2025年7月25日、江崎グリコ株式会社が販売するロングセラー商品「Pocky(ポッキー)」のスティック形状が、特許庁によって正式に立体商標として登録されました(登録第6951539号)。発売から実に60年、国内外で愛されてきたスティック型チョコレート菓子が、ついに“形そのもの”でブランドを証明できる権利を獲得した瞬間です。
今回の登録は、「形と色だけでポッキーだとわかる」ほどの圧倒的認知度とブランド力が評価された結果であり、食品業界では極めて珍しい快挙といえます。
立体商標とは何か
商標といえば、企業ロゴや商品名などを想像する人が多いでしょう。しかし、商標法では「立体商標」というカテゴリーが存在し、商品の形状そのものを商標として保護することができます。
ただし、立体商標の登録は容易ではありません。形状が単なる機能や装飾に過ぎず、他社商品と区別できない場合は認められません。特に食品分野では、形だけで商品の出所を特定できるほどの知名度が求められ、取得事例はごくわずかです。
ポッキーの形状が持つ独自性
ポッキーは1966年に誕生しました。プレッツェル状のスティックに、先端部分を残してチョコレートをコーティングする独特の製法が採用され、手が汚れにくく食べやすい形状が特徴です。
この「チョコ部分が約8割、持ち手部分が約2割」という黄金比は、発売当初からほとんど変わらず、ポッキーの代名詞となってきました。視覚的にも、細長いスティック形状と2色のコントラストは強い印象を残し、広告やパッケージでも一貫して強調されてきました。
認知度を裏付けるデータ
今回の立体商標取得の背景には、長年のブランド育成と広告戦略に加え、客観的な認知度データの蓄積があります。江崎グリコが2023年に実施した調査では、1,000人以上の回答者のうち9割超が「形だけでポッキーと識別できる」と回答しました。
さらに、国内外での販売実績やテレビCM、パッケージデザインの統一性なども審査において重要な証拠となりました。
登録までの道のり
江崎グリコは、これまでにも複数の商標を保有していましたが、立体商標の取得は長年の悲願でした。出願には、商品の形状が長期間にわたり広く認知されていることを示す証拠資料が必要です。販売数量や売上高、広告出稿量、消費者アンケートの結果など、膨大なデータが審査官に提出されました。
特許庁はこれらの資料を基に、形状と色の組み合わせが単なる機能的形態ではなく、ポッキー固有のブランドを識別する役割を果たしていると判断。こうして2025年7月25日付で登録が認められました。
なぜ今、登録を実現できたのか
タイミングとしては、発売60年という節目を迎えたことが大きな理由です。半世紀以上にわたる販売と認知度の蓄積が、立体商標登録の条件を満たすだけの証拠力を持つに至ったと考えられます。
また、世界的に模倣品や類似品が増える中、形状そのものを法的に守ることはブランド保護の観点からも急務でした。特に海外市場での販売拡大を視野に入れると、形状による識別力を各国で証明できることは大きな武器になります。
消費者と業界への影響
消費者にとっては、見た瞬間に「これはポッキーだ」とわかる形状が公式に認められたことで、ブランドへの信頼感がさらに高まります。名前やパッケージがなくても、形状と色だけでポッキーとわかるという事実は、長年の親しみを裏付けるものです。
一方、業界にとっては、立体商標の取得が知財戦略の新たな成功事例となります。特に食品メーカーは、味やパッケージだけでなく、形状そのものをブランド資産として保護する動きが今後広がる可能性があります。
江崎グリコの今後の展望
今回の登録により、江崎グリコはポッキーのブランド保護をさらに強化できます。類似した形状の商品に対して警告や差止請求を行うことが可能になり、市場での差別化が一層明確になります。
また、この知財戦略はポッキー以外の商品にも応用できる可能性があります。たとえば「プリッツ」や「ビスコ」など、長年愛されてきた商品にも形状保護を拡大すれば、ブランド全体の価値向上が期待できます。
まとめ
ポッキーの立体商標登録は、単なる商標の1件ではありません。60年にわたるブランド育成の成果が「形と色でわかる」という形で公式に証明された歴史的な出来事です。
今後、消費者はこれまで以上にポッキーの形状に親しみを感じ、企業側はブランドの独自性を守りながら新たな展開を模索していくでしょう。食品業界全体にとっても、この登録は知財戦略の可能性を広げる重要な一歩となります。