デジタルスポーツSASSEN(サッセン)を創る、アイデアと技術の双璧


IT技術と武道の精神を織り上げたSASSEN(サッセン)は次世代のチャンバラとして生まれたデジタルスポーツである。センサーを内蔵し鮮やかに光る刀身は、一見エンタメ色が強くも見えるが、アプリで制御されたコンマ1秒以下の精密な判定は、サムライの居合いの一瞬にも思える洗練だ。

本インタビューでは、一般社団法人全日本サッセン協会の会長であり、競技の産みの親である本村隆馬氏と、SESSEN刀の開発を担った鋤先星汰氏に、競技誕生のきっかけや、開発の歩みをお話しいただいた。

PROFILE

本村 隆馬

RYUMA MOTOMURA

【経歴】

■2009年3月 福岡県立八幡高等学校 卒業
■2009年4月 甲南大学 マネジメント創造学部 マネジメント創造学科 入学
■2013年3月 甲南大学 マネジメント創造学部 マネジメント創造学科 卒業
■2020年7月 株式会社SATSUZEN代表取締役 就任

大学卒業後、新卒でイベント展示会出展営業を経験後、医療事務へ転職。幼少期から続けている実家の空手道場で師範代となり、子供から大人まで指導しながら医療事務兼空手家として活動。その後「生涯スポーツSASSEN(サッセン)」を共同創設し独立。株式会社SATSUZEN代表取締役に就任。0からスポーツを立ち上げる最中である経験を活かし『スポーツデザイナー』として他の業界とも連携し多方面で活動している。

【メディア出演】

スッキリ、世界の果てまでイッテQ、ももクロちゃんと など


鋤先 星汰

SEITA SUKISAKI

【経歴】

■1999年〜2011年 風林火山武術道場に通う
■2011年 福岡県立宗像高校卒業
■2011年〜2015年 筑波大学 理工学群 工学システム学類卒業
■2015年〜2017年 筑波大学大学院 システム情報工学研究科 知能機能システム専攻修了(修士:工学)
■2016年〜 SASSENに取り組み始める(現:一般社団法人全日本サッセン協会・株式会社SATSUZEN)CTO&CSO
■2017年~2018年 成田国際空港株式会社
■2018年〜 株式会社revot 設立 ※筑波大学発ベンチャー(ドローン・ロボット等の研究開発)
■2018年〜 新宿区歌舞伎町にイベントバー(無人島:アイドルやインフルエンサー等が日替わりでイベントを開催)をオープン
■2020年〜2022年 セントラルエンジニアリング株式会社の顧問としてドローン関連事業をサポート
■2021年〜2023年 筑波大学大学院 経営学学位プログラム修了(修士:経営学)
■2021年〜 筑波大学大学院 知能機能システム学位プログラム(博士課程:工学)
■2021年〜 株式会社おうち本舗 設立(不動産・保険)

その他、首都圏の大学でキャリアに関する講演を実施。新規事業・独立起業・スモールビジネスに関するコンサルティングとファイナンスを多数実施。

【サッセンとの関係】

サッセンの発祥となった本村隆昌師範の営む日本空手道 風林火山武術道場(福岡県)にて師範より小学生〜高校生の12年間指導を受ける。道場で護身術の練習として行われていたサッセンの原型となる練習を発展させ現サッセンの構想を実現するべく、大学院在学中に開発を開始。以来、サッセン創設メンバー3名(本村隆馬・本村隆昌・鋤先星汰)のうちの1名としてセンサー刀デバイス、サッセンアプリ(iOS)の開発、財務、事業の設計戦略を担当している。

【今後の展望】

サッセンに関しては、継続的な発展のため様々な新しい施策と共にデバイスの改良を続けていくことは当然ながら、自身の夢である楽しく100万年以上生きることを実現するため、資産形成と共に自身と関わる周辺の人々の資産形成に注力していく所存である。また、起業や独立、新規事業に対して興味のある人の相談に乗り、コンサルティングやファイナンスを通じて幅広くサポートをしていきたいと考えている。

新時代のスポーツ、SASSEN

SASSEN(サッセン)はスマホアプリとの連携で正確な打撃判定を可能にした、次世代のデジタルスポーツだ。LED内蔵の光る刀身は一見ポップでサブカル感が強くも見えるが、0.025秒までの精細度で、これまでの肉眼による確認では困難だった判定を可能にした。

「颯爽と、風を切るさま」という意味である颯然(さつぜん)から名を取ったSASSENは、現在東京を中心に体験の場が広まり、競技の立ち上げ当初約150人だった体験者が、現在は50倍以上の約8000人と競技人口を増やしている。

「SASSEN刀の技術には、ヒットを判別する圧力センサーと、空振りの測定もできる加速度センサー、そしてバッテリーと、判定を行うスマホなどのアプリに接続する通信機能が備わっています。一瞬の攻防でも、どちらが先に刃を当てたか、センサーが正確に判定してくれます。」と、アイデアの産みの親である本村氏は紹介する。

そもそも、2016年に生まれたSASSENは、本村氏の実家にルーツがある。「福岡の北九州に実家があるのですが、実家は空手の道場をやっていて、父がその師範、僕が道場生のひとりとして、武道に携わっていました。空手と言っても広く武術を取り扱う道場で、棍棒を使ったり、対人を想定した護身術なんかもやったり。その訓練の一部が、SASSENの前身である模擬刀を使ったチャンバラの稽古でした。一太刀をいれる、一瞬を競うチャンバラでは、判定に技術と経験が必要です。審判が肉眼で確認して判断するのは大変で、父も常々その課題を解決したいと思っていたんです。」

月日は流れ、SASSEN誕生の数カ月前に、かねてより縁のあった鋤先氏にこういったことをしてみたい、と声をかけたことで新スポーツ誕生の道は一気に拓けたそう。本村親子の構想に、できますよと心強く返してくれた鋤先氏は小学生の頃からロボット作りに夢中になり、研究者になった頼もしい技術屋。やりたいことのアイデアを持った人間と、それを形にする技術を持った人間とが縁で繋がった瞬間だ。「私たち親子は、そもそも空手という武道をやっていこう、というところに立っていたわけなので、技術について詳しいわけではありません。そこに技術力を持った鋤先さんがいて、それぞれのアイデアや知見を持ち寄って形になりました。」

初のSASSEN刀が形になったのはそこから間もなく、特許も取得し、まずは身内で2016~2017年に大会を企画した。短期間での開発・実装について鋤先氏はこう語る。「そのときにできたものが『完成形』というわけではなく、今でもバージョンアップを繰り返しています。当初はセンサー判定の機能があるだけで、光ることもなかったですし、持ち手もありませんでした。耐久性も、初期の仕様では壊れることも多々ありました。SASSENの名前が付く前に今とは違うルールで大会もして、そうやって普及していく中で改良をしてきて今の形になっています。広まる中でユーザーのニーズも変わっていくでしょうし、開発は今後も続いていきます。完成形という概念はなく、都度そのフェーズで必要な物を作って応えていくといったイメージです。」

必要な改良をしていく中にあっても、アイデアに通した芯は忘れてはならない。「コンセプトは大切にしています」と本村氏。

「見た目はそれこそスターウォーズシリーズの『ライトセーバー』ですが、日本発祥のスポーツだからこそ、日本刀の機能を持たせたいと考えました。光らせるとなってもただ光るのではなく、斬る刃の面と、刀でいう峰(みね)の面とを分けて、峰打ちではヒットカウントが入らないように設計しています。また、よりエンタメ性の高い見た目にすることもできますが、そこは日本刀の機能を再現しつつも初心者の方も使いやすいビジュアルであることも重視しています。」

競技性の追求だけではなく、年齢性別を問わず取り組める生涯スポーツとしての役割も兼ね備えたSASSENの在り方の根源には、武道の佇まいを感じる。

特許が守り支えてくれる実感

特許取得の動機を尋ねると、知人の勧めで、とはにかむ様子も。今でこそ本村さん主導でビジネスとしての選択肢も広まっている同競技ではあるが、スタート地点はあくまで「武道の現場の課題解決」である。

そこから志が形になり、特許を取得したことで、今新たに見えてきた特許の重要性に本村氏は触れた。

「私が営業的な部分は担っていますが、特許をもっていることが安心感や会話の掴みになりますし、広告的に使うことができています。それから、具体的に観測できるものではないですが、特許を取ったことで他社の参入は手前で防げているでしょう。また、守りの知財としてはもう1つ意味があると思っていて、特許があることで『私たちは他者の特許を侵害していない』ということが保証されるという安心感がそれです。こちらは意識されにくいかもしれませんが、安心して自分たちの技術を振るえるというのは大きなポイントです。今はこんなふうに、どちらかというと守りの知財活用にはなっているので、今後は攻めの知財としても活用していければと思っています。ですが、足場を固める必要があると思っているので、まずは1つ、しっかり今自分たちが生み出した競技・技術を守っていきたいですね。」

先日はベトナムのジャパン・ベトナム・フェスティバルにもブース出展をした同競技。そういった展開も増やしつつ、インバウンドの需要を見据えて、その層にひっかかるようにしていきたいとも語る。

「システムがビジネスのコアになって、そこから多様な広がり方がありえると思っています。フランチャイズで教室をやるとか、イベントの受注を受けるとか、それぞれ。競技と会社が大きくなるならどんな形も模索していきたいですね。特に海外の顧客については、SASSENは日本刀・日本文化のイメージが強いので、親日国には受け入れられやすそうですし、ビジュアルイメージはアニメやサブカルチャーの文脈に近いものもありますので、興味を持ってもらえると思っています。」

新技術やアイデアの源泉を探る

ビジネスの技術やDX化などは盛んに進む昨今ですが、「新たなスポーツを生み出す」というのはまた特殊な開発に思える。その発想力について、技術面を担う鋤先氏は「SASSENの件とその他では全然違うところがあると思います」として、いくつかの視点で自身の探索の道を振り返った。

「昔は、それこそSASSEN刀の相談を受けたときは、アイデアを実現するのが自分の役割だったので、言われたままに作っていました。そこから、ある程度形になって、競技者も増えて、今は市場やニーズを読み取ってどういった技術があれば組織が大きくなるか、その最適化を考えています。SASSENを離れて広く開発という観点で考えれば、レガシーなビジネスにいかに隙間をみつけて参入していくかが重要だと思っていて、これは日々のリサーチ力にかかっていますね。ビジネス的な話になりますが、つけいる隙がどこにあるのか?と、物事を千里眼のように見るのが肝だと思っています。」

「SASSENにおいてのアイデアの出所は、先ほどもお話ししたように、審判の難しさをどうにかしたいねっていうところなんです。審判って大変な労力が心身ともにあるんですが、少しでも楽ができたらいいなだとか、子どもの頃は選手側として『今の判定ってどうなの!?』って不満があったり(笑)、観戦者としてもむずっとするところがあるから、そこを解決できたらいいなと考えていたら、こうなればいいなというのが生まれてきました。」

「新興スポーツにありがちなのが、ビジネスか思いの部分かどちらかになっているケース。普及させたいけど、じゃあ体験会は無料で…となっていて、それでは採算がとれません。本業は別にあって遊びの範囲だけでやっている人も多いです。もちろんそれはそれでいいんですけど、私たちとしては、インストラクターが増えて支部ができて、SASSENだけで食べていけるような組織にできれば、より競技として成長していき、関わってくれる人たちにも還元されていきますから、ビジネス的な要素も大事だと思っています。そういう点で試行錯誤を重ねるのが、自分の役割であり、目標だと感じています。」

異なるフィールドに強みを持つ人材のシナジーが、新しい楽しさを生み出した事例だ。アイデアマン兼発明家という個人もまた魅力的ではあるが、こうして手を取って、得意分野の掛け算ができれば、より大きなモノを生み出せる、そんな希望を感じる対話になった。



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