ペロブスカイト・タンデム太陽電池が切り開く世界―中国が示した現実解


2025年春、中国の大手太陽光発電メーカー「トリナ・ソーラー」が発表したニュースが、エネルギー業界を大きく揺るがせた。それは、ペロブスカイト・シリコンタンデム構造を持つ太陽電池モジュールにおいて、実用サイズで世界初となる最大出力808Wを達成したという報道だ。この成果は単なる性能の誇示ではなく、世界中の研究者・企業が長年追い求めてきた「次世代太陽電池の商業化」という夢を現実に近づけるものとして、極めて大きな意義を持っている。

本コラムでは、この技術革新の中核をなすタンデム型太陽電池の特徴、トリナ・ソーラーのアプローチ、そして今後の展望について、多角的に掘り下げていく。

ペロブスカイト・シリコンタンデム太陽電池とは?

従来の太陽光発電は主に単結晶シリコンを基盤としたセルで構成されてきた。技術の成熟とともに、その変換効率は限界に近づきつつある。理論限界とされる約29%(Shockley–Queisser限界)に対して、現行の商用モジュールの変換効率は23〜24%が一般的であり、大幅なブレイクスルーが求められていた。

ここで登場したのが「ペロブスカイト」という新材料である。ペロブスカイト型太陽電池は、低コストで加工可能かつ高効率が期待される新素材であり、近年注目を集めてきた。特に、可視光に対して高い吸収率を持ち、バンドギャップのチューニングも可能なため、シリコンとの“タンデム”―つまり2層構造にすることで、理論限界を超えた40%近い変換効率が期待されている。

このペロブスカイトとシリコンのハイブリッド構造こそが、ペロブスカイト・シリコンタンデム型太陽電池であり、従来のシリコン技術の延長線上に革新をもたらす、次世代技術と目されている。

トリナ・ソーラーの技術的快挙

中国・江蘇省に本拠を置くトリナ・ソーラーは、2024年からペロブスカイト・シリコンタンデムモジュールの開発に本格的に乗り出し、わずか1年足らずで実用サイズ(3.1㎡)で808Wという世界初の出力を実現した。このモジュールは、ペロブスカイトセルと210mmサイズのシリコンウェハをベースにした高効率型の構成で、実際にTÜV SÜD(ドイツの国際認証機関)の第三者認証を取得している。

驚くべきは、この技術が“研究室レベル”の話ではなく、商用化を前提としたモジュールであるという点である。同社は2025年中に年間100MW規模のパイロット生産ラインを立ち上げる計画を進めており、早ければ2026年には市場投入される可能性がある。

中国の太陽光戦略と国家主導の革新モデル

この成功はトリナ・ソーラー単体の技術力の結果だけではない。中国政府は「再生可能エネルギー戦略」の一環として、国家主導でペロブスカイトを含む次世代太陽電池の研究開発と商業化を推進してきた。

事実、中国科学院や清華大学を中心に、数多くの研究プロジェクトが立ち上げられ、国からの資金支援が惜しみなく注がれている。加えて、スタートアップ企業や地方政府のベンチャー育成政策も相まって、数年で世界トップレベルの技術を構築してきた。

同時に、製造コストに対する強みも中国企業の大きな武器だ。ペロブスカイトは低温で成膜できるため、製造コストがシリコン系と比べて大幅に安く済む可能性があり、中国の量産技術と組み合わせることで圧倒的な価格競争力が見込まれている。

課題:耐久性と環境適応性

とはいえ、すべてが順風満帆というわけではない。ペロブスカイトには依然として「耐久性」という重大な課題が残っている。特に湿度や熱への耐性が弱く、長期間の野外使用には不安がある。これに対し、トリナ・ソーラーは多層封止技術やエンキャプシュレーション(封入)技術の高度化を進めることで、実用レベルの20年以上の耐用年数を目指している。

また、ペロブスカイトの構成に鉛が含まれている点も環境面での懸念を呼んでいる。現在は鉛フリーの代替材料開発も進んでおり、グリーンテクノロジーとしての確立には時間が必要である。

日本はどう動くべきか

日本でも、東芝、パナソニック、リコーなどがペロブスカイト太陽電池の研究に取り組んでおり、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)を中心に官民連携が進んでいる。しかし、商業化という点では中国や欧州に後れを取っている感は否めない。

日本の強みは、精密加工技術や素材開発にある。特に塗布型ペロブスカイトやフレキシブル型太陽電池など、日本らしいニッチ戦略に活路が見いだせるだろう。国内のエネルギー政策や脱炭素化への要請が強まる中で、再生可能エネルギー分野の中核技術として、国全体での長期的な支援体制が急務である。

おわりに ― エネルギーの未来は“技術×実行力”が決める

ペロブスカイト・シリコンタンデム太陽電池は、単なる「高効率の太陽電池」ではない。それは、従来の限界を突破し、エネルギーコストを劇的に下げ、脱炭素社会への道を現実的なものに変えるポテンシャルを秘めている。

その最前線に立つのが中国企業であり、今回のトリナ・ソーラーによる808W達成は、その勢いと実行力を如実に物語っている。技術革新に“速度”と“スケール”が加わったとき、それは産業構造全体を一変させる力を持つ。

日本がこの変化にどう対応し、独自の価値をどこで発揮するか。これからの数年は、次世代エネルギー技術において、まさに岐路となるだろう。

 


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