ゲームのアイデアを法的な権利で守るのはなぜ難しいのかー 世界中で人気の単語当てゲーム「Wordle」で解説


ゲームを語る際には「あのゲームとあのゲームはよく似ている」という話題は尽きないもので、この種の話題は論争に発展することもしばしば。世界中で大ヒットを記録している単語当てゲーム「Wordle」を例にして、IT系ニュースサイトのArs Technicaが「なぜゲームのアイデアを法的な権利で守るのは難しいのか」を解説しているとGigaziNeが22年2月26日伝えている。。

WordleはRedditの元社員であるジョシュ・ウォードル氏が開発したブラウザゲームで、6回の試行の間にお題となる5文字の単語を推測するという内容。ウォードル氏は当初自分とパートナーが遊ぶためだけにWordleを公開していたが、プレイ結果をTwitterで手軽に共有できる機能を追加した結果、人気が過熱。シンプルなゲームにもかかわらず、アメリカの報道大手であるThe New York Timesによって数億円で買収されることになったのです。

このWordleについて回っているのが「パクリアプリ」の問題だ。Wordleは前述のようにあくまでウォードル氏が私的に作成したブラウザゲームで、アプリバージョンは存在しない。しかし、Wordleの人気に火が付いた結果、iOSやAndroidのアプリストアにはWordleのパクリアプリが多数登場している。

iOSで配信されていたパクリアプリについてはAppleが措置を講じたようで、2022年1月12日に一斉削除が行われた。Wordleがどんなゲームなのかや、パクリアプリがiOSで一斉削除された経緯については以下の記事で詳しく解説しています。

このWordleについて、「そもそも特定のゲームのアイデアを法的に保護するのは難しい」と論じているのがArs Technicaです。Wordleは5文字の単語を推測するというゲームですが、少なくとも1955年には「Jotto」という、お題を出す側が正答を定め、解く側は自分が思う単語を書き込み、お題を出す側が答えに照らし合わせてヒントを出す……というまさに「2人プレイ版Wordle」ともいえるアナログゲームが存在していた。

特許出願においては、出願されたプロダクトに新規性・進歩性などが求められるため、「先行技術」が存在するものは要件を満たしていないとされる可能性があると考えられる。Ars Technicaによると、Wordleよりも先に存在した同種のゲーム「Jotto」の存在は先行技術にあたるため、Wordleが新規性・進歩性を有していると認められるのは困難とのこと。

レーシングゲームのゴーストモードや「エターナルダークネス ~招かれた13人~」の正気度の概念など、新規性・進歩性がほとんどないアイデアについてアメリカ特許商標庁が特許を認めた事例も存在するが、特許出願のプロセスは非常に手間が掛かるため、「完全に新規」と言えないようなゲームのアイデアについて特許を出願するというのは実質的に困難だ。

このように「ゲームのアイデアを法的に保護する」というのは困難で、一方で「アイデアの具体的な表現方法を法的に保護する」というのは可能とのことで、Wordleの例ならばWordleのユーザーインターフェイスやレイアウトなどのデザイン面は法的に保護されるとのこと。Ars Technicaはこの種の訴訟に関する先例として、「テトリス」の版権とライセンスを管理するThe Tetris CompanyがApp Storeに存在したテトリスのクローンゲームを訴えて勝訴したという判例を挙げている。

なお、今回のWordleの事例では「商標」もいさかいの種となっています。「Wordle」という名称は2010年にリリースされたソフトウェアや2013年にリリースされたソフトウェアの商標として出願されており、これらの出願は取り下げられているもののウォードル氏が開発したパズルゲームの固有の名称とは言えない。App Storeに話題を絞ってみても、ウォードル氏がWordleを開発するより前に同名のゲームが存在している。

Wordleのような簡単に模倣できるゲームの場合、ひとたび流行したとしても多数のパクリゲームによってその地位が脅かされる危険がある。Ars Technicaは今回解説した著作権法の問題に触れて、「良くも悪くもWordleのクローンは避けられないでしょう」とコメントしている。


【オリジナル記事・引用元・参照】
ttps://iphone-mania.jp/news-442124/


Latest Posts 新着記事

工場を持たずにOEMができる──化粧品DXの答え『OEMDX』誕生

2025年10月31日、化粧品OEM/ODM事業を展開する株式会社プルソワン(大阪府大阪市)は、新サービス「OEMDX(オーイーエムディーエックス)」を正式にリリースした。今回発表されたこのサービスは、化粧品OEM事業を“受託型”から“構築型”へと転換させるためのプラットフォームであり、現在「特許出願中(出願番号:特願2025-095796)」であることも明記されている。 これまでの化粧品OEM業...

特許で動くAI──Anthropicが仕掛けた“知財戦争の号砲”

AI開発ベンチャーのAnthropic(アンソロピック)が、200ページ以上(報道では234〜245ページ)にわたる特許出願(または登録)が明らかになった。その出願・登録文書には、少なくとも「8つ以上の発明(distinct inventions)」が含まれていると言われており、単一の用途やアルゴリズムにとどまらない広範な知財戦略が透けて見える。 本コラムでは、この特許出願の概要と意図、そしてAI...

SoC時代の知財戦争──ホンダと吉利が仕掛ける“車載半導体覇権競争”

自動車産業が「電動化」「自動運転」「ソフトウェア定義車(SDV)」へと急速にシフトするなか、車載半導体・システム・チップ(SoC:System­on­Chip)を巡る知財・開発競争が激化している。特に、ホンダが「車載半導体関連特許を8割増加」させているとの情報が注目されており、同時に中国自動車メーカーが特許活動を爆発的に拡大しているとされる。なかでもジーリー(Geely)が“18倍”という成長率を...

試験から設計へ──鳥大が築くコンクリート凍害評価の新パラダイム

はじめに:なぜ“凍害”がコンクリート耐久性の大きな壁なのか コンクリート構造物が寒冷地・凍結融解環境(凍害)にさらされると、ひび割れ・剥離・かさ上がり・耐荷力低下といった劣化が進行しやすい。例えば水が凍って膨張し、内部ひびを広げる作用や、塩分や融雪剤の影響などが知られている。一方、これらの劣化挙動を実験室で迅速に・かつ実サービスに近づけて評価する試験方法の開発は、長寿命化・メンテナンス軽減の観点か...

Perplexityが切り拓く“発明の民主化”──AI駆動の特許検索ツールが変える知財リサーチの常識

2025年10月、AI検索エンジンの革新者として注目を集めるPerplexity(パープレキシティ)が、全ユーザー向けにAI駆動の特許検索ツールを正式リリースした。 「検索の民主化」を掲げて登場した同社が、ついに特許情報という高度専門領域へ本格参入したことになる。 ChatGPTやGoogleなどが自然言語検索を軸に知識アクセスを競う中で、Perplexityは“事実ベースの知識検索”を強みに急成...

特許が“耳”を動かす──『葬送のフリーレン リカちゃん』が切り開く知財とキャラクター融合の新時代

2025年秋、バンダイとタカラトミーの共同プロジェクトとして、「リカちゃん」シリーズに新たな歴史が刻まれた。 その名も『葬送のフリーレン リカちゃん』。アニメ『葬送のフリーレン』の主人公であるフリーレンの特徴を、ドールとして高精度に再現した特別モデルだ。特徴的な長い耳は、なんと特許出願中の専用パーツ構造によって実現されたという。 「かわいいだけの人形」から、「設計思想と知財の結晶」へ──。今回は、...

“低身長を演出する靴”という逆転発想──特許技術で実現した次世代『トリックシューズ』の衝撃

ファッションと遊び心を兼ね備えた新発想のシューズ「トリックシューズ」が市場に登場した。通常、多くの「シークレットシューズ」や「厚底スニーカー」は身長を高く見せるために設計されるが、本モデルは逆に身長を「低く見せる」ための構造を意図しており、そのためにいくつもの特許技術が組み込まれているという。今回は、このトリックシューズの設計思想・技術構成・使いどころ・注意点などを掘り下げてみたい。 ■ コンセプ...

“特許力”が食を変える――味の素が首位に輝く、2025年 食品業界特許資産ランキングが示す未来戦略

2025年版の「食品業界 特許資産規模ランキング」で味の素が第1位となった。評価は、個々の特許の“注目度”をスコア化して企業ごとに合算する方式(パテントスコア)で、2024年度(2023年4月1日〜2025年3月末登録分)を対象としている。トップ10は、1位 味の素、2位 日本たばこ産業(JT)、3位 Philip Morris Products、4位 サントリーHD、5位 キリンHD、6位 CJ...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る