孫正義氏「Arm売却断念」も強気発言・・・ 22年度内「Arm再上場」の決意語る


ソフトバンクグループ(ソフトバンクG)の孫正義会長兼社長は、2022年3月期 第3四半期の決算会見の席上でNVIDIAへの売却が頓挫した子会社の英Armについてこう語ったと、ミレニアム世代に向けた経済メディアのBUSINESS INSIDER2229日次のように伝えている。

今後、Armについてはスマートフォン、クラウド、電気自動車といった分野で成長拡大を見込み、20233月までに「半導体業界史上最大の上場を目指す」(孫社長)考えだ。

今後もArmを保有し続けることとなったソフトバンクGだが、「振り返ってみたら、こっち(売却中止)の方が良かったと思うようになるのでは」と孫社長は強がってみせる。その予測が現実のものとなるか、刷新されたArm新経営陣の手腕が注目される。

ソフトバンクGArm買収を公表したのは2016年にさかのぼる。3兆円を超える大型買収だったが、Armは「ほぼ99%、もしかしたら100%のスマートフォンに使われている」(孫社長)というスマートフォン業界でのシェアに加え、サーバー、自動車、IoTなど様々な製品への展開によって、保有するIP(知財)の市場価値を高めてきた。

ソフトバンクGの買収で上場廃止になったArmだが、孫社長自身は当初から「5年程度で再上場する」との意向で、買収後にスタートした新しいアーキテクチャの設計に23年、それを搭載した製品が市場に出回るのに2年ほど掛かるという予測が元になっていた、という。

当初はエンジニア倍増計画を打ち出して投資を進めたことで利益を減らしたArmだが、今年に入って「ついに売上が伸び始めた」と孫社長。「植えた種がやっとこれから花を付け、実をなす」ようになるのだとアピールする。

結果として、NVIDIAとの売買契約に盛り込まれた売上高などの成果報酬部分も達成できる見込みが立ち、売却が加速するかに見えたが、そこで待ったを掛けたのが「GAFAをはじめとしたIT企業や米政府、EUなどの各国政府」(同)であり、ArmNVIDIAという異なる製品を扱っている企業同士の合併に対して横槍が入った、というのが孫社長の認識のようだ。

NVIDIAでも新たな解決案を提案したものの承認には至らず、「買収断念」についてはNVIDIA側からの申し出だったと、孫社長は明かした。ソフトバンク側がすでに受け取った12.5億ドル(約1443億円)は返却せず、NVIDIA20年間Armライセンスを保持しつつも、売買そのものは中止するという結果となった。

こうして「Armが戻ってきた」(同)という状況だが、孫社長は「第2の成長が始まる」とArmの将来性を猛アピール。スマートフォン需要がある程度行き渡り、2018年頃から横ばいだった売上が2021年度に入って伸びたのは、クラウド需要拡大によるデータセンターやサーバーでのArmの採用、自動車、特に電気自動車でのArm利用が拡大したことが奏功したとしている。

Armの特徴として、低消費電力で高い演算処理能力を持つ点が、他のインテルアーキテクチャなどに対する優位点だと強調する孫社長は、「スマートフォンでArmが席巻したように、クラウド(で使われるサーバーなど)もどんどん(クラウド向け半導体の王者であるインテルから)Armにひっくり返る」と主張。

こうした利用の拡大によって利益が毎年増大し、「Armは第2の成長期、黄金期にいよいよ入る」(同)と自信を見せたのだ。

NVIDIAとは当初、買収額約4兆円で合意。3分の1は現金だが、残る3分の2NVIDIAの株式で受け取り、筆頭株主になる方向だった。NVIDIAは「今日現在だと80ビリオン(800億ドル≒約9兆円)を超える」(同)という時価総額で、もともとの(ソフトバンクGによる)Arm買収時の3兆円に対して大きな利益が出るという見込みだった。

そもそも、Armの売却案はコロナ禍による株式市場の低迷によって目減りした資金の増強を狙い、「泣く泣く手放すことを迫られた」(同)という経緯がある。ソフトバンクGは、米中の政治的な摩擦から中国株が低迷して利益を失い、さらにコロナ禍が加わって「冬の時代が続いている」(同)という状況にある。

とはいえ孫社長は、SVFの投資先が上場した際の売却益で新規投資を行うというエコシステムが回り始めている、と健全性をアピールする。加えて、2022年度中にArmを再上場させることで、市場から資金を調達する方針だ。

「これから(Armは)黄金期に入ると思っているので、できるだけあまり売りたくないと内心思っている」と冗談めかす孫社長だが、Armに投資したソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)の外部投資家への還元に加え、「冬の時代」を乗り切るための資金調達という意味合いもある。

前期の純利益3551億円は、孫社長自身「良すぎたのかもしれない」と言うが第3四半期を終えた時点の累計純利益3926億円だ。それでも孫社長は、時価純資産が19兆円を超え、保有株式に対しての負債も一定以下を保って投資ができていると強調した。

なお、ソフトバンクGは今後の業績見通しについて、決算短信のなかで「未確定な要素が多く連結業績を見通すことが困難なため、予想の公表を控えています」としている。


【オリジナル記事・引用元・参照】
https://www.businessinsider.jp/post-250359


Latest Posts 新着記事

AI×半導体の知財戦略を加速 アリババが築く世界規模の特許ポートフォリオ

かつてアリババといえば、EC・物流・決済システムを中心とした巨大インターネット企業というイメージが強かった。しかし近年のアリババは、AI・クラウド・半導体・ロボティクスまで領域を拡大し、技術企業としての輪郭を大きく変えつつある。その象徴が、世界最高峰AI学会での論文数と、半導体を含むハードウェア領域の特許出願である。アリババ・ダモアカデミー(Alibaba DAMO Academy)が毎年100本...

翻訳プロセス自体を発明に──Play「XMAT®」の特許が意味する産業インパクト

近年、生成AIの普及によって翻訳の世界は劇的な変化を迎えている。とりわけ、専門文書や産業領域では、単なる機械翻訳ではなく「人間の判断」と「AIの高速処理」を組み合わせた“ハイブリッド翻訳”が注目を集めている。そうした潮流の中で、Play株式会社が開発したAI翻訳ソリューション 「XMAT®(トランスマット)」 が、日本国内で翻訳支援技術として特許を取得した。この特許は、AIを活用して翻訳作業を効率...

特許技術が支える次世代EdTech──未来教育が開発した「AIVICE」の真価

学習の個別最適化は、教育界で長年議論され続けてきたテーマである。生徒一人ひとりに違う教材を提示し、理解度に合わせて学習ルートを変化させ、弱点に寄り添いながら伸ばしていく理想の学習プロセス。しかし、従来の教育現場では、教師の業務負担や教材制作の限界から、それを十分に実現することは難しかった。 この課題に真正面から挑んだのが 未来教育株式会社 だ。同社は独自の AI学習最適化技術 で特許を取得し、その...

抗体医薬×特許の価値を示した免疫生物研究所の株価急伸

東京証券取引所グロース市場に上場する 免疫生物研究所(Immuno-Biological Laboratories:IBL) の株価が連日でストップ高となり、市場の大きな注目を集めている。背景にあるのは、同社が保有する 抗HIV抗体に関する特許 をはじめとしたバイオ医薬分野の独自技術が、国内外で新たな価値を持ち始めているためだ。 バイオ・創薬企業にとって、研究成果そのものだけでなく 知財ポートフォ...

農業自動化のラストピース──トクイテンの青果物収穫技術が特許認定

農業分野では近年、深刻な人手不足と高齢化により「収穫作業の自動化」が急務となっている。特に、いちご・トマト・ブルーベリー・柑橘など、表皮が繊細な青果物は人の手で丁寧に扱う必要があり、ロボットによる自動収穫は難易度が極めて高かった。そうした課題に挑む中で、株式会社トクイテンが開発した “青果物を傷付けにくい収穫装置” が特許を取得し、農業DX領域で大きな注目を集めている。 今回の特許は単なる「収穫機...

保育データの構造化とAI分析を特許化 ルクミー「すくすくレポート」技術の本質

保育業界におけるDXが本格的に進む中、ユニファ株式会社が展開する「ルクミー」は、写真・動画販売や登降園管理、午睡チェックシステムなどを通じて保育の可視化と効率化を支えてきた。その同社が開発した 保育AI™「すくすくレポート」 が特許を取得したことは、保育現場のデジタル化における大きな節目となった。 「すくすくレポート」は、子どもの日々の成長・発達をAIが分析し、保育士の観察記録を補助...

JIG-SAW、動物行動AIの“核技術”を米国で特許化 世界標準を狙う布石に

IoTプラットフォーム事業を展開する JIG-SAW株式会社 が、米国特許商標庁(USPTO)より「AI算出によるベクトルデータをベースとしたアルゴリズム・システム」に関する特許査定を受領した。対象となるのは 動物行動解析分野—つまり動物の動き・姿勢・行動をAIで読み取り、ベクトルデータとして構造化し、行動傾向や異常を自動判定するための技術だ。 近年、ペットヘルスケア、畜産、動物実験、野生動物の行...

ロボットの動きをAIが特許化する時代に──MyTokkyo.Aiの最新発明抽出事例

家庭内ロボット市場が急速に進化している。掃除ロボットや見守りロボットだけでなく、洗濯物の片付けや調理補助など、従来は人が行ってきた細やかな日常作業を担う“家庭アシスタントロボット”が次のトレンドとして期待されている。しかし、家庭内という複雑な環境で、人に近いレベルの判断と動作を瞬時に行うためには、膨大なセンサー情報を統合し、高度なモーションプランニング(動作計画)を行う技術が不可欠だ。 このモーシ...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る