既存建物にも新築にも、耐震性能をプラスする最新技術


月間特許トレンドウォッチ

日本は地震の多発地域として知られ、その度に人々の防災意識は高まっています。特に2024年に発生した能登半島地震は、多くの人々に地震対策の重要性を再認識させました。日本全国で、建物の耐震化や防災訓練が行われている中、最新技術が取り入れられた具体的な対策も進化しています。

特許取得技術による耐震化の進化

地震対策には、伝統的な建築物の耐震補強だけでなく、最新技術が続々と取り入れられています。その中でも特に注目すべきは、建物に取り付ける「免震装置」や「制振装置」です。これらの装置は、地震時に建物が受ける揺れを軽減し、建物の倒壊や損傷を防ぐ役割を果たします。

免震装置は建物の基礎部分に設置され、地震の揺れを吸収・分散する技術で、これにより地震のエネルギーが直接建物に伝わるのを防ぎます。

免震・制振技術の特許

免震技術の中でも、特許を取得している技術には「可変型ダンパーシステム」などがあります。可変型ダンパーシステムは、地震の規模や揺れの方向に応じて自動的にその制振効果を調整する技術です。

一般的な制振装置は一定の耐震能力を持つものが多いですが、可変型ダンパーは揺れの特性に応じて効果を変化させ、より効果的に揺れを吸収します。これにより、想定外の強い揺れにも柔軟に対応できるというメリットがあります。この技術は、地震の多発地域での高層ビルや重要施設への導入が進められており、すでに多数の特許が取得されています。

また、免震装置に用いられる「摩擦可変装置」も注目の技術です。この装置は、建物の揺れを受けた際に摩擦力を自動的に調整し、揺れのエネルギーを効果的に吸収します。これも特許技術であり、地震の規模に応じた揺れの吸収能力を備えています。このような技術により、建物が地震に耐える力は飛躍的に向上しています。

センサー技術による地震検知

地震対策技術は建物のみに留まらず、地震そのものを検知する技術にも及びます。特許取得済みの地震センサー技術は、地震波をいち早く検知し、建物の揺れが発生する前に自動的にエレベーターやガスを停止させるシステムに連動しています。これにより、地震発生直後の二次災害を未然に防ぐことが可能です。

2024年の能登半島地震を受け、日本の地震対策への意識はますます高まっています。特に特許取得済みの最先端技術は、地震から人々の命や財産を守る上で不可欠なものとなっています。免震技術や制振技術、さらには地震センサーなど、こうした技術の進化は、将来の大規模地震に対する備えとして非常に重要です。

これらの技術が広く普及し、各地で導入が進むことで、今後の地震被害を最小限に抑えることができるでしょう。日本が直面する地震の脅威に対して、こうした特許技術は未来を切り開く重要な鍵となるのです。

パテントディスカバリー

地震大国・日本において、建物の耐震性は私たちの安全に直結する重要なテーマです。そんな中、最新の耐震補強技術が注目を集めています。この発明は、建物の基礎と上部構造部を強固に連結することで、地震時の建物の揺れや崩壊を効果的に防ぐことができます。特に、既存の木造建築の改修や新築物件への適用が期待され、耐震補強の新しいスタンダードとなる可能性を秘めています。今回は、この技術の背景とその利点について、詳しく解説します。

従来の木造建築では、地震時の揺れによる基礎と上部構造の接合部分のズレや離脱を防ぐため、アラミド繊維や炭素繊維を用いた耐震補強手法が採用されていました。これらの補強材料は、基礎から上部構造にかけて設置され、縦揺れによる位置のずれや構造部材の離脱を防止する効果を持っています。

しかし、基礎と上部構造の双方に密着させる必要があるため、段差や歪みが生じた場合、補強効果を十分に発揮できないことが多く、これが一つの大きな課題となっていました。さらに、補強材料を帯状に形成するためのコストや施工の手間も問題であり、特に既存の建築物に対しての改修工事においては、こうした補強技術の導入が難しいケースが多々見られました。これにより、施工における柔軟性や費用対効果が求められる一方で、効果的な耐震補強手法の提供が求められていました。このような背景から、本発明は、耐震補強装置の施工性を向上させ、コストを抑えながらも建物の耐震性を確保するための技術的課題の解決が求められていました。

発明の目的

本発明の目的は、建物の耐震性能を向上させるために、基礎と上部構造部を強固に連結し、地震によるズレや離脱を防ぐことにあります。従来の耐震補強手法では、基礎と上部構造部が密着していることが前提とされており、段差や施工条件によっては十分な効果を発揮できないことが多かったのです。

そこで、本発明は、基礎と上部構造部の間に段差がある場合でも適用可能であり、施工性を向上させつつ、建物全体の耐震性を効果的に高めることを目指しています。また、補強装置を取り付ける際のコストを抑え、既存建築物の改修にも対応できる柔軟な設計を提供することを目的としています。

これにより、従来の技術で問題となっていたコストや施工の困難さを解消し、多様な建築条件に適応した耐震補強を実現することが期待できます。

発明の詳細

本発明は、建物の耐震性能を向上させるための耐震補強装置、及びその取付構造に関するものです。この技術では、基礎と上部構造部を補強用繊維材料束を介して連結し、地震による損傷を防ぐことを目的としています。以下、図面の説明を交えながら詳細を述べていきます。

1. 補強装置の基本構造

本発明の耐震補強装置は、基礎と上部構造部の間を連結するための「補強用繊維材料束」を備えています。

図1は、耐震補強装置の全体的な構造を示しています。基礎1の上には、土台2とその上に複数の柱材5が立設され、筋交い7が配置されています。基礎1と柱材5の間には、下側固定金物11と上側固定金物15が設置され、補強用繊維材料束Fbがこれらの金物を連結する形で取り付けられています。基礎1は、べた基礎や布基礎として使用され、内部には鉄筋が埋設されています。耐震補強装置は、基礎1と柱材5を一体化することで、建物の耐震性能を向上させます。

【図1】

図2は、図1の補強装置の基礎1と土台2の取り付け部をわかりやすく示しています。基礎1の側面には下側固定金物11が設置され、その突出部12に補強用繊維材料束Fbの一端が巻き付けられています。土台2の側面には上側固定金物15が設置され、これにも補強用繊維材料束Fbが巻き付けられ、しっかりと固定されています。この構造により、基礎1と土台2の接合部を強固にし、地震時の水平・垂直方向の揺れに対する耐性を高めます。

【図2】

図3では、補強用繊維材料束Fbが示されており、これが下側固定金物11の下側突出部12に巻き付けられた後、上側固定金物15の上側突出部16にも巻き付けられます。繊維束は、基礎1と土台2を跨いで複数回巻き付けられ、熱可塑性樹脂で固められることで、強度が向上します。繊維束は単に束ねられている形態だけでなく、一旦編み込まれてから巻き付けられてもよいとされます。

【図3】

図4は、第一耐震補強装置10の詳細な構造を示しています。基礎1に設置された下側固定金物11のアンカーボルトが、下側突出部12として機能し、補強用繊維材料束Fbをしっかりと固定します。土台2に跨って設置された上側固定金物15の上側突出部16にも、補強用繊維材料束Fbが巻き付けられ、緩みを防ぐためにナット13、17が設置されています。これにより、建物全体の耐震補強効果が発揮されます。

【図4】

図5は、第一耐震補強装置10における補強用繊維材料束Fbの巻き付け方法を示しています。補強用繊維材料束Fbは、下側固定金物11の下側突出部12と上側固定金物15の上側突出部16の間に複数回巻き付けられ、巻き数や張力を調整することで、目標耐力を達成することが確認されています。

【図5】

図6は、第二耐震補強装置20の構造を示しています。基礎1の内側に設置された下側固定金物21と、上側固定金物25の間に補強用繊維材料束Fbが配置されます。下側突出部22と上側突出部26に巻き付けられた補強用繊維材料束Fbは、アジャスターボルト27でテンションを調整され、耐震性能を高めるよう設計されています。

【図6】

図7は、第三耐震補強装置30の構造を示しています。下側固定金物31の下側突出部32と、上側固定金物35の上側突出部36に、補強用繊維材料束Fbが巻き付けられています。これらの突出部には、保持部とネジ部が設けられており、補強用繊維材料束Fbの張力を調整しやすい構造になっています。

【図7】

図8は、第四耐震補強装置40の構造を示しています。下側固定金物41の下側突出部42と、上側固定金物45の上側突出部46には、それぞれプーリが設けられており、補強用繊維材料束Fbが巻き付けられています。プーリにより、繊維束のテンションを調整し、建物の変形を吸収する役割を果たします。

【図8】

図9は、図8に示された第四耐震補強装置40における、補強用繊維材料束Fbの巻き付け方法を詳細に示しています。下端部がプーリ42aに巻き付けられ、上端部がプーリ46aに巻き付けられた繊維束Fbは、適切なテンションをかけて固定され、耐震補強装置として機能します。プーリの回転を調整することで、建物全体の耐震性能を最適化することが可能です。

【図9】

2. 取付構造の利点

本発明を用いた耐震補強装置の取付構造には以下の利点があります。

①段差や構造の歪みに対応可能
基礎1と柱材5の間に段差がある場合でも、補強用繊維材料束(Fb)を用いることで、両者を密着させることなく連結できます。これにより、建物の構造的制約を受けずに補強効果を発揮でき、柔軟性の高い施工が可能です。

②施工性の向上
補強用繊維材料束(Fb)は、帯状に形成する必要がなく、束のままで使用できるため、施工が簡便でコストを抑えることができます。また、各固定金物(上側・下側)の設置により、特定の工具や高い精度を求められず、現場での調整が容易です。

③強度の確保と耐久性の向上
補強用繊維材料束(Fb)は、炭素繊維などの高強度な材料で構成され、熱可塑性樹脂で固めることで、長期間にわたり安定した耐震性能を維持できます。特に、固定金物の設置位置や繊維束の巻き付け方法により、テンションを調整しながら強度を確保することが可能です。

④改修工事への適用性
従来の木造建築物には、ホールダウン金物が設置されていない場合が多く、耐震補強が必要とされます。本発明は、基礎1と柱材5の接合部を強化することで、既存建築物の耐震改修に適しています。また、複数の種類の耐震補強装置(第一~第四)があり、建物の状況に応じた最適な選択が可能です。

⑤耐久性と信頼性の向上
添え木(寸法調整材)を使用することで、柱材の幅を増し、耐震補強装置をしっかりと固定することができます。これにより、構造上の制約に左右されず、耐久性の高い補強が行えます。さらに、繊維材料束が劣化しにくいため、長期的な耐震性が確保されます。

これらの利点により、本発明の取付構造は、耐震補強の効果を最大限に引き出し、建物の耐震性を向上させるとともに、施工やコスト面でも大きな利点を提供します。

この発明のポイントは以下の通りです:

  • 耐震補強装置の設計:基礎と上部構造部(柱材)を連結するための補強用繊維材料束を用いた新しい構造。これにより、建物の耐震性を向上させる。
  • 柔軟な適用性:基礎と柱材の間に段差がある場合でも対応でき、既存建築物の耐震改修や新築建物にも使用可能。
  • 施工性の向上:施工が簡便でコストを抑えられ、繊維束の巻き付けやテンション調整が容易。
  • 高い耐久性と強度:炭素繊維を使用し、長期間の安定した性能を提供。

この発明を展開させた未来予想として、以下のシナリオが考えられます。

① 耐震性能の標準化と普及
この耐震補強装置は、施工性とコスト面で優れているため、新築住宅や既存建物の改修に広く採用されるようになるかもしれません。特に、耐震性能が求められる地域では、法律や規制の強化により、この技術が標準的な耐震補強方法として普及する可能性があります。

② 既存建物の耐震改修の促進
従来の耐震補強では、コストや施工の難易度が高く、改修工事が遅れていました。しかし、本発明は簡便な施工と柔軟な設計を特徴としており、多くの既存建物での耐震改修が実施され、耐震性能の向上が期待されます。これにより、地震被害を未然に防ぐことができ、建物の長寿命化にも貢献するでしょう。

③ 住宅市場における評価の向上
本発明を採用した住宅や建物は、耐震性能の高さから市場価値が向上し、購入者や借家人からの評価が高まるかもしれません。特に地震が頻発する地域では、耐震性能の高さが購入の決め手となるため、この技術を導入した建物が優先的に選ばれるようになるでしょう。

④ 新技術との統合と進化
将来的には、この耐震補強技術とIoT(モノのインターネット)技術が組み合わされ、リアルタイムで建物の耐震性能や状態をモニタリングできるシステムが開発されるかもしれません。例えば、センサーを通じて補強装置の状態や繊維材料束の張力を監視し、劣化や異常を検知した際には、即時にメンテナンスが行えるシステムの構築は可能性のある技術展開でしょう。

発明の名称

耐震補強装置、耐震補強装置の取付構造及び耐震補強方法

出願番号

特願2024-83073

公開番号

特開2024-98093

原出願日

令和2年6月30日

公開日

令和6年7月19日

出願人

ミサワホーム株式会社

発明者

大村 真史
三津橋 歩


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