「ゴールデンウィーク」は商標だった?――“○○ウィーク”に潜む知財の落とし穴


1.「ゴールデンウィーク」は登録商標だった?

日本人なら誰もが知っている「ゴールデンウィーク」。しかし、その言葉が商標登録されている事実をご存じだろうか?
「ゴールデンウィーク」という言葉は、実は2007年に東映株式会社によって商標登録されており(登録第5081106号)、現在も有効である。指定役務には映画の上映、映画制作などが含まれ、まさに映画業界由来の言葉であることが見て取れる。

この言葉が広く浸透したきっかけも映画業界にある。1951年、映画『自由学校』がゴールデンウィーク中に記録的な観客動員を達成したことを受けて、当時の大映(後の東映など)が「黄金週間(Golden Week)」と銘打ってキャンペーンを展開。これがマスメディアを通じて一般化し、今やすっかり国民的行事の一部となった。

ただし、この商標はあくまで映画関連分野での保護にとどまり、例えば旅行会社が「ゴールデンウィーク特集」といった表現を使う分には、商標権の侵害には当たらないとされている。これは「普通名称化」の一例とも言えるが、法律上の商標権は依然として有効であるため、映画関連での商用利用には一定の配慮が必要だ。

2.「シルバーウィーク」は登録されているのか?

「シルバーウィーク」という言葉は、2009年ごろから一部メディアや旅行業界で使われ始めた比較的新しい祝日連休の呼称である。例年9月中旬に、「敬老の日」と「秋分の日」がうまく重なって連休となるタイミングで出現するこの用語は、ゴールデンウィークの“弟分”のような存在として知られるようになった。

実はこの「シルバーウィーク」についても、複数の商標登録が存在する。
たとえば、以下のような登録がある:

  • 登録第5731413号(個人名義、指定商品:衣料品など)

  • 登録第5749289号(個人名義、指定役務:飲食物の提供など)

しかし、旅行・観光業界などで「シルバーウィークツアー」などと使われている用例は広範に見られ、実務的には商標権の厳格な行使はされていない様子がうかがえる。これは「ゴールデンウィーク」同様、ある程度の普通名称化が進んでおり、商標権者が独占的に使える範囲は限定的であるとみなされているからだ。

また、敬老の日に近接するため、「シルバー(高齢者)」との意味合いも二重に掛かっている点は言葉として興味深い。ただし、法的にはそうした意味づけは商標登録の可否には直接関係しない。

3.「ブロンズウィーク」は商標的にも現実的にもレア?

「ブロンズウィーク」という言葉をご存じだろうか? 実はこの言葉は一般にはほとんど定着していない。ゴールデン、シルバーと来て、「ブロンズがあってもいいのでは?」という発想から時折インターネット上で冗談交じりに語られることがあるが、公式な連休やカレンダー上の用語ではない。

そのため、「ブロンズウィーク」という商標登録も現在のところ確認されていない。
(2025年5月現在、J-PlatPat上に登録・出願記録はなし)

つまり、商標的にも「空白地帯」となっており、逆にいえば誰でも出願・取得することが可能な「未開拓ネーミング」であると言える。

マーケティングやイベント業界の観点からすれば、「ゴールデン」や「シルバー」が商標権にかかるリスクを持つのに対し、「ブロンズウィーク」は法的リスクがほぼゼロであることから、柔軟に活用可能なネーミング資産であるとも言える。

4.“祝日系ネーミング”の商標に関する実務的留意点

企業が「○○ウィーク」という名称を使ってキャンペーンや商品展開を行う際、いくつかの実務的注意点がある。

(1) 他人の登録商標を避ける

「ゴールデンウィーク」「シルバーウィーク」のように、一般名称化しているように見えても、実際には特定業種での商標権が存在する可能性がある。自社が使用する業種・区分で登録されていないかを事前に調査(J-PlatPatなど)することが不可欠である。

(2) 「普通名称化」とのバランス

商標は“使用されるうちに一般名称と化す”ことで、権利が制限されるケースがある。たとえば「エスカレーター」や「ホッチキス」などが典型例だが、「ゴールデンウィーク」も一部ではそうした議論の対象となっている。ただし、普通名称化は裁判などで明確な証拠が求められ、商標権の自動消滅とはならない点に注意が必要だ。

(3) 商標登録の戦略としての「祝日ワード」

企業によっては、「ハッピーマンデー」や「おうち時間週間」など新語を生み出し、それを商標登録するケースが増えている。特にSNSマーケティングが重視される現在、「期間限定ネーミング」の知財化は短期でもブランド保護を意識した手段として機能するようになってきた。

5.知財的視点で見る「ネーミングの格差社会」

「ゴールデンウィーク」は広く使われていながらも、知財としての管理は東映が保有。「シルバーウィーク」は複数人が登録しているが、使用制限は現実的に緩やか。「ブロンズウィーク」は野放し状態―。

このように、同じような構造の言葉でも、その知財的ステータスは大きく異なる。これは「ネーミングの格差社会」とも言える状況であり、特にイベント企画や広告宣伝の現場では、こうした格差を理解しないまま言葉を使ってしまい、後に差止請求や警告書の送付といったリスクに直面するケースもある。

逆に、まだ定着していないネーミングを先取りし、上手に商標化していくことで、「将来のスタンダードワード」の権利者になることも可能である。これはスタートアップやローカルイベントのブランディングにおいても活用できる戦略だ。

結び:言葉にも「権利」がある時代へ

私たちが日常的に使う言葉にも、法的な“所有者”が存在する。とくにイベントや季節に紐づくネーミングは広告効果が高く、企業にとっても無視できない存在だ。

「ゴールデンウィーク」は商標であり、「シルバーウィーク」も複数登録済み、「ブロンズウィーク」はまだ誰のものでもない。こうした知財の視点から、言葉の使い方を再考することは、企業にとっても、メディアにとっても、ますます重要なテーマとなっていくだろう。


Latest Posts 新着記事

老化研究に新展開——Glicoが発見、ネムノキのセノリティクス作用を特許取得

はじめに:老化研究の新潮流「セノリティクス」 近年、老化そのものを「病態」と捉え、その制御や治療を目指す研究が進んでいる。中でも注目されるのが「セノリティクス(Senolytics)」と呼ばれるアプローチで、老化細胞を選択的に除去することで、慢性炎症の抑制や組織の若返りを促すというものだ。加齢とともに蓄積する老化細胞は、がんや糖尿病、心血管疾患、認知症といった加齢関連疾患の引き金になるとされ、これ...

振り向かずに「見る」時代へ:英国発・HINDSIGHTの挑戦

近年、ウェアラブルテクノロジーは急速に進化し、日常生活のあらゆる場面で私たちの利便性を高めています。スマートウォッチやARグラス、フィットネストラッカーといったガジェットが一般的となり、私たちの生活に浸透しています。その中でも、イギリス発の「HINDSIGHT」は一際注目すべきアイウェアです。このアイウェアの最大の特徴は、「振り向かずに後ろを見る」という新しい体験を提供する点にあります。今回は、H...

次世代電池の最前線:全固体電池技術の進化と特許動向

私たちの生活に欠かせないバッテリー技術は、電気自動車(EV)の普及や再生可能エネルギーの貯蔵といった分野で、ますますその重要性を増しています。現在、リチウムイオン電池が主流ですが、安全性やエネルギー密度のさらなる向上を目指し、次世代電池として注目を集めているのが「全固体電池」です。 全固体電池は、従来の液体電解質の代わりに固体電解質を用いることで、以下のようなメリットが期待されています。 安全性向...

4月に出願公開されたAppleの新技術〜ローカル光学遮蔽〜

はじめに 今回のコラムは、4月3日に出願公開された、VR/AR技術にとって非常に有用な、光学遮蔽に関するAppleの特許出願を紹介します。 発明の名称:SYSTEMS, METHODS, AND DEVICES INCLUDING OPTICAL OCCLUSION DETECTION 出願人名:Apple Inc. 発明者:CHEN Tong等 公開日:2025年4月3日 https://www...

「ゴールデンウィーク」は商標だった?――“○○ウィーク”に潜む知財の落とし穴

1.「ゴールデンウィーク」は登録商標だった? 日本人なら誰もが知っている「ゴールデンウィーク」。しかし、その言葉が商標登録されている事実をご存じだろうか? 「ゴールデンウィーク」という言葉は、実は2007年に東映株式会社によって商標登録されており(登録第5081106号)、現在も有効である。指定役務には映画の上映、映画制作などが含まれ、まさに映画業界由来の言葉であることが見て取れる。 この言葉が広...

Apple、耐指紋撥油コートの新技術を特許出願──iPhone 17は“美しさ”と“実用性”の両立へ

2025年秋の発売が見込まれるiPhone 17シリーズに関し、Appleが「光沢仕上げ」を再び採用するのではないかとの憶測が業界で高まっている。きっかけは、2025年初頭に公開されたAppleの特許出願「撥油性および耐指紋性を向上させた透明コーティング材料」に関する内容である。 この特許は、指紋や皮脂の付着を大幅に抑えるコーティング技術を特徴とし、ガラスや金属表面への耐久性・透明性・撥水性・撥油...

スマホがプロ機に挑む日―Samsungの交換レンズ付きスマートフォンは本当に一眼レフを超えるか?

「スマホはカメラを殺した」の次に来るもの スマートフォンのカメラ機能は、この10年で飛躍的な進化を遂げた。AI補正、マルチレンズ構成、センサーサイズの拡大、そしてRAW撮影対応など、かつてプロ向けの機材でしかできなかったことが、手のひらの上で実現するようになった。 しかし、Samsungが今開発中と噂される「交換レンズ式のスマートフォン一体型カメラ」――つまり、スマホにプロ機並みの撮影性能を融合さ...

「スマホが鍵」になる電子チケット──受付処理と本人確認の統合技術に関する出願動向

ライブ・コンサート・スポーツイベントなど、あらゆる「場」に人が集まる機会において、電子チケットが急速に普及している。特にコロナ禍以降、非接触・非対面の手段として定着した感のある電子チケットだが、その普及とともに浮上してきた課題がある。それが「不正転売の蔓延」と「受付処理の滞留」である。 この2つの課題に対し、一体どのような技術的解決策が講じられようとしているのか。2024年末から2025年にかけて...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

大学発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る