東洋アルミ、米LQDX社のアルミクラッドラミネート特許を取得
― 次世代半導体基板・高周波用途での事業拡大を加速 ―
東洋アルミニウム株式会社(本社:大阪市、以下「東洋アルミ」)は2025年8月4日、米国LQDX, Inc.(本社:米カリフォルニア州)から、アルミクラッドラミネート(ACL™)関連の特許群を正式に取得したと発表しました。ACL™技術は、超高密度配線や高周波対応が求められる次世代半導体パッケージ基板の製造において、高い信頼性と加工性を兼ね備えた先進材料技術として注目されています。今回の特許取得により、東洋アルミは先端電子部材分野での製品開発力と知的財産基盤を一層強化し、グローバル市場での競争力向上を目指します。
技術提携から特許取得へ ― 背景と経緯
東洋アルミとLQDX社の関係は、2020年代初頭に遡ります。LQDX社(旧Averatek社)は、半導体パッケージやUHDI(Ultra High Density Interconnect:超高密度配線)対応の材料開発で知られる米国の先進材料ベンチャー企業です。同社は独自の「Liquid Metal Ink(LMI®)」技術を活用し、従来の物理気相蒸着(PVD)プロセスを代替する「PVD-in-a-Bottle™」コンセプトを提唱。従来設備を大きく変更せずに、微細な金属層形成を可能にする画期的な技術として注目を集めてきました。
両社は共同で、LMI®を活用したアルミクラッドラミネートの開発に取り組み、特に東洋アルミが得意とする超微細粗面化アルミ箔「Ranafoil™シリーズ」との組み合わせにより、接着性・回路精度・耐久性に優れた複合材料の開発を加速させてきました。今回の特許取得は、こうした長年の技術交流と共同研究の成果を正式な知財資産として東洋アルミが承継したものです。
特許の内容と技術的意義
今回取得した特許は、粗面化処理を施した薄型アルミ箔の表面にパラジウム触媒をプレコートし、これを樹脂層と積層することで形成されるアルミクラッドラミネートに関するものです。この技術により、以下のような利点が得られます。
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高い回路精度
アルミ箔表面に均一な触媒層を形成することで、後工程の無電解めっきや配線形成における精度を飛躍的に向上させることができます。 -
高周波特性の向上
アルミ材の導電特性と表面粗さの最適化により、5G/6G通信や高周波アンテナ用途に適した低損失特性を実現します。 -
耐熱・耐湿性の強化
樹脂との密着力が高く、リフロー工程などの高温条件下でも剥離や性能劣化を抑制します。 -
環境対応・工程効率化
PVDなどの真空成膜設備を必要とせず、既存のラミネート工程に適用できるため、製造コストと環境負荷を低減します。
このような特性は、半導体パッケージ基板や高密度配線基板に求められる高性能化と生産効率化の両立を可能にします。
ACL™技術の概要
ACL™は、ナノテクスチャ加工を施したアルミ箔と、LQDXのLiquid Metal Ink技術による触媒層を組み合わせたラミネート材です。この構造により、微細な回路パターン形成に必要な均一な金属析出を実現しつつ、軽量で高剛性な基材を提供します。特に、UHDIや先端ICパッケージといった、サブ10ミクロン級の配線幅・間隔を要求する用途で優れた性能を発揮します。
さらに、ACL™は既存の製造ラインに容易に導入可能で、従来の銅クラッドラミネート(CCL)と比較しても、信号損失の低減や熱膨張特性の改善といった優位性を持ちます。このため、高周波通信、車載レーダー、人工衛星通信機器、データセンター向け高速通信モジュールなど、多岐にわたる分野での採用が見込まれています。
戦略的意図と市場展望
今回の特許取得により、東洋アルミはACL™に関する知的財産を自社の完全所有とし、ライセンス交渉や製品展開を自ら主導できる立場を確立しました。これにより、特許係争リスクの回避や製品開発スピードの向上が期待できます。また、今後はACL™とRanafoil™を組み合わせた独自の高性能ラミネート製品の開発を加速し、日本・アジア・米国を中心とする先端基板市場への供給体制を強化します。
世界的に、半導体パッケージの高密度化と高周波化の需要は急速に拡大しており、市場規模は今後数年間で2桁成長が予測されています。特にAIサーバー、5G/6Gインフラ、自動運転システムなどの分野では、信号損失の低減と微細配線対応が不可欠であり、ACL™技術はこうしたニーズに応える有力なソリューションとなります。
今後の課題と展望
東洋アルミは、ACL™の量産化に向けたスケールアップや品質保証体制の確立、そして用途ごとのカスタマイズ開発を進めるとともに、国内外の材料メーカーや基板メーカーとの連携を強化する方針です。また、LQDX社から引き続きLMI®部材の供給を受けることで、安定的なサプライチェーンを維持しながら、新たな市場開拓に取り組みます。
同社は「ACL™技術の導入により、電子部材分野でのポートフォリオ拡大とグローバル展開を加速させる」としており、今後は環境負荷低減やリサイクル性の向上といったサステナビリティ視点での製品改良も視野に入れています。
結び
今回の特許取得は、東洋アルミが長年培ってきた金属加工技術と、LQDX社の先進的なナノ加工技術が融合した成果であり、次世代電子機器の性能向上に向けた大きな一歩です。ACL™をはじめとする高機能材料の提供を通じて、同社は今後もグローバルな半導体産業の発展に貢献していく構えです。