トランスGG、創薬支援で前進 エクソンヒト化マウスの特許が成立


株式会社トランスジェニック(以下、トランスGG)は、2025年6月、日本国内において「エクソンヒト化マウス」に関する特許が正式に成立したと発表した。本特許は、ヒト疾患の分子機構解析や創薬における薬効評価、毒性試験など、幅広い分野で活用が期待される次世代モデル動物に関するものであり、今後の創薬研究において大きなインパクトを与えるものとなる。

■ エクソンヒト化マウスとは

エクソンヒト化マウスは、マウスの特定遺伝子のエクソン領域をヒト由来の配列に置換することで作製された遺伝子改変動物である。これにより、対象とするヒト遺伝子がマウス体内で機能的に発現し、ヒト特有のスプライシングやタンパク質構造、発現調節などの現象を忠実に再現することが可能となる。従来のヒト化モデルと比較して、より高い精度でヒト疾患の病態モデルを構築できる点が最大の特徴だ。

本技術は、例えば特定の遺伝子変異が原因となる希少疾患やがん、免疫疾患において、疾患機構の理解を深めるためのツールとして極めて有効である。また、抗体医薬や分子標的薬の開発におけるin vivo評価系としても注目されている。

■ 特許の概要と意義

今回成立した特許は、「エクソン領域のヒト化手法およびその応用」に関するものであり、特定の遺伝子におけるエクソン配列の人為的置換法、およびその結果得られるエクソンヒト化マウスに関する技術的枠組みが保護される。特許番号や詳細な請求項目は非公開とされているが、対象となる遺伝子はがん関連や免疫応答、神経変性疾患に関連するものを含んでおり、今後の研究分野に広範な応用が見込まれる。

トランスGGは、2000年代初頭よりノックアウトマウスや遺伝子改変動物の作製事業を手がけており、国内外の研究機関や製薬企業に多数のモデル動物を提供してきた。今回の特許取得により、同社が独自に開発した遺伝子改変技術が知的財産として強化され、他社との差別化と国際競争力の向上が期待される。

■ 創薬支援の強化とビジネス展開

トランスGGは、本特許技術を活用した新たな受託研究サービスの拡充を計画しており、国内製薬企業のみならず、欧米やアジアの研究機関への展開も視野に入れている。特に、個別化医療(プレシジョン・メディスン)の進展に伴い、患者ごとの遺伝子変異に応じた創薬評価系が求められている中、エクソンヒト化マウスはそのニーズに応える革新的ツールとなる。

また、現在開発中の複数のモデルについても、今後順次特許出願を行い、国内外での知財網の構築を加速させる方針だ。さらに、パートナー企業との共同研究やライセンス供与など、多角的なビジネススキームも検討しており、バイオテック業界全体への波及効果が期待されている。

■ 今後の展望と社会的意義

近年、医薬品開発の現場では、ヒトへの外挿性が高い前臨床モデルの重要性が増している。マウスは長年にわたり実験動物の主流として用いられてきたが、ヒトとの遺伝子・生理的差異による限界も存在していた。こうした中、エクソンヒト化というアプローチは、マウスの生物学的背景を維持しつつ、ヒト遺伝子機能を反映させることができるため、次世代の創薬プラットフォームとして非常に有望である。

トランスGGの今回の特許取得は、日本発のバイオテクノロジーとして国際的な競争力を高めると同時に、より安全で効果的な医薬品の開発、さらには希少疾患など治療選択肢の乏しい領域における新たな治療法の創出に貢献することが期待されている。

同社は今後も「創薬研究の支援による医療の発展」への貢献を使命とし、技術革新と知財戦略の両輪によってグローバルな展開を加速していく構えだ。


Latest Posts 新着記事

「aiwa pen」誕生!端末を選ばない次世代タッチペン登場

株式会社アイワ(aiwa)は、ワコム株式会社が開発した先進的なAES(Active Electrostatic)方式の特許技術を搭載した新製品「aiwa pen(アイワペン)」を、2025年7月3日より全国の家電量販店およびオンラインショップにて販売開始したと発表しました。マルチプロトコル対応によって、Windows・Android・Chromebookなど様々な端末での利用を可能にし、使う端末を...

完全養殖ウナギ、商用化へ前進 水研機構とヤンマーが量産技術を特許化

絶滅危惧種に指定されているニホンウナギの持続的な利用に向けた大きな一歩となる「完全養殖」技術の量産化が、いよいよ現実味を帯びてきた。国の研究機関である水産研究・教育機構(以下、水研機構)と、産業機械メーカーのヤンマーホールディングス(以下、ヤンマー)が共同で開発を進めてきたウナギの完全養殖技術について、両者が関連する特許を取得したことが明らかになった。 これにより、これまで不可能とされていたウナギ...

ミライズ英会話、AI活用の語学教材生成技術で特許取得 EdTech革新が加速

英会話スクール「ミライズ英会話」(運営:株式会社ミライズ、東京都渋谷区)は、AIを活用した「完全パーソナライズ語学教材自動生成技術」に関する特許を、2025年5月に日本国内で正式に取得したと発表した。この技術は、学習者一人ひとりの語学レベルや目的、学習傾向に応じて最適な学習教材をリアルタイムで生成・更新するという、従来にない革新的な仕組みである。 本技術の特許取得により、語学教育における個別最適化...

トランスGG、創薬支援で前進 エクソンヒト化マウスの特許が成立

株式会社トランスジェニック(以下、トランスGG)は、2025年6月、日本国内において「エクソンヒト化マウス」に関する特許が正式に成立したと発表した。本特許は、ヒト疾患の分子機構解析や創薬における薬効評価、毒性試験など、幅広い分野で活用が期待される次世代モデル動物に関するものであり、今後の創薬研究において大きなインパクトを与えるものとなる。 ■ エクソンヒト化マウスとは エクソンヒト化マウスは、マウ...

紙も繊維も“東レの特許にぶつかる”──業界を動かす知財の力とは?

繊維、紙、パルプ業界は、古くから日本の基幹産業の一つとして発展してきました。近年では、環境配慮型の製品開発や高機能素材の開発が加速し、技術競争の主戦場となっています。そんな中、特許という形で技術を押さえることの重要性がかつてないほど高まっており、「特許牽制力」すなわち他社の出願・権利化を妨げる力が、企業競争力の鍵を握る要素として注目されています。 2024年の業界分析において、特許牽制力で群を抜く...

万博で出会う、未来のヒント──“知財”がひらく可能性

2025年に開催される大阪・関西万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げ、世界中から最先端の技術、文化、アイデアが集まる祭典です。その中で、ひときわ注目を集めているのが「知的財産(知財)」をテーマにした展示や体験型イベント。普段は馴染みが薄いと感じがちな“知財”の世界を、子どもから大人まで誰もが楽しく学べる機会が広がっています。 知財とは?難しくない、でもとても大事なこと 「知的財産...

ロボットタクシーの現状|自動運転と特許

「ロボットタクシー」の実用化が世界各地で進んでいます。本コラムでは、その現状とメリット・問題点を簡潔にまとめ、特にロボットタクシーを支える特許に焦点を当てて、日本における実用化の可能性を考察してみます。 世界で進むロボットタクシーの実用化 ロボットタクシーの導入は、主に米国と中国で先行しています。 米国 Google系のWaymo(ウェイモ)は、アリゾナ州フェニックスやカリフォルニア州サンフランシ...

6月に出願公開されたAppleの新技術〜顔料/染料レスのカラーマーキング 〜

はじめに 今回のコラムは、2025年6月19日に出願公開された、Appleの特許出願、「Electronic device with a colored marking(カラーマーキングを備えた電子デバイス)」について紹介します。   発明の名称:Electronic device with a colored marking 出願人名:Apple Inc.  公開日:2025年6月19...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

中小企業 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る