はじめに
Apple Watchに搭載された心電図(ECG)機能は、不規則な心拍を検知し、ユーザーの健康リスクを早期に発見する上で大きな役割を果たしています。しかし、この機能は医療機器メーカーとの特許侵害訴訟に発展し、Appleは過去に厳しい局面を経験してきました。
こうした状況下で、Appleが2024年2月に出願した米国特許出願「US 2025/0251703 A1」は、この分野における新たな方式を示唆しています。この特許は、Apple WatchのデジタルクラウンにECG信号を検出する技術を組み込む方法についての出願です。
発明の名称:INPUT DEVICE WITH CONDUCTIVE SIGNAL PATH USING CONDUCTIVE VISCOUS MATERIAL(導電性粘性材料を用いた導電性信号経路を有する入力装置)
出願人名:Apple Inc.
公開日:2025年8月7日
公開番号:US 2025/0251703 A1
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/US-A-2025-0251703/50/ja
出願の内容
この特許出願の核となる技術は、導電性の液体または粘性材料(導電性粘性材料)をデジタルクラウンの内部に使用することです。これにより、ユーザーが指でクラウンに触れるだけでECG信号を安定して取得できる「導電性信号経路」が確立されます。
例えば、図3Aを参照すると、デジタルクラウン(302)の内部に配置された導電性粘性材料(306)が描かれています。この材料が、クラウンの外面にある電極(304)と、内部にあるECG回路(308)を電気的に接続する役割を果たします。これにより、ユーザーがクラウンに触れると、心臓から発せられる微弱なECG信号が指先、クラウン、そして粘性材料を伝って、時計内部の回路にスムーズに届く仕組みです。
図4Aには、別の実施例として、クラウンの内部に複数の電極(402a、402b)が配置されている様子が示されています。これにより、粘性材料(406)を通じて複数の電極から信号を収集し、より高精度なECG測定が可能になると考えられます。
Appleの特許侵害訴訟
このような新たな特許出願が行われていることから、Appleが心拍数やECGの分野における知的財産を強化し続けていることが見て取れます。出願にあたっては、過去の特許侵害訴訟を教訓としているはずです。
特に有名なのが、AliveCor社との訴訟です。Apple WatchのECG技術がAliveCor社の特許を侵害していると訴えられ、一時、米国際貿易委員会(ITC)はAliveCor社に有利な裁定を下しました。しかし、最終的にはAliveCor社の特許そのものが無効と判断され、Appleの勝利に終わりました。
もう一つ、最近の大きな訴訟として、Masimo社との血中酸素濃度(パルスオキシメトリー)に関する訴訟があります。こちらはECGとは異なりますが、Apple Watchのセンサー技術がMasimo社の特許を侵害したとして、ITCはApple Watchの輸入禁止を命じました。この訴訟は現在も続いています。
まとめ
今回紹介した特許出願は、単なる技術的な改良にとどまらず、訴訟を通じてAppleが学んだ「特許の重要性」を強く示唆しています。競合他社からの訴訟リスクを回避し、自社の技術を保護するためには、革新的なアイデアを継続的に特許として確保することが不可欠です。
この特許出願は、Appleが今後もApple Watchの健康・医療分野での機能を強化し、同時にその知的財産ポートフォリオを盤石なものにしていくという、明確な意思表示といえます。