スキー用品づくりで75年の歴史を誇るスロヴェニアのスポーツ用品メーカー、エラン。同社が10年もの年月をかけて開発した折り畳み式のスキー板「ELAN VOYAGER」は、スキーヤーが夢見ていた身軽さと驚くほどの滑り心地を実現していると“未来”を実装するメディア『WIRED』は22年1月22日伝えている。
夢の「折り畳めるスキー板」。その開発は容易ではなかった。現在に至るまで、オールマウンテンスキーは1枚の板でつくられていたからだ。継ぎ目がなく、しなりがあることによって、スキー板はスキー板として機能していた。
もし板を途中で半分に切って真ん中を手の込んだヒンジでとめていたら、こぶのあるコースを降りている最中にありとあらゆる不都合が起きるだろう。そんなことは誰だってごめんである。
幸いなことに、エランはスキーのイノヴェイションに深い知見がある。1993年には中間部分がくびれて先端が幅広にカーヴした「SCX」を開発し、なめらかでスピード感のあるターンを可能にした。スノーボードに魅せられた若者たちのスキー離れが進むなか、この滑りやすいスキー板は大ヒットを記録している。
ところが、ここでエランは悲劇的な過ちを犯した。デザインの特許を取得しなかったことで、ほかのブランドがいくらでも真似できる状況をつくってしまったのだ。案の定、ほかのブランドも同様のスキー板を売り出している。
それから28年。エランは同じ轍を踏まないよう7つの特許を取得してから、折り畳み式スキー板の「VOYAGER」を発売し、数々の賞を受賞した。そのつくり方はこうだ。
まず、継ぎ目のない一枚板のスキー板をつくり、それを半分にカットする(最初から半分のパーツを量産する方法はうまくいかなかったようだ)。次に、スチール製の頑丈なヒンジを4つ中央に埋め込む。半分に折り畳むという画期的な仕組みを実現するためだ。
なお、炭素繊維強化プラスティック製のプレート上に載ったビンディングは、スキー板と一体化している。板のロックを解除するとプレートがスライドして回転し、VOYAGERの2枚の板と重なって特殊なクリップで固定される仕組みだ。
このプレートは、エランが特許を取得したある物質でつくられている。VOYAGERに強度をもたらしたこの物質は、スキー板そのものよりもエランに収入をもたらす可能性があり、すでに同社はほかの商業利用の方法も検討しているという。
折り畳めるスキー板のアイデアは、エランが15年にスロヴェニア軍のために開発したスキー板にも使われている。このときエランに課された課題は、兵士が山で使うスキー板をバックパックにつけて軍用車両で簡単に運べるようにすることだった。ただし、 北大西洋条約機構(NATO)が使っている軍用折り畳み式スキー板は、安定性のために重い金属板を使用していた点が大きく異なる。
その後、エランは消費者用の折り畳み式スキー板の開発にも着手した。そして17年、エランはスキーマウンテニアリング[編註:スキーと登山の両方で雪山を巡るウィンタースポーツ]に適した折り畳み式スキー板「IBEX TACTIX」を発売したのだ。
ボイジャー connect テクノロジー(連結部)
確かにVOYAGERは、印象的なスキー板だ。しかし、雪上での性能はどうだろうか? オーストリアで2日間ほどVOYAGERをテストしてみた。
結論としては、驚くほどいい。滑りやすく、軽々とターンを繰り返せるだけでなく、そこそこの実力でもそこそこ以上の滑りを披露できたのである。緩やかにカーヴしたターンも、短くキレのある方向転換も同じように滑ることができ、折り畳み式スキー板を使っていることを忘れてしまうほどだ。
プレートとスキーの間に遊びもなく、身体を左右に傾けてエッジをきかせても、前に倒しても、まるで違和感がない。知らなければ、そこにヒンジがあることなど想像もつかなかったと思う。気づく人がいるとも思えない。
だが、いくつか気にとめておいてほしい点もある。まず、折り畳みのテクノロジーが優れているぶん、重量が重いのだ。長さ160cmのタイプで、ビンディングも含めて1台6.95kgある。通常のスキーよりほぼ1kg重く、持てばずっしりとした重量を感じる。
また、素早く組み立てられるようになるまで少し練習がいる。ただし、一度コツを掴めば驚くほど速く組み立てられる。完全に折り畳まれたVOYAGERを広げてクリップで固定するまでのエランの社内最速記録は17秒だ。1分もかからない。ただ、1日の終わりに疲れて冷え切った手でスキーを折り畳むときには、もう少し時間がかかるだろう。
【オリジナル記事・引用元・参照】
https://bravo-m.futabanet.jp/articles/-/120062?page=1
https://wired.jp/2022/01/16/elan-voyager-skis/
https://ipforce.jp/patent-jp-B9-6759346
* AIトピックでは、知的財産に関する最新のトピック情報をAIにより要約し、さらに+VISION編集部の編集を経て掲載しています。
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