岡山大学、特許技術をベースにAIを用いた果物・野菜収穫用空間センサーの開発に成功


国立大学法人岡山大学(本部:岡山市北区、学長:那須保友)の岡山大学発ベンチャーの株式会社ビジュアルサーボ(岡山大学の見浪護特命教授(研究)が起業)は、ステレオビジョンを用いた空間計測について研究を続け、任意対象物の3次元位置姿勢を計測するコンピュータビジョン構築に成功し、泳ぐ魚の寸法計測などを行ってきた。

この画像計測方法は、左右複眼カメラに同じ対象物が写っていれば、その位置・姿勢・寸法の計測が可能であるという特徴があり、そのアイデアは、ビジュアルサーボ所有の特許6784991、6760656ですでに権利化されている。今回、AI手法を用いた画像処理方法により、野菜や果物などの任意不定形対象物でも、位置・寸法の計測が可能となったことを、23年11月11日プレスリリースで公表した。

農業用ロボットは、屋外の光環境が変化しても計測結果が変化しない計測特性が求められ、性能を確認するために野菜、果物、日用品を16種用意し、寸法を実測すると共に、屋外の日向(照度約52,000ルクス)および日陰(1,530ルクス)の光環境で対象物の寸法と3次元位置を計測し、日向と日陰の照度差に影響されない位置・寸法の計測を実証した。

上記の結果より、
(1)果物・野菜・日用品の寸法と3次元位置を屋外で非接触での空間計測が可能なこと
(2)寸法計測結果は、屋外の日向・日陰の照度環境に影響されないこと
(3)補正後の寸法平均誤差は1[mm]以下、標準偏差は3[mm]程度であること
が確認された。

今後、果物・野菜収穫用ロボットの開発を、株式会社SEC(本社:岡山市南区内尾290、松田篤郎代表取締役)と共同で進め、収穫時に果物の熟度などの計測・寸法に基づく仕分け作業なども可能な多機能ロボットの開発を進め、2023年度中に農場でのフィールドテストを開始する予定だとしている。

農業用ロボット搭載用の複眼ハンドアイカメラは、カメラ部から対象物(柿)までの位置と柿の寸法測定し、その結果をもとに対象物にハンド部を接近させ、把持・収穫。計測と接近を繰り返すことで、至近距離からの計測が可能となり高精度なロボット収穫作業が可能となる。

また、果樹葉を模擬した背景条件での、実寸と日向および日陰での3次元位置測定の結果。果物が果樹の葉に囲まれた状態で背景が複雑な状態であっても、誤差はわずかであり、位置・寸法の計測が可能であることを示しているとしている。

主な特許の概要

【特許番号】特許第6760656号(P6760656)
【登録日】令和2年9月7日(2020.9.7)
【発明の名称】物体識別方法
【特許権者】 【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
【発明者】 【氏名】見浪 護

【要約】
【課題】第1の撮像装置と第2の撮像装置とで同一の対象物体を同時に撮影し、第1の撮像装置で生成した第1の画像データと第2の撮像装置で生成した第2の画像データとを用いて対象物体の位置情報と姿勢情報とを特定する物体識別システムを提供する。

【解決手段】対象物体の表面には、平面として扱える平面領域があり、姿勢情報は、平面領域の面方向の情報であり、位置情報は、平面領域を一点で代表した代表点の位置情報であるとする。物体識別システムでは、第1の画像データにおける平面領域である第1の平面領域データを特定する手段と、第1の平面領域データに対して所定の演算を実行することで第2の平面領域データに相当する変換平面領域データを生成する手段と、変換平面領域データが、第2の画像データにおける当該平面領域のデータと最も高い一致度となる場合の平面領域の位置情報と姿勢情報を特定する手段とを有する。


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