日工と立命館大学、高強度コンクリートの製造工程において「空練り」がコンクリートの品質向上に貢献~特許取得


コンクリート製造設備を手がける日工株式会社(本社:兵庫県明⽯市 代表:辻 勝)、立命館大学(所在地:京都府京都市 学長:仲谷善雄)は、日工開発部坂本恭裕、立命館大学理工学部川崎佑磨准教授らが共同で研究している「モルタルの製造方法およびフレッシュコンクリートの製造方法(以下、本研究)」において特許を取得したことを、24年4月1日プレスリリースで公表した。

近年の自然災害の激甚化や頻発化を受けて、より強固な建造物の必要性が高まっているが、そのなかで、強固な建造物を作るのに欠かせない「高強度コンクリート*1」の利用が促進されている。また、人口減少や建設業界の人手不足といった観点から、高強度コンクリートの施工にはプレキャストコンクリート*2製品の利用が促進されると予想されている。

コンクリートはセメント、水、骨材(砂利・砂)、混和剤をミキサで混ぜて製造するが、高強度コンクリートの練混ぜ時には普通コンクリートよりセメント量が多いために練混ぜ条件によるコンクリートの品質(流動性)への影響が大きくなる。

しかしながら、高強度コンクリートの練混ぜに関する研究が進んでおらず、最適な製造方法の確立に至っていないことから、日工は立命館大学と共同で高強度コンクリートの練混ぜに関する研究を行ってきた。その結果、練混ぜの条件として「空練り*3」がコンクリートの品質(流動性)に与える影響とそのメカニズムを解明し、特許を取得するはこびとなった。

*1・高強度コンクリート・・・普通コンクリートの数倍以上の(約50N/mm2~)強度があるコンクリートで、高層ビルなどに使用されている。
*2・プレキャストコンクリート・・現場で組み立て・設置を行うために、工場などであらかじめ製造されたコンクリート製品や部材の総称。製造時には製造時には施工性を確保するための品質(流動性)が求められる。
*3・空練り・・・水と混和剤を加える前に、事前に表面水を持った細骨材(砂)とセメントを混ぜること。

本研究では練混ぜの方法として「空練り*3」がコンクリートの品質(流動性)に与える影響とそのメカニズムを解明すべく、テストミキサ(60L)を用いてモルタルフロー*4とスランプフロー*5の計測を行った。その結果、両ミキサともに事前に空練りを行うことでモルタルフローもスランプフローも大きくなり、コンクリートの流動性を高められることがわかった。空練りを行うことでフロック*6が形成され、その後に吸着する混和剤の量やタイミングに変化が生じるためによるものとしている。

モルタルフロー*4・・・モルタルの流動性を示す値
スランプフロー*5・・フレッシュコンクリートの流動性を示す値
フロック*6・・・水和反応によって発生する電荷によりできる微細なセメント粒子の塊

先述のとおり、空練りを行うことで流動性を高めることができるため、混和剤の使用量を抑えて流動性の高い高強度コンクリートを製造することが可能となる。混和剤使用量を削減できると高強度コンクリート製造メーカにとってはコストカットが期待でき、さらに、混和剤量を削減することで粘性も低減できるため、プレキャストコンクリート製品製造時の施工性も向上することが期待できるとしている。

特許概要

【特許番号】特許第7403137号(P7403137)
【登録日】令和5年12月14日(2023.12.14)
【発明の名称】モルタルの製造方法およびフレッシュコンクリートの製造方法
【特許権者】 【氏名又は名称】日工株式会社   学校法人立命館
【発明者】 【氏名】坂本 恭裕  川崎 佑磨  福山 智子  小林 皆也  金 侖美

【要約】 【課題】混和剤の使用量を抑制しつつ、モルタルまたはフレッシュコンクリートの流動性を向上させることができる方法を提供する。

【解決手段】まず、水を含む細骨材とセメントとの練混ぜを行う(第1混練工程S1)。次に、練混ぜ水および混和剤を添加して、さらに練混ぜを行う(第2混練工程S2)。その後、粗骨材を添加してさらに練混ぜを行う(第3混練工程S3)。第1混練工程S1では、細骨材に含まれる水により、セメントの粒子がフロックを形成する。これにより、セメントの比表面積が小さくなるため、第2混練工程において、セメントの粒子に吸着せずに残る余剰の混和剤が生じる。この余剰の混和剤が、第2混練工程S2により生成されるモルタルおよび第3混練工程S3により製造されるフレッシュコンクリートの流動性を向上させる。したがって、混和剤の使用量を抑制しつつ、モルタルまたはフレッシュコンクリートの流動性を向上させることができる。


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