新商標出願の概要
2025年7月末、スバルが米国特許商標庁(USPTO)へ「ACX」「VPX」「ZPX」という3件の商標を出願したことが明らかになった。いずれも用途には「自動車およびその構造部品、すなわち電気自動車」と明記されており、明確にEVモデルを意識したものだ。
今回の名称は非常にシンプルで記号的なアルファベット3文字の組み合わせが特徴的であり、同社の命名戦略における新たな方向性を感じさせる。
スバルの命名パターンとの比較
スバルの歴史を振り返れば、「Forester」や「Outback」といった英語の意味を持つネーミングや、「レガシィ」のような造語が多く採用されてきた。一方、モータースポーツ色の強い「WRX」やスポーツクーペ「BRZ」、かつてのフラッグシップ「SVX」など、アルファベット3文字で構成された車名も存在する。
今回のACX、VPX、ZPXは、この“3文字+X”フォーマットを踏襲しているようにも見える。特に末尾の「X」は、「クロス」や「パフォーマンス」を連想させる記号として活用されている可能性が高い。
STIとWildernessの同時展開
興味深いのは、この3つ全てに「STI」バージョンが同時に商標出願されている点だ。スバルの高性能ブランド「STI」は、現在の米国市場では純粋なSTIモデルは販売されておらず、WRX tSなど限定的な展開にとどまっている。
今回の出願は、STIがEVモデルにも投入される可能性を示唆しており、電動時代における高性能モデル復活の布石となるかもしれない。またZPXについては「Wilderness(ウィルダネス)」仕様も登録されており、これは過酷なオフロード走行を想定した派生モデルになる見込みだ。
過去の商標戦略と位置づけ
今回の商標出願は突然の動きではない。スバルは過去数年、EVやクロスオーバー分野を見据え、多くの商標を登録してきた。2024年には「Accomplice」「Everguide」「Trailseeker」「Uncharted」など約12種を出願している。そのうち「Uncharted」は実際にEVモデルとして市場投入されており、ACX、VPX、ZPXも市販車名として採用される可能性は十分にある。
ただし、商標登録が必ずしも商品化に直結するわけではなく、将来の展開を見据えた“保険”としての意味合いも持つ。
EV時代におけるスバルらしさの継承
スバルのEV戦略は、他社に比べ慎重に進められてきた。長年培ってきた水平対向エンジンやAWDというブランドの核を守りつつ、トヨタとの共同開発による「ソルテラ」、独自開発の「Trailseeker」、そして「Uncharted」など新しいラインナップが加わっている。
今後、ACXやVPXはスポーティ寄りのSUVまたはセダンとして、ZPXはオフロード志向のクロスオーバーとして展開される可能性がある。さらにSTI仕様で高性能を、Wilderness仕様で悪路走破性を、それぞれ強化することで、電動モデルでも「走りと冒険」というスバルらしい二本柱を維持できるだろう。
今後の見通し
今回の出願日は2025年7月31日であり、市販化されるとしても早くて2026年以降と見られる。スバルは商標出願からモデル発表まで時間をかける傾向があり、次の動きとしてはコンセプトカーの発表やデザインスケッチの公開が予想される。
ただし、EV市場は世界的に急変しており、投入時期や仕様は市場環境に左右される可能性が高い。
結び
ACX、VPX、ZPXという3つの名称は、単なる記号ではなく、スバルが電動化時代においても自らの個性をどう残すか、そして高性能と冒険志向の両立をどう図るかという挑戦の象徴だ。公式発表までの間、世界中のスバルファンの期待と憶測はますます膨らんでいくことだろう。