“配置”も商標になる時代 位置商標が示す知的財産の新潮流


2025年、あのソーセージでおなじみの「シャウエッセン」のパッケージデザイン、具体的には赤と黒の縦縞(ストライプ)柄が、「位置商標」として正式に登録された。このニュースは、一見すると些細な商標登録の話のようにも思えるが、実は企業のブランディングや知的財産戦略の最前線を象徴する動きとして、非常に示唆に富んでいる。

「位置商標」とは何か?

商標と聞くと、多くの人がロゴや商品名、キャッチコピーなどを思い浮かべるだろう。しかし、近年はそれだけではない。2015年4月、商標法の改正により「新しいタイプの商標」が日本でも登録可能になった。これには「音商標」「動き商標」「ホログラム商標」「色彩のみからなる商標」などが含まれており、今回話題になっている「位置商標」もその一つである。

位置商標とは、商品や包装に施された図形や文字などが「特定の位置」に表示されることで、その企業や商品を識別できる商標のことを指す。つまり、図形自体よりも「どこにそれが配置されているか」が商標の一部として認識される点がユニークである。

シャウエッセンの縦縞が持つ力

今回のシャウエッセンの位置商標登録では、赤と黒のストライプがソーセージの包装フィルムの側面に施されるという点が商標の本質だ。これにより、仮に「シャウエッセン」という名称が使われなくても、その縦縞を見れば多くの消費者が「これはシャウエッセンだ」と認識する。

実際、スーパーやコンビニの冷蔵棚で見かけるあの独特な縦縞デザインは、長年にわたり消費者の記憶に深く刷り込まれてきた。味や品質といった中身の部分だけでなく、パッケージ自体がすでにブランドの象徴となっているのだ。

ブランド保護の新たなフロンティア

企業が位置商標を登録する意義は単なる商標保護にとどまらない。むしろ、「模倣品対策」としての役割が大きい。たとえば、そっくりな配色やデザインを使って「なんちゃってシャウエッセン」的な製品を販売する業者が現れたとしても、今回の登録によってそれが違法とされる可能性が高まる。

また、デザインに対する権利保護という観点から見ても、位置商標は極めて強力なツールだ。これまで「商標権」の対象とならなかったようなデザインの一部(パターンや配置)を保護できるようになったことで、企業はより戦略的にパッケージ開発を行えるようになる。

海外の事例と比較する視点

日本ではまだ馴染みの薄い位置商標だが、欧米ではすでに多くの企業が積極的に活用している。たとえば、ナイキのスウッシュマークが靴の側面にある位置、またレッドソール(赤い靴底)で知られるクリスチャン・ルブタンのハイヒールなどは、実質的に位置商標的な意味合いを持つ(※ルブタンの赤い靴底はEUでの登録が争われたが、一部で認められている)。

これらの事例からも分かるように、現代のブランド戦略では「視覚的記号」と「配置」の組み合わせが非常に重要になってきている。

デザインと知財の交差点に立つ時代

近年、「デザイン経営」や「ブランディング経営」という言葉が多くの企業で聞かれるようになった。製品の性能や機能だけでなく、体験価値・審美性・文化性など、より広い意味での“価値”を創造し、持続的な競争力につなげるという考え方だ。

こうした潮流の中で、位置商標のような知財ツールは単なる法的保護ではなく、「無形資産の可視化」あるいは「デザイン戦略の武器」としての役割を担っている。これはまさに、デザインと知財が交差する新しいビジネス領域である。

中小企業やスタートアップへの示唆

大企業だけでなく、中小企業やスタートアップにとっても、位置商標の活用は大いに可能性がある。たとえば、独自のラベル配置やパッケージ装飾、あるいはボトル形状との組み合わせなど、ユニークな視覚要素が認識されるようになれば、それ自体を知財として登録し、模倣を防ぐことができる。

もちろん、位置商標の登録は容易ではない。実際にそのデザインが「出所表示機能」(消費者がそれを見て特定の事業者の商品と認識する機能)を果たしていることを立証しなければならない。つまり、単なるアイデアや斬新さでは足りず、「市場での浸透」と「長年の使用」が重要な要素となる。

最後に:見えない価値に光を当てる

シャウエッセンのストライプ柄が登録されたというニュースは、単なる商標登録以上の意味を持っている。それは、「見えない価値」、すなわちブランドが持つ“形にならない資産”に光を当てる試みであり、企業がこれからの時代においていかに知的財産を戦略的に活用していくかを象徴する出来事でもある。

デザイン、色、配置、形、音――。企業が発するすべての表現がブランドとなり得る時代、知財戦略は法務部門だけの仕事ではなく、マーケティングや経営戦略の中核へと進化しているのだ。


Latest Posts 新着記事

あの「デコピン」が商標に!? 愛犬の名前が生んだ知財バブル

2023年のMLBオールスター戦で、大谷翔平選手が愛犬を紹介したことが大きな話題となった。その犬の名前は「デコピン(DECOY)」——ファンの間ではすぐに愛称の「デコピン」が定着し、SNSでは「癒やされる」「翔平に似て可愛い」といった投稿が相次いだ。野球界のスーパースターの私生活が垣間見えるワンシーンに、多くの人が微笑ましさを感じたのだろう。 だが、微笑ましい話題の裏で、知的財産の世界ではちょっと...

DXYZ、集合住宅向け顔認証システムで新特許──「FreeiD」が描く次世代ID戦略

近年、顔認証技術をはじめとする生体認証技術の進化は目覚ましく、私たちの生活に急速に浸透しています。特に、住宅分野においては、入退室管理の安全性と利便性の向上に大きく寄与し、マンションや集合住宅のスマート化が加速しています。その流れの中で、DXYZが展開する顔認証IDプラットフォーム「FreeiD」が新たにマンションサービス向けの特許を取得したニュースは、今後の住環境の変革を象徴する重要な出来事と言...

“走らずして勝つ”華為の自動運転戦略 小米の知財布陣が追う

自動運転技術を巡る開発競争が、いま中国を中心に急加速している。特に注目されるのが、通信大手・華為技術(Huawei)とスマートフォンメーカー・小米(Xiaomi)による知的財産(IP)分野での攻防である。中国最大のNEV(新エネルギー車)市場において、彼らは「EV=車」の枠を超えた、テクノロジー中心の覇権争いを繰り広げている。 とりわけ、華為はもはや「通信企業」の枠を超えた存在であり、自動運転にお...

ファンペップ、花粉症ワクチン特許取得で市場期待急上昇:アレルギー新時代の幕開け

2025年5月、バイオベンチャー・ファンペップ(東証グロース:4881)の株価が大幅に続伸した。そのきっかけとなったのが、同社が開発中の花粉症向けペプチドワクチン「FPP004X」に関して、米国において物質特許が正式に成立したという発表である。この報道により市場では大きな注目が集まり、ファンペップの株価は連日上昇。単なる一企業の特許成立ではなく、社会的課題である花粉症への革新的なアプローチが評価さ...

住宅の“健康診断”が見える時代に──LIFULLの新ツールが特許を取得

不動産業界の「透明性」革命 不動産業界は、長らく「情報の非対称性」が問題視されてきた分野だ。物件の価値、状態、修繕履歴など、重要な情報が十分に共有されず、購入者や借主が不利益を被るケースも少なくない。とりわけ中古住宅市場では、築年数のみに頼った価格設定や、目に見えない劣化のリスクが購入判断を曇らせてきた。 こうした中、株式会社LIFULLが提供する不動産情報サービス「LIFULL HOMER...

物流の信頼は“証明”できる時代へ:NONENTROPY JAPAN、DID活用技術で特許取得

かつて情報は中央に集められ、誰かの信頼に依存して管理されていた。しかし今、Web3.0の到来によって「信頼」の形が根本から変わりつつある。その変化は、私たちの生活に密接に関わる“物流”の分野にも及び始めている。2025年、NONENTROPY JAPAN株式会社は、分散型ID(DID)技術を活用した情報処理システムに関して特許を取得し、物流における信頼構築の新たな基盤を提示した。これは単なる技術革...

“配置”も商標になる時代 位置商標が示す知的財産の新潮流

2025年、あのソーセージでおなじみの「シャウエッセン」のパッケージデザイン、具体的には赤と黒の縦縞(ストライプ)柄が、「位置商標」として正式に登録された。このニュースは、一見すると些細な商標登録の話のようにも思えるが、実は企業のブランディングや知的財産戦略の最前線を象徴する動きとして、非常に示唆に富んでいる。 「位置商標」とは何か? 商標と聞くと、多くの人がロゴや商品名、キャッチコピーなどを思い...

動物の“本音”がわかる時代へ──バイドゥの鳴き声翻訳AIがすごい

中国IT大手バイドゥ、動物の「声」を理解するAI開発へ 中国のIT巨人、バイドゥ(Baidu)がまたしても世界の注目を集めている。今回は、検索エンジンや自動運転ではない。彼らが新たに手を出したのは、「動物の鳴き声を翻訳するAI技術」である。この分野における特許取得を目指していることが明らかになったのだ。 動物の鳴き声を解析し、それを人間の言語に「翻訳」するという、まるでSF小説のような構想。これは...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

中小企業 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る