NTTデータ、OpenAIと連携しAIエージェント事業を推進—3つの戦略的取り組み


2024年4月、NTTデータグループは、生成AIの社会実装を本格化する方針を打ち出し、OpenAIとの連携強化を通じて「AIエージェント事業」の加速に乗り出した。情報システム構築やBPO(業務アウトソーシング)で培った知見をもとに、AIを活用して“人に寄り添うパートナー”としてのエージェントを構築することで、業務効率化のみならず、企業の競争力強化を支援する構えだ。

本稿では、NTTデータが打ち出す3つの施策に加え、生成AI時代に求められる「AIエージェント」のあるべき姿、そして今後の技術的進化の方向性について考察していく。

OpenAI連携による3つの中核施策

1. 業務エージェント基盤「SmartAgent™」の提供開始

最も注目すべきは、業務エージェント基盤「SmartAgent™」のリリースだ。これは、営業、法務、経理など多様な業務領域に特化したAIエージェント(いわば“業務のAI秘書”)が連携し、タスクを分担・実行する仕組みである。

SmartAgent™は、3つの主要機能に支えられている。

  • Task Planning:ユーザーの指示をもとに、必要な業務タスクを自律的に分解・設計。
  • Multi Agent:異なる専門性を持つAIが連携してタスクを分担・連携。
  • Advanced RAG(Retrieval-Augmented Generation):社内外の情報ソースを元に、根拠ある生成を実現。

第一弾としてリリースされた「LITRON® Sales」では、営業資料の作成や商談履歴の整理などを自動化し、営業担当者の業務負荷を大幅に削減できるとされている。

このサービスが示唆するのは、「単なるチャットボットではない、業務を理解し遂行するエージェント」の登場である。

2. LITRON Generative Assistant:根拠を持った対話型AIの提供

続いて注目すべきは、既に2023年から提供が始まっている「LITRON Generative Assistant」だ。これはChatGPTのような対話型生成AIに、社内ドキュメントや規定を紐づけることで、根拠のある回答を提供できる仕組みをもつ。

例えば、企業内の就業規則や法務文書、社内FAQなどを参照しながら、社員の質問に的確かつセキュアに対応することが可能。回答の根拠を明示することで、「AIの返答にどこまで信頼していいか分からない」といった従来の不安を払拭する設計となっている。

さらに、アクセス制御や利用履歴のログ取得といったセキュリティ設計も充実しており、情報漏洩リスクへの懸念にも対応済みである。

3. セキュアなAzure OpenAI基盤構築の支援

NTTデータ先端技術は、Azure OpenAI Serviceのセキュアな業務利用に向けた基盤構築支援も行っている。生成AI導入にあたって企業が最も気にするのは「セキュリティ」と「業務との親和性」であり、NTTデータはこのニーズに応える形で、Microsoft Azure上でのプライベート環境構築から業務適用までをワンストップで支援している。

とりわけ、官公庁や金融など機密性が高い業種において、NTTデータのこのアプローチは有効だ。社内外データを一元的に扱いながらも、情報漏洩や不正利用のリスクを抑える点で、競合との差別化にもつながる。

独自視点:AIエージェントは“並走型”から“共創型”へ

NTTデータの取り組みは、単なる業務効率化を超えて、「人とAIが共創する未来の業務像」を先取りする動きといえる。従来のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)では、あくまで定型業務の代行が主目的だったが、AIエージェントは非定型・創造型タスクにも踏み込もうとしている。

たとえば、営業エージェントが顧客ニーズを分析し、法務エージェントと連携して契約書を起案、さらに経理エージェントが見積もり処理を担当する―こうした一連の業務フローが“自律分散的”に機能する未来が見えてきた。

さらに、AIが人間の業務プロセスを模倣するのではなく、蓄積されたデータと論理をベースに「より良い代替案」や「意外な提案」を返してくるようになることで、AIは単なるアシスタントから“思考のパートナー”へと進化していくことが予想される。

今後の課題と展望

ただし、AIエージェント導入には課題も少なくない。とくに以下の3点が企業実装のハードルとなりうる。

  1. 業務プロセスの可視化と標準化:AI導入の前提として、現行業務の整理が不可欠。
  2. 人材育成と現場教育:エージェントとの対話や活用方法を理解する人材の育成。
  3. ガバナンスと責任所在の明確化:AIが意思決定に関与した際の法的責任など。

これらを踏まえ、NTTデータは2026年度までに全世界で3万人のAI専門人材を育成する方針を掲げている。また、全社員への生成AI教育の展開も始まっており、「全社的AIリテラシーの底上げ」も同時進行中だ。

結語:AIが“人に寄り添う”時代へ

NTTデータが推進するAIエージェント事業は、単なる自動化の文脈にとどまらず、「人の意思決定や創造力を支援するAI」という新たな地平を切り開くものだ。

OpenAIとの提携はその第一歩であり、日本発の業務AIエージェントが世界の現場で機能する日も遠くないだろう。AIが“人に寄り添い”、共に働く時代。その未来は、もう目前に来ている。


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