ソフトバンクG、特許で覇権狙う 生成AI時代の知財マネジメント


ソフトバンクグループ(以下、SBG)が「生成AI関連の特許をここ数カ月で1万件以上出願した」と、孫正義会長が2023年10月の「SoftBank World 2023」で発表しました。これはグループ全体(通信、投資先を含む)によるもので、出願の本格的な公開は1.5年後となるため、現時点で内容の全貌は不明ながら、AI分野における圧倒的なポートフォリオ構築の意思がうかがわれます。

1. 集中出願の背景と特徴

2023年9〜10月にかけてSBGでは、生成AI関連特許の集中出願が確認されています。特に2023年9月19~20日には、約1,800件が一斉出願される異例の動きがありました。

  • 出願スピード重視:特許請求項は極端に簡素な例もあり、審査前段階で網羅的な「種出し」を優先した戦略とみられます

  • 社内ボトムアップ体制:出願に関与した社員は6,000人超で、社員アイデアコンテストなどが盛んだった可能性が示唆されます

  • 多様な技術領域への展開:生成AIを軸に、テキスト・画像・音声生成、データ分析、RPAなど、応用分野は非常に幅広く出願内容にも反映されているようです。

2. 戦略的ねらい

(1) 市場牽制と交渉力強化

初動段階で広範囲にわたる技術を網羅し、競合の参入を牽制する狙いが見えます。「パテント・トロール」ではないものの、圧倒的な特許量は交渉力やシェア抑制に効果を発揮する戦略武器となります。

(2) 将来事業の布石

SBGは通信をベースに、AIを中心としたテック企業への出資を強化中です。生成AIを活用した文書作成、画像生成、音声対応、翻訳、RPA、予測分析、制御・ロボット連携など、多岐にわたる案件を先回りで権利化し、将来的なサービス展開やライセンス供与に備えています。

3. 国内外との比較

生成AI分野では、中国企業が圧倒的に件数をリードしており、テンセント2,074件、ペアングループ1,564件、バイドゥ1,234件と続きます。これに対しSBGの1万件超は、どの一社よりも莫大な量であると言えます
ただし、出願件数が必ずしも実用的価値や実装の先進性を示すわけではなく、質の担保や実際の権利化、エンフォースメント(権利行使)も問われる点です

4. 法制度との関係と課題

日本では「発明者は人間でなければならない」という制度があります。AIが自動生成した発明については、人間の関与が必須です
SBGがAIツールを活用しても、形式的には人間の発明として出願される運びです。また、多数の請求項のざっくり出願に対し、審査を通じて範囲調整や補正対応が必要となるため、戦略の「正確な実効性」は今後の審査対応にかかっています。

5. 今後の影響と注目ポイント

  • 特許の質と審査対応:出願後の補正、審査の進捗、国際出願の状況などによって、真に権利行使可能な特許に育てられるか見極めが重要です

  • SBGの実際の展開:AI関連子会社や投資先とのアライアンス、製品・サービス化がどの程度進むか注視すべきです。

  • ライバルおよび他国の動き:中国や米国、他の日本企業との比較で、SBGの出願戦略がグローバルな優位につながるかどうかが見ものです

  • 特許制度の整備:AI時代に対応した制度改正、特許法の進化も必要であり、法制度の変化が出願・審査の実効性を左右します。

まとめ

SBGの1万件を超えるAI関連出願は、日本企業としては異例の大胆戦略です。短期間に雑多なアイデアを網羅的に出願し、市場での影響力確保や将来の事業展開の先行権確保という一石二鳥を狙っています。ただし、これが現実の製品やサービスに結実し、真の技術支配力を持つためには、権利化の質、実際の事業展開、制度との整合性が不可欠です。今後1~2年、審査の進展とともにその実効性が問われる重要な攻防の局面を迎えるでしょう。

以上、SBGのAI特許大量出願に込められた狙いと今後の展望を整理しました。


Latest Posts 新着記事

包装×保存×AI=知財革命──「Tokkyo.AI」で実現する食品技術の特許化最前線

1. はじめに:食品業界が直面する知財化の課題 昨今、食品メーカーを取り巻く環境は、フードロス問題の深刻化や消費者の安全・安心志向の高まりなどにより、新たな包装設計や保存技術の開発が急務となっています。革新的な包装材料やプロセスが次々と生み出される中、知的財産(IP)面での迅速かつ戦略的な対応が差別化の鍵を握ります。 しかし、多くの企業では「開発ドメインと知財部門のコミュニケーション不足」「特許調...

AIカメラ+音声識別による非接触発情検知システム、特許出願へ

近年、畜産業界において「牛の発情検知」は受胎率向上や繁殖効率改善に向けた重要課題となっています。その解決に向けて、画像と音声の両面から発情する牛を自動検知する革新的システムが開発され、すでに特許出願段階に至っています。本記事では、その背景・技術・効果・今後の展望を徹底解説します。 1.発情検知の重要性と従来技術 牛の発情期を正確に捉えることは、人工授精の適期を逃さず受胎率を維持するうえで不可欠です...

水素特許で世界をリード──トヨタ・ホンダの戦略と普及のカギ

はじめに 脱炭素の流れの中で、水素エネルギーが注目を集めています。その中で、日本の自動車大手トヨタとホンダは、水素関連技術において特許面で世界をリードしています。しかし、実際の普及には「コスト」と「規格整備」の両面で技術革新や政策支援が不可欠です。本記事では、両社の特許戦略を軸に、水素エネルギー普及の課題と展望を整理します。 1.特許戦略で先行するトヨタ・ホンダ トヨタの圧倒的特許力 パテント・リ...

動物のコトバをAIが読む時代へ:MeowTalkから世界の研究最前線

ペットの「にゃあ」に秘められた意味を、人間の言葉に変換してくれる──そんな未来を、AIが現実にしようとしています。米Akvelon社が手掛ける猫専用翻訳アプリ「MeowTalk(にゃんトーク)」から、中国の百度(Baidu)が申請した動物翻訳特許まで、最新の技術動向を追いかけてみました。 1. MeowTalk(にゃんトーク):身近な猫語翻訳アプリ MeowTalkは、ユーザーが愛猫の鳴き声を録音...

AI生成コンテンツの商標保護が現実に 特許庁が登録方針を整理

1. 背景と経緯 近年、生成AI(例:ChatGPT・Midjourney等)による文字列やマーク、ロゴなどの創作が急速に普及しています。こうしたコンテンツを保護する観点から、2024年に特許庁に設置された「AI時代の知的財産権検討会」では、中間とりまとめを公表し、AIが生成した商標等の取り扱いについて議論が行われました。 この中間とりまとめでは、商標法の目的は「業務上の信用維持と需要者保護」であ...

ソフトバンクG、特許で覇権狙う 生成AI時代の知財マネジメント

ソフトバンクグループ(以下、SBG)が「生成AI関連の特許をここ数カ月で1万件以上出願した」と、孫正義会長が2023年10月の「SoftBank World 2023」で発表しました。これはグループ全体(通信、投資先を含む)によるもので、出願の本格的な公開は1.5年後となるため、現時点で内容の全貌は不明ながら、AI分野における圧倒的なポートフォリオ構築の意思がうかがわれます。 1. 集中出願の背景...

世界初!宿泊予約者の希望に応じて自動紹介するビジネスモデル特許「移動先宿泊施設レコメンド3」取得

2025年、日本発の革新的な宿泊予約関連技術が注目を集めている。旅行者の利便性を格段に向上させるビジネスモデル特許「移動先宿泊施設レコメンド3」が、このたび世界で初めて取得されたのだ。これは、旅行中や移動中に次の宿泊地をまだ決めていない旅行者に対し、自動で宿泊施設を提案・紹介するという仕組みで、観光業界、特に地方創生を推進する自治体や宿泊事業者から大きな期待が寄せられている。 この基本特許技術は、...

猛暑に革命!ワークマン『TSU-KEDカーゴパンツ』の涼しさが異次元すぎる

夏の暑さが年々厳しくなるなか、通勤もレジャーも「涼しさ」がファッション選びの鍵になってきました。そんな中、機能性ウェアで注目を集め続けるワークマンが放つ新作パンツが話題沸騰中。それが、「TSU-KED(ツーケッド)カーゴパンツ」です。 「まるで穿いていないかのような軽さと涼しさ」──この一言で一躍注目を浴びているこの商品は、現在特許出願中のテクノロジーを搭載。今回はこのTSU-KEDカーゴパンツの...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

中小企業 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る