編集局が選ぶ!ベストパテント大賞2025


イントロダクション

2025年、技術革新の波はかつてないほど高まり、私たちの生活、産業、そして未来を根底から変えようとしています。この進化の最前線に立つのは、日夜研究開発に励む企業や個人の情熱、そして彼らの生み出す「特許」です。特許は単なる権利ではなく、未来を拓くアイデアの結晶であり、社会に新たな価値をもたらす可能性を秘めた設計図と言えるでしょう。

「編集局が選ぶ!ベストパテント大賞2025」では、今年の特許の中から特に革新的で、私たちの未来に大きな影響を与えうる技術を厳選し、ご紹介します。日々の健康管理をスマートにする技術から、製造業の常識を覆す3Dプリンティング、そしてオフィスワーカーの休息の質を高める画期的なソリューションまで、多岐にわたる分野の特許を深掘りします。

このマガジンを通じて、私たちは技術がもたらす驚きと可能性を共有し、読者の皆様に未来への扉を開くようなインスピレーションを提供したいと考えています。さあ、一緒に2025年の技術トレンドを読み解き、来るべき未来の片鱗を覗いてみましょう。


「落下中」の瞬間を逃さない。腸内環境の真実を時系列で読み解く

健康状態、特に消化器系の健康状態や腸内環境は、生体の排泄物である大便の性状に反映されます。この大便の性状を把握することは、健康維持において非常に有用です。しかし、従来の装置では、大便を撮影して性状を推定する試みはあったものの、得られるデータが十分ではなく、より精緻な推定結果を得られる技術が望まれていました。

株式会社LIXILが開発した特許第6742663号「便器装置」は、この課題に対し、排泄の瞬間を詳細に捉えるという革新的なアプローチで応えます。一体どのような技術なのでしょうか。特許発明の内容を詳説していきます。

特許第6742663号は、「便器装置」と題され、生体の排泄物(大便)に反映される健康状態、特に消化器系の健康状態(腸内環境)を、より精緻に推定するための技術です。

従来の装置でも大便の撮影は行われていましたが、得られるデータが十分とは言い難く、より詳細な健康状態の推定技術が求められていました。本特許は、大便が便器内に落下する様子を時系列で捉えるという革新的なアプローチにより、1回の排便の中での大便の性状の変化を把握し、利用者に精度の高い健康情報と改善アドバイスを提供することを可能にしました。

実はこちらの特許は、+VISION特許マガジン創刊号 Vol.1 で紹介した う〇こチェック機能付きトイレ と同一技術のものであり、このたび商品化が実現したことを受け、改めてピックアップして選出しました。

2−1.発明の目的

大便の性状は、使用者の消化器系の健康状態(腸内環境)を反映します。従来、カメラで大便を撮影し、その性状を推定する装置は存在しましたが、得られるデータが十分なものではなく、使用者の健康状態について、さらに詳細で精緻な推定結果を得られる技術が望まれていました。

本発明は、従来の課題に鑑み、健康状態(腸内環境)のより精緻な推定結果が得られる便器装置を提供することを解決すべき課題としています。

2−2.発明の詳細

無孔性親水性フィルム

本特許技術に係る便器装置(1)は、図1に示すように、主に便器本体(10)、カメラ(20)、及び便性推定部(30)を備えています。

図1

(A)時系列撮影による性状変化の把握

本装置の最大の特徴は、大便の性状の時系列変化を推定することにあります。

1. 便鉢部とカメラの配置: 便器本体(10)には便鉢部(11)があり、カメラ(20)は便鉢部(11)内に排泄された落下中の大便を時系列に撮影し、複数の静止画像を取得します。ここで「落下中」とは、大便が体外に放出されてから、便鉢部下部の溜水部(15)の水面に到達するまでの間を指します(図2)。

図2

2. カメラの具体例: カメラ(20)は、図1に示すように、便器本体(10)のリム(12)の後方側内周面(12A)に埋設されている例が示されています。また、図11~図14に示すように、便鉢部(11)の上方に配置された便座装置(40)に取り付けられる構成も可能です。例えば図12では、便座(41)の延設部(41A)にカメラ(20)が配置され、大便により近づけて配置できる形態が示されています。

図11

図12

図13

図14

3. 便性推定部の処理: 便性推定部(30)は、カメラ(20)が取得した複数の静止画像から、大便の形状に関する特徴量(横幅、縦幅、画素数など)を抽出します。そして、予め複数に分類された所定の性状パターン(硬さ/軟らかさ)のうちの1つに大便の性状を推定します。

(B)性状のパターン分類と時系列変化の推定

性状パターンは、図3に示されるように、一般的に以下の6つに大別されます。

• 便秘: (1)コロコロ、(2)カチカチ俵
• 健康: (3)バナナ、(4)半練り
• 下痢: (5)泥状、(6)水状

図3

便性推定部(30)は、排泄開始から終了までの大便の性状の時系列変化を推定します。例えば、図10に示すように、1回の排便の中で性状が(1)コロコロ、(3)バナナ、(6)水状の3段階に変化したこと、また、(6)水状のパターンで排泄された時間が大部分であることなどを推定できます。

図10

(C)アドバイスとプライバシー保護

推定結果は、図示しない表示端末に有線または無線で送信されます。この表示端末には、推定結果に基づいた便性改善アドバイスも表示可能となっており、例えば、性状の変化(例:コロコロからカチカチ俵への変化)に基づいて、「肉類の食べ過ぎの可能性」や「トイレを我慢しないこと」などの具体的なライフスタイル改善アドバイスが表示されます。

また、使用者のプライバシーに配慮し、静止画像に使用者の身体が写り込んでいる場合には、便性推定部(30)は該当する画像領域を含む部分についてマスキング処理を行い、原画像データは削除するように設定されています。

3.ここがポイント!

本特許の最大のポイントは、1回の排便の中で性状が変化する様子を時系列で捉えることにより、従来の装置よりも健康状態(腸内環境)のより精緻な推定結果を得ることを可能にした点です。大便を単一の静止画像として捉えるのではなく、「落下中」という特定の時間帯で連続的に撮影し、その変化を解析することで、単なる硬さ・軟らかさの分類を超えた、詳細な健康情報を提供できます。

4.未来予想

この便器装置は、毎日用を足すだけで大便の性状をチェックし、健康状態の推定結果と共に具体的な便性改善アドバイスを提示します。推定結果やアドバイスは、スマートフォンやPCなどの表示端末で随時確認可能となるため、健康チェックのスタンダードがトイレとのコミュニケーションになる未来が近いかもしれません。

権利概要

発明の名称便器装置
出願番号特願2016-19763
公開番号特開2017-137707
特許番号特許6742663号
出願日平成28年2月4日
公開日平成29年8月10日
登録日令和2年7月31日
審査請求日平成30年9月19日
出願人株式会社LIXIL
発明者 上田 江美
牧 道太郎
水野 治幸
小栗 宏次
河中 治樹
磯村 淳
本多 千鶴
国際特許分類(IPC) G01N 21/17 (2006.01)
E03D 9/00 (2006.01)
A61B 5/00 (2006.01)

3Dプリントが紡ぐ、次世代フットウェアの設計図

スポーツフットウェアの製造は、長らく裁断、縫製、接着といった複雑な工程に依存してきました。しかし、この伝統的なプロセスは、時間とコストがかかる上、多くの廃材を発生させ、さらに個々のユーザーに合わせた精密なフィット感や機能性を追求する上での限界となっていました。

このような課題に対し、スポーツ用品大手であるNikeは、3 Dプリンティングを活用することにより、従来の製造方法を凌駕する組立方法とシステムを提供します。

本特許の核心は、布地素材で構成されたフットウェアのアッパー(甲部)に対し、3Dプリンティングシステムを用いて、機能的な構造を直接積層することにあります。

従来の製造技術とは全く異なる新しいソリューションを、詳しく解説していきます。

特許第US12226973号は、「FOOTWEAR ASSEMBLY METHOD WITH 3D PRINTING(3Dプリンティングを用いたフットウェア組立方法)」と題され、スポーツ用品大手のNikeによる、精密なフィット感、複雑なデザイン表現、および材料特性の最適化を可能にするシステムと方法に関するものです。

この技術は、フットウェアの甲部(アッパー)などの布地素材に、補強や機能性を付与するための多次元的な構造を直接印刷することで、無縫製・無接着といった製造の簡素化、および廃材削減による環境負荷の低減に貢献することが期待されています。

1.背景と課題

従来の製造方法では、フットウェアを構成する部品、特に布地素材のアッパー(甲部)に耐久性や特定の機能(補強、通気性など)を持たせるためには、複数の部品を裁断し、縫製や接着を行う必要がありました。

このような製造プロセスは複雑で時間がかかるだけでなく、製造時に廃材が発生し、特定の領域に求められる精密な材料特性(剛性、柔軟性、クッショニングなど)の最適化に限界がありました。

2−1.発明の目的

本発明は、3Dプリンティングシステムを使用して、フットウェアまたはアパレル品の布地素材部品の上に、多次元的な(3D)部品を直接、効率的に組み立てるための方法とシステムを提供することを目的としています。これにより、フットウェアに望ましい特性(補強、耐久性、柔軟性、通気性など)を精密に付与することが可能となります。

2−2.発明の詳細

本特許技術は、フットウェア(10)を製造する一連の方法およびシステム(80)に関するものです。

(A)フットウェアの構造

フットウェア(10)は、主にアッパー(20)とソール構造体(30)から構成されます(図3)。

アッパー(20)は布地素材で構成され、つま先部分(11)、中足部(12)、かかと部分(13)を含みます。さらに靴ひも(40)を通すアイステイ(41)や、足を入れる開口部(50)、シュータン(60)などが設けられています(図2)。

ソール構造体(30)は、ミッドソール(32)とアウトソール(31)を含み(図3)、歩行や走行時のクッショニング、安定性、トラクションなどの機能を提供します。

(B)3Dプリンティング製造プロセス

この発明の主要な工程は、布地素材でできたアッパー部品(20)に対して、3Dプリンティングシステム(80)を用いて機能的な構造を直接積層することです。

1. 布地素材の配置: フットウェアのアッパー部品(20)などの布地素材を、3Dプリンティングシステム(80)のプリントトレイ(90)の上に平らに配置し、位置合わせを行います(図18, 19)。

図18・図19

この布地素材は、織物、ニット、合成皮革、天然皮革など、様々な素材であり得ます。

2. 3Dパターンの直接プリント: 図6に示すシステム(80)や、図7に示すプリンター(81)が使用されます。

プリントトレイ(90)の上に平らに置かれたアッパー(20)の表面に、3Dプリンティング材料(70)3Dパターンをプリントします(図20, 21)。

3. 積層と硬化: プリントヘッド(122)から液体や粘性のある材料(124)が吐出され、これが布地素材の上に層状に堆積されます(図34-37)。

各層または複数の層が堆積された後、UV硬化光源(126)などによって硬化処理が行われます。

4. 機能の付与: 3Dプリントされたパターン(70)は、アッパーの表面に補強、耐久性、耐摩耗性、柔軟性、通気性などの特性を付与します。図4に示すように、このパターン(70)は、フットウェア(10)のつま先(11)から中足部(12)にかけて複雑な格子状に配置され、特定の領域を支持または補強します。

5. ソール構造のプリント(オプション): さらなる実施形態として、フットウェアのアッパー(20)に、ソール構造体(30)の一部であるアウトソール(31)やミッドソール(32)を直接プリントする工程も含まれます(図14-17)。図には、プリントトレイ(90)上に置かれた布地素材(20)の上に、積層された3Dプリント材料(73, 74)によって、ソール構造(30)が形成される様子が示されています。

この製造プロセスを通じて、従来の縫製や接着工程を必要とせずに、フットウェア全体またはその主要な構造を効率的に組み上げることが可能となります。

3.ここがポイント!

この発明の最大のポイントは、フットウェアを構成する布地素材の上に、機能性を持つ3Dパターンを直接積層し、硬化させる製造方法にあります。

これにより、以下の画期的な効果が実現します。

1. 材料特性の精密な最適化: 3Dプリンティングにより、フットウェアの特定の領域(例えば、足裏の支持が必要な部分)を硬く、それ以外の部分を柔軟にするなど、密度や柔軟性を部位ごとに最適化することが可能となります。

2. 製造工程の簡素化: 複数の部品を裁断し、縫製や接着する代わりに、直接プリントすることで無縫製・無接着の構造を実現し、製造工程が簡素化され、精密なフィットが実現されます。

3. カスタマイズ性: この3Dプリンティングシステム(80)は、CAD表現(89)を通じて設計されたパターン(70)をプリントジョブ(300)として処理し、多様なデザインや個別のユーザーに合わせたカスタマイズされた構造のプリントを可能にします。

4.未来予想

この特許技術を背景に、特許権者であるナイキは、2025年夏に初の完全3Dプリントスニーカー「Air Max 1000 Oatmeal」を発売しました。

この製品は、アッパーからアウトソールまで一体で成型された無縫製・靴紐不要の構造を実現しており、本特許で示された技術の方向性を体現しています。ナイキのチーフ・イノベーション・オフィサーは、この技術が従来の製造法では不可能だった精密なフィットとデザイン表現を可能にしたと述べており、さらに廃材削減やオンデマンド生産による環境負荷の低減にも繋がると期待されています。

今後、この3Dプリンティングを用いた直接組立方法は、スポーツシューズの製造における標準的な手法の一つとなり、ユーザー一人ひとりの足の形状や運動特性に合わせた、高度にパーソナライズされたフットウェアの供給を促進すると予想されます。

権利概要

発明の名称FOOTWEAR ASSEMBLY METHOD WITH 3D PRINTING
出願番号US18/390,807
公開番号US20240123699A1
特許番号US12226973B2
出願日2023.12.20
公開日2024.4.18
登録日2025.2.18
審査請求日令和3年12月2日
出願人Nike, Inc.
発明者David P. Jones, Ryan R. Larson
国際特許分類(IPC) A43B 3/00, B29D 35/12 他

立ったまま、深く休む。空間効率を極めた、次世代の休息体験。

現代のオフィスワーカーにとって、昼間の短時間の仮眠は、その後の生産性や効率を大幅に向上させる鍵となりますが、この休息を実現するための設備には大きな課題がありました。従来の休憩・睡眠用カプセルは、人体を横臥状態(寝た状態)にして収納する構造だったため、設置には最低でも1m×2m程度という比較的広い水平方向のスペースが必要でした。結果として、容積が限られたオフィス空間内に多数の仮眠設備を設置することは困難でした。

この空間的な制約を打破するために、今回紹介する株式会社イトーキによって発明されたのが、特許第7273496号「人体収納用構造体及び睡眠用筐体」です。この発明は、人体を横臥状態ではなく、立位状態(立った状態)で支持し、休息や睡眠を可能にすることを目的としています。これまでの常識を覆すこの発明の、技術的詳細を解説します。

特許技術は、発明した企業が必ずしも製品化するとは限らず、「眠れる開放特許」が多数存在するのが現状です。このような未活用の特許を利用することで地域企業を結びつける取り組みとして「知財ビジネスマッチング」が各地の経済産業局主導で行われています。これは、地域企業にとっては地元を超えた事業拡大の種を得る場であり、大企業にとっては自社の特許技術を製品として覚醒させるチャンスの場でもあります。

特許第7273496号は、「人体収納用構造体及び睡眠用筐体」と題され、オフィスや製造現場の空間イノベーションを推進する株式会社イトーキによって開発された技術です。この技術は、その後、製品名「giraffenap(ジラフナップ)」として製品化されました。この製品化は、特許権者であるイトーキと、木材の加工・製造・実装化を得意とする広葉樹合板株式会社が、知財ビジネスマッチングを通じて出会い、ライセンス契約を結んだことによって、約1年というスピード感で実現されました。

今回は、この特許について、その技術内容を詳説していきます。

1.背景と課題

従来の休憩・睡眠用のカプセルは、人体を横臥状態にして収納する構造を採用していました。このため、最低でも1m×2m程度の比較的広い水平方向のスペースが必要でした。

結果として、容積が限られたオフィス空間などに多数設置することが難しく、オフィスワーカーが気軽に休憩や睡眠を取りたいという要望に応えることが困難でした。

2−1.発明の目的

本発明は、水平方向に広いスペースを必要とすることなく、人体を立位状態(立った状態)で支持することができる人体収納用構造体を提供することを目的としています。この構造体を用いることで、利用者は立位状態で休息や睡眠をとることが可能となります。

2−2.発明の詳細

本特許技術は、人体を収納する収納空間を備え、その収納空間に収納した人体を立位状態で支持するように構成された睡眠用筐体に関するものです。ここでいう「立位状態」には、頭部が脚部よりも鉛直上方に位置する状態だけでなく、人体の足裏が構造体の底部に着いていない状態(体重が脚部のみで支えられていない状態)も含まれます。

この立位状態での支持構造を採用することで、一般的な寝具のように横臥状態で人体を支持する構造と比較して、水平方向における寸法を格段に縮小することが可能となります。

人体を立位状態で安定して支持するため、この構造体は以下の主要な支持部を備えています。

1. 第一支持部 (10, 10A, 10B, 10C): 人体の臀部を支持し、人体の重量の少なくとも一部を下から支持します。
2. 第二支持部 (20, 20A, 20B, 20C): 上半身を支持し、上半身の水平方向への移動を阻止します。この第二支持部には、上半身後方部(例:背部、後頭部)を支持する後方支持部や、上半身側方部(例:肩部、側頭部)を支持する側方支持部、上半身前方部(例:腕部、前頭部)を支持する前方支持部(21, 21A)が含まれ得ます。
3. 第三支持部 (30, 30A, 30C): 膝部または脛部を支持し、膝部が前方に移動することを阻止します。

さらに、人体の足裏を支持する第四支持部(底板 7, 7B, 7C)を設けることも可能であり、これも立位状態の安定に寄与します。

本特許では、これらの支持機構を組み込んだ複数の実施形態が示されています。

(A)第一実施形態(図1、図2)

図1および図2に示される人体収納用構造体(1)は略直方体状を呈し、後方壁板(3)に設けられた直方体状の第一支持部(10)前方支持部(21)(第二支持部20の一部)が上半身の前方移動を阻止し、同じく前方壁板(4)から突出する第三支持部(30)が膝部を支持し前方への移動を阻止します。後方壁板(3)や側方壁板(5, 6)もそれぞれ後方支持部および側方支持部として機能し、上半身を安定させます。

図1

図2

(B)第二実施形態(図3)

図3に示される人体収納用構造体(1A)は、支持部の形状に改良が加えられています。特に、第一支持部(10A)の上面部(11A)や第三支持部(30A)の上面部(31A)に傾斜がつけられています。これにより、人体の重量を支持しつつ、より立位に近い姿勢を実現し、構造体の前後寸法を小さくすることが可能となります。また、前方支持部(21A)は側面視で断面が三角形を呈し、下方空間を広げることで快適性を向上させています。

図3

(C)第三実施形態(図4〜図6)

図4から図6に示される人体収納用構造体(1B)は、構造体全体が後方へ傾斜しており、この後傾姿勢で支持するため、第一・第二実施形態にあった前方支持部や第三支持部が省略されています。ただし、底板(7B)の前方部分(7Ba)が後方に傾斜しており、人体を容易に後傾させることが可能です。第一支持部(10B)も傾斜した上面部(11B)を持ち、後傾姿勢の臀部を支持します。

図4

図5

図6

(D)第四実施形態(図7、図8)

図7および図8に示される人体収納用構造体(1C)は、略円筒状の収納空間(2C)を有しています。第一支持部(10C)、第二支持部(20C)、第三支持部(30C)円板状の突出部材として採用されています。円筒状壁板(3C)の一部(3Ca)は、ヒンジ機構を介して開閉扉として機能します。

図7

図8

3.ここがポイント!

この発明の最も重要な点は、人体を立位状態で支持し、休息・睡眠を可能にするという画期的なコンセプトにあり、これにより、横臥式カプセルに比べて水平方向の占有スペースを大幅に削減できる点です。立位での安定性を確保するために、臀部、上半身、膝部など複数の箇所で人体を支える多点支持構造を採用していることが、技術的な特徴です。

4.未来予想

この特許技術は、「電車での居眠り」から着想を得ており、株式会社イトーキと広葉樹合板株式会社の協業(知財ビジネスマッチング)により、「giraffenap(ジラフナップ)」として製品化されました。この構造体は、オフィスワーカーの「少しの仮眠で働くパフォーマンスが上がる」というニーズに応えるものであり、水平スペースの制約を克服したことで、今後のオフィス空間や公共スペースにおける新しい仮眠ソリューションとして、普及が進むことが予想されます。

権利概要

発明の名称人体収納用構造体及び睡眠用筐体
優先権PCT/JP2019/013095
公開番号特開2020-99444
特許番号特許7273496号
出願日平成30年12月20日
公開日令和2年7月2日
登録日令和5年5月2日
審査請求日令和3年12月2日
出願人株式会社イトーキ
発明者佐藤宏樹、川村正太郎、西川政行
国際特許分類(IPC) A47C 20/00, A47C 19/00, A47C 16/00

その他にも様々な大学が企業の開放特許がIP MARKETで探せます!


Latest Posts 新着記事

11月に出願公開されたAppleの新技術〜PCに健康状態センサーをつけるとどうなるのか〜

はじめに もし、あなたが毎日使っているノートパソコンが、仕事や勉強をしながらそっとあなたの健康状態をチェックしてくれるとしたら、どう思いますか? これまで、私たちが使ってきたノートパソコンのような電子機器には、ユーザーの体調をモニターするような高度なセンサーはほとんど搭載されていませんでした。Appleから11月に出願公開された発明は、その常識を覆す画期的なアイデアです。キーボードの横にある、普段...

AI×半導体の知財戦略を加速 アリババが築く世界規模の特許ポートフォリオ

かつてアリババといえば、EC・物流・決済システムを中心とした巨大インターネット企業というイメージが強かった。しかし近年のアリババは、AI・クラウド・半導体・ロボティクスまで領域を拡大し、技術企業としての輪郭を大きく変えつつある。その象徴が、世界最高峰AI学会での論文数と、半導体を含むハードウェア領域の特許出願である。アリババ・ダモアカデミー(Alibaba DAMO Academy)が毎年100本...

翻訳プロセス自体を発明に──Play「XMAT®」の特許が意味する産業インパクト

近年、生成AIの普及によって翻訳の世界は劇的な変化を迎えている。とりわけ、専門文書や産業領域では、単なる機械翻訳ではなく「人間の判断」と「AIの高速処理」を組み合わせた“ハイブリッド翻訳”が注目を集めている。そうした潮流の中で、Play株式会社が開発したAI翻訳ソリューション 「XMAT®(トランスマット)」 が、日本国内で翻訳支援技術として特許を取得した。この特許は、AIを活用して翻訳作業を効率...

特許技術が支える次世代EdTech──未来教育が開発した「AIVICE」の真価

学習の個別最適化は、教育界で長年議論され続けてきたテーマである。生徒一人ひとりに違う教材を提示し、理解度に合わせて学習ルートを変化させ、弱点に寄り添いながら伸ばしていく理想の学習プロセス。しかし、従来の教育現場では、教師の業務負担や教材制作の限界から、それを十分に実現することは難しかった。 この課題に真正面から挑んだのが 未来教育株式会社 だ。同社は独自の AI学習最適化技術 で特許を取得し、その...

抗体医薬×特許の価値を示した免疫生物研究所の株価急伸

東京証券取引所グロース市場に上場する 免疫生物研究所(Immuno-Biological Laboratories:IBL) の株価が連日でストップ高となり、市場の大きな注目を集めている。背景にあるのは、同社が保有する 抗HIV抗体に関する特許 をはじめとしたバイオ医薬分野の独自技術が、国内外で新たな価値を持ち始めているためだ。 バイオ・創薬企業にとって、研究成果そのものだけでなく 知財ポートフォ...

農業自動化のラストピース──トクイテンの青果物収穫技術が特許認定

農業分野では近年、深刻な人手不足と高齢化により「収穫作業の自動化」が急務となっている。特に、いちご・トマト・ブルーベリー・柑橘など、表皮が繊細な青果物は人の手で丁寧に扱う必要があり、ロボットによる自動収穫は難易度が極めて高かった。そうした課題に挑む中で、株式会社トクイテンが開発した “青果物を傷付けにくい収穫装置” が特許を取得し、農業DX領域で大きな注目を集めている。 今回の特許は単なる「収穫機...

<社説>地域ブランドの危機と希望――GI制度を攻めの武器に

国が地理的表示(GI:Geographical Indication)保護制度をスタートしてから10年が経つ。ワインやチーズなど農産物を地域の名前とともに保護する仕組みは、欧米では産地価値を国境を越えて守る知財戦略としてすでに大きな成果を上げてきた。一方、日本でのGI制度は、導入から10年が経った今ようやくその重要性が幅広く認識される段階に差し掛かったと言える。 農林水産省によれば、2024年時点...

保育データの構造化とAI分析を特許化 ルクミー「すくすくレポート」技術の本質

保育業界におけるDXが本格的に進む中、ユニファ株式会社が展開する「ルクミー」は、写真・動画販売や登降園管理、午睡チェックシステムなどを通じて保育の可視化と効率化を支えてきた。その同社が開発した 保育AI™「すくすくレポート」 が特許を取得したことは、保育現場のデジタル化における大きな節目となった。 「すくすくレポート」は、子どもの日々の成長・発達をAIが分析し、保育士の観察記録を補助...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る