十分に実現することは難しかった。 この課題に真正面から挑んだのが 未来教育株式会社 だ。同社は独自の AI学習最適化技術 で特許を取得し、その...

抗体医薬×特許の価値を示した免疫生物研究所の株価急伸

東京証券取引所グロース市場に上場する 免疫生物研究所(Immuno-Biological Laboratories:IBL) の株価が連日でストップ高となり、市場の大きな注目を集めている。背景にあるのは、同社が保有する 抗HIV抗体に関する特許 をはじめとしたバイオ医薬分野の独自技術が、国内外で新たな価値を持ち始めているためだ。 バイオ・創薬企業にとって、研究成果そのものだけでなく 知財ポートフォ...

農業自動化のラストピース──トクイテンの青果物収穫技術が特許認定

農業分野では近年、深刻な人手不足と高齢化により「収穫作業の自動化」が急務となっている。特に、いちご・トマト・ブルーベリー・柑橘など、表皮が繊細な青果物は人の手で丁寧に扱う必要があり、ロボットによる自動収穫は難易度が極めて高かった。そうした課題に挑む中で、株式会社トクイテンが開発した “青果物を傷付けにくい収穫装置” が特許を取得し、農業DX領域で大きな注目を集めている。 今回の特許は単なる「収穫機...

<社説>地域ブランドの危機と希望――GI制度を攻めの武器に

国が地理的表示(GI:Geographical Indication)保護制度をスタートしてから10年が経つ。ワインやチーズなど農産物を地域の名前とともに保護する仕組みは、欧米では産地価値を国境を越えて守る知財戦略としてすでに大きな成果を上げてきた。一方、日本でのGI制度は、導入から10年が経った今ようやくその重要性が幅広く認識される段階に差し掛かったと言える。 農林水産省によれば、2024年時点...

保育データの構造化とAI分析を特許化 ルクミー「すくすくレポート」技術の本質

保育業界におけるDXが本格的に進む中、ユニファ株式会社が展開する「ルクミー」は、写真・動画販売や登降園管理、午睡チェックシステムなどを通じて保育の可視化と効率化を支えてきた。その同社が開発した 保育AI™「すくすくレポート」 が特許を取得したことは、保育現場のデジタル化における大きな節目となった。 「すくすくレポート」は、子どもの日々の成長・発達をAIが分析し、保育士の観察記録を補助...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る