寝心地アップ!テントのようなハンモック


寝心地アップ!テントのようなハンモック

寝心地アップ!テントのようなハンモック

寒い季節が終わり、屋外活動が気持ち良い時期になると、都会の喧騒や人混みを避けて、キャンプに行きたくなりますよね。

キャンプといえば大自然に囲まれた中でのテント泊が楽しみの一つ、という方は多いのではないでしょうか。

また、木の間にハンモックを吊るしてゆったりと揺られるというのも、憧れますよね。

ところで、ハンモックというのは、椅子として使用する「ベンチ用ハンモック」と、ベッド代わりに使用する「睡眠用ハンモック」の2つに大きく分けられます。

このうち、睡眠用ハンモックは、従来からいくつかの構造的欠陥が指摘され、快適な睡眠が得られにくいという問題がありました。

すなわち、従来型の睡眠用ハンモックでは、多くの場合、非平坦で湾曲した形状となり、使用者の快適性に悪影響を与えていました。

さらに、安定性を提供するための張力を適切に分布させるには不十分な構造であり、これにより十分な耐久性を発揮することができませんでした。

そこで、米国ユタ州在住のデレク・ティロットソン氏(ILLOTSON, Derek)は、ハンモックの快適性を向上させ、さらには多くの屋外活動(例えばバックパッキングなど)にも適用できる新たなハンモックの構造を発明し、米国特許商標庁を受理官庁として、2019年10月19日に特許協力条約に基づく国際特許出願を行いました(国際公開番号:WO2020/082093)。

このハンモックは、テントとしても使用できるように蚊帳(網)やフラップが設けられています。

従来のハンモックと異なり、ハンモックの両側2点で木などに支持させるのではなく、2本の木の間に渡されたロープ(リッジライン)に吊り下げられるように寝台が構築されます。

このような構造とすることで、ハンモックの両側(頭と足側)が斜め上に引っ張られることがなくなり、横たわった際に腰が落ちてしまうことが防止できるのです。

本発明では、ハンモックを吊るすロープにかかる力の方向を論理的にコントロールし、単純な構造ながら、上述した従来の問題点を解決する発明となっています。

そして、単純な構造ゆえに、畳んだ際には非常にコンパクトになり、登山の荷物量をぐっと減らせると考えられます。

発明者のデレク氏は日頃からアウトドアライフを楽しんでいるそうですが、このような個人発明家のアイディアが特許とともに製品化されるなんてすごいことですね。

必要は発明の母、といいますが、我々もなにか発明できることはないか、身の回りを見渡すことからはじめてみるといいかもしれませんね。

目的

本発明は、従来の睡眠用ハンモック(例えばハンモックテントなど。座るためのハンモックチェアとは区別されます)が従来抱えていた構造的・設計的欠点を改善し、従来型のハンモックにおける利用者への不快感を解消させることを目的として国際出願されたものです。

普段目にする睡眠用ハンモック

我々が普段目にする睡眠用ハンモックは、非平坦で湾曲した面で寝ることになります。

「そんなことは常識」と思うかもしれませんが、このような姿勢は、使用者の快適性や身体の支持(安定性)に多くの悪影響を与えます。

このような問題点は古くから指摘されており、従来市販されているハンモックの中にも、平坦な寝床面を有する、いわゆる平坦プラットフォーム型の睡眠用ハンモックも存在しています。

しかし、平坦プラットフォーム型のハンモックであっても、どれも不安定であったり、耐久性に問題があるものばかりでした。

一般的にハンモックは屋外のキャンプ等で使われるため、耐久性が要求されます。このような背景から、従来の平坦プラットフォーム型ハンモックは、耐久性や剛性を高めるために、とてもかさばり、かつ重量が大きくなってしまい、バックパッキングなどの屋外活動には不向きなものでした。

新たな構造のハンモックテント

そこで、米国ユタ州在住のアウトドアを愛好する発明家、デレク・ティロットソン氏(Derek Tillotson)は、上記問題点を解決するために、新たな構造のハンモックテントを発明しました。

なお、当該発明を特許出願後に、クラウドファンディングにて資金を調達し、すでに一般販売に至っています。

本発明と従来発明の共通点

本発明では、垂直に立っている木々など、2つの支点の間にハンモックを吊るすという基本概念は同じです。

従来のハンモック

しかし、従来のハンモックの場合、2つの支点に向かって、寝床面が直接斜めに引っ張られる構造となっていました。

このため、寝床面に寝転ぶと、頭と足が斜め上に向いてしまい、自らの体重によって寝床面が変形し、腰が落ちてしまうことが避けられませんでした。

本発明のハンモック

これに対して、本発明のハンモックの場合には、2つの支点に向かって、リッジラインを構成する一本のワイヤーを設けるだけで、従来の問題点を解決しました。

このリッジラインこそが、本発明の最大の特徴といえます。

【図1】本発明実施例

【図2】本発明実施例の側面図

プラットフォーム114

本発明では、図1−2の通り、平坦なプラットフォーム114を有しています。

このプラットフォームに使用者が寝転んでも、従来型ハンモックのように、2つの支点に向かって斜めにプラットフォームが引っ張られることはありません。

それはリッジライン104が存在しているために、2つの取付点112で使用者の体重が支持されるからです。

この構造において、使用者が寝転がるプラットフォーム部分は、張力をもったリッジラインに対して単にぶら下がるだけの構造になっているために、プラットフォームの変形が起こりにくいというわけなのです。

リッジライン104

このリッジラインは本発明の心臓部ともいえ、張力に対して耐久性のある素材が選択されます。

本発明の明細書には、一例としてナイロン製のウェビング構造が示されていますが、もちろんこれに限定されるわけではありません。

【図3】本発明実施例の平面展開図

リッジライン104

図3は本発明のハンモックを平面的に展開したものです。リッジライン104はワイヤー等のロープですが、その他の構成要素は軽量で耐水性を有するクロス(例えばナイロンやポリエステル)であって、通常のテント等にも使われているものです。

よって、不必要に重量が増したり、かさばったりすることもないことが示されています。

これによって、例えばバックパッキングなど、キャンプ用品の小型化・軽量化が要求される活動にも、採用可能となっています。

リッジラインに対して、テントとなるナイロンクロス等をかけることによって、簡便にハンモックテントとすることも可能です。</>

本発明において、リッジラインは体重を分散させる役割を担いますが、テントや蚊帳(メッシュ)などを設置するのにも役に立つというわけです。</>

【図4】本発明実施例のテントキャノピー内部</>

テントのキャノピー内部

リッジライン104にぶら下がるテントのキャノピー内部は上記のような構造となっています。</>

居住空間を広げるためのスプレッダー・バー146は任意に設けられます。</>

テント内部にあると便利なポケット136は、種々のテントに用意されているものですね。</>

そして、快適な就寝に役立つベッドパッド150が用意されます。</>

これはエアーで膨らませるタイプですが、これも一般的にテント泊で用いられているものですが、ハンモックで適用できると快適性がさらに増しますね。</>

【図5】本発明実施例のハンモックテント一部拡大図</>

本発明のハンモックテント

本発明のハンモックテントは、設営にあたりリッジラインに張力がかかるように設営しなければなりませんが、プラットフォーム114に使用者が体重をかけたことに起因してリッジラインに張力が働きますので、ハンモックテントの設営にあたっては、左図のようにリッジライン104が45°の角度まで緩んでいても問題ないそうです。</>

これにより、設営の難易度について厳密性を求めるものではなくなり、安全性が高まったといえます。</>

このように、従来のハンモックの問題点をたった一本のリッジラインを用意することで解決し、快適性を向上させるばかりでなく、軽量化や設営の簡易性も併せ持たせることが可能となりました。</>

発明の名称:Hammock Tents and Related Camping Systems
出願番号:PCT/US2019/058556
国際公開番号:WO2020/082093A1
出願日:2019年10月29日
国際公開日:2020年4月23日
出願人:Derek Tillotson
経過情報:当該国際特許出願の国際調査報告は、韓国特許庁の審査官によって行われ、新規性及び進歩性ありという見解が報告されている。

<免責事由>
本解説は、主に発明の紹介を主たる目的とするもので、特許権の権利範囲(技術的範囲の解釈)に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解を示すものではありません。自社製品がこれらの技術的範囲に属するか否かについては、当社は一切の責任を負いません。技術的範囲の解釈に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解については、特許(知的財産)の専門家であるお近くの弁理士にご相談ください。


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