鉛筆なのにデジタルペン~アナログとデジタルの見事なコラボMD


6月になりました。まだまだコロナ禍ですがホンダのようにテレワークから原則出社に移行する会社も増えており、そんな中の社会人一年生。スタートして3ヶ月目に入りました。この時期は研修中の新人も多く会議や講義、グループブレスト、現場研修でも実践に向けてひたすら知識やルールをインプットしている頃かと。

そんな時はひたすら「メモ」ですね。またレポートも求められる。テストもある。学生時代以上に筆記具を使いたおす時期になる。今どきノートPCは欠かせないけど、手書を好むひとも少なくなく筆記具は欠かせない。その代表的な用具が「ボールペン」であり「鉛筆」、最近では液タブの一般化でデジタルペン派も多い。

そのデジタルペン、スマートペンとも電子ペンとも呼ばれ液晶画面に直接手書きしたり、手書きの文字や図をすぐに画像化してスマホやタブレットに保存・編集したり、今ドキの便利なツール。国内で売られているものも多種多様で価格帯も幅広い。しかしながらどうもなぜか太かったり、やたら細かったり重かったり、長さ、重さ、手に持ったときの素材の感触・・・どうもしっくりこないという人も多いのではないかと思ったりする。わたしもそのひとりだ。

そんなデジタルペンの中でもひときわその見た目での存在感を放ち、商品企画の目線でわたしが注目しているのが、三菱鉛筆とワコムのコラボで実現したデジタル鉛筆「Hi-uni DIGITAL for Wacom」だ。

見た目は「鉛筆」、その最高峰の三菱鉛筆のHi-uni。1950年代から学生たちやクリエーター、作家の活動を支えてきた三菱鉛筆のuniシリーズ。その最高モデルが1966年発売のHi-uniだ。ワインレッドのこの鉛筆は、当時、一躍人気の「鉛筆」ブランドとなった。そのデザイン・素材は現在も変わらず、歴史と伝統の光を放っている。理想の芯と材木を求めた10年とも言われる歳月が、魂のこもった国産鉛筆。今も本物の存在感を放っていて、わたしなどの年代の者は今も鉛筆派も多く手放せられない愛着の一本だ。

もう少し具体的にuniの価値、魅力、こだわりの中身についてだが、ここでは鉛筆の芯、その書き(描き)心地ではなく、芯を囲む六角軸デザインの本体素材、素材からの香り、塗装、サイズ、軽さ、そこからくるしっくりと手に馴染む持ちやすさ、自然な使い心地。色は日本の伝統色であるえび茶色と高級感のあるワインレッドを掛け合わせた通称“uni色”。世界で最高のなめらかさを持つ芯の味わいに合わせて、まさしく高級鉛筆のスタンダードとして、1958年に誕生以来愛され続ける三菱鉛筆の代表作。

かたやペンタブレットのトップブランドとして知られるワコム。世界中のクリエーターに愛用されるワコムのデジタルペン技術。紙に書くことは誰にとっても簡単かつ慣れ親しんだ表現のひとつ。その慣れ親しみをそのままデジタルの道具で再現する、紙の上のペンを当てる角度や筆圧など、まして鉛筆の濃淡を再現し「書く」と「描く」の味わいをデジタルで再現することは複雑なこと。

さらに見た目「鉛筆」のデジタルペンを実現している技術が、ワコムの特許技術「電磁誘導(EMR)方式」。この技術の特徴のひとつに、ペンにバッテリーが不要なため軽く小型にできるというメリットがある。これにより、「hi-uni」本来の六角軸の太さ・軽さを可能にした「デジタル鉛筆」が実現している。

ちなみに「電磁誘導(EMR)方式」と呼ばれるこの特許技術について、ワコムで検索すると200件ほどヒットする。それだけワコムの主力技術であることは間違いないようだ。

約70年の歳月で築かれた鉛筆のトップブランド「Hi-uni」の三菱鉛筆と、デジタルペンで世界とトップシェアのワコムのコラボレーション。「書く」「描く」を感性価値と機能価値をスピード感を持って世に出した「デジタル鉛筆」は2020年8月に発売されている。このコラボレーション、三菱鉛筆とワコムどちらが声をかけたのかは知り得ないが、わたし的にはおそらくワコム側だろうと推測している。(まあ、どちらでもいいがベストコラボレーションだ。)

コラボ商品企画。「コラボ」ってことばが今や流行りのようになっているが、コラボ商品、タイアップ商品はさまざま多く見られ、コラボレーションはタイアップと同じように使われることも多いが、厳密には意味が違う。

コラボは「協力」や「共同作業」「共同研究」などの意味があり、もともとは芸術や学術、創作の世界で使われ対等の関係にある者同士が何か一緒に作り上げるというニュアンスをもつ。異なる立場の人や組織が組むことでこれまでになかった新しい価値を想像することができるという取組み。それが今やプロモーション、商品・サービス、音楽、美術製作などでコラボレーションすることで多くの新たな価値が生み出されている。

その中でも、最近目立つのが異業種コラボレーション、通称「異業種コラボ」だ。新しい商品やサービスが生まれ消えていくスピードは日に日に加速し、時代の変化に対応しあるいはリードしていくため、また情報のフィルタリング、マーケティング費用の増大などの背景もあってそうさせている。

そうした状況に加え新型コロナウイルスの影響で、さらに短時間で世の中の激変の渦の中にいるいま、ますますスピード感をもって新しい価値を生み出すことが生き残りのカギとなってることはあきらかで、その変化対応が求められる。

「デジタル鉛筆」、それは価値の進化としての「老舗×最新技術」、このコラボレーションだ。コモディティアイテムにキャラクターをONしたようなAとBを単純に足し算する発想ではなく、掛け合わせてあらたな価値の進化を生む発想だ。

「コラボレーション」その言葉には新鮮感はないが、コラボレーションありきではなく自らのリソースだけにこだわることなく新しい価値創造の、その実現の手段としてのコラボレーションMDをコロナ禍のいまあらためて考えてみたいものだ。


ライター

渡部茂夫

SHIGEO WATANABE

マーケティングデザイナー、team-Aプロジェクト代表

通販大手千趣会、東京テレビランドを経て2006年独立、“販売と商品の相性” を目線に幅広くダイレクトマーケティングソリューション業務・コンサルティングに従事。 通販業界はもとより広く流通業界及びその周辺分野に広いネットワークを持つ。6次産業化プランナー、機能性表示食品届出指導員。通販検定テキスト、ネットメディアなどの執筆を行う。トレッキングと食べ歩き・ワインが趣味。岡山県生まれ。




Latest Posts 新着記事

10月に出願公開されたAppleの新技術〜Vision Proの「ペルソナ」を支える虹彩検出技術〜

はじめに 今回は、Apple Inc.によって出願され、2025年10月2日に公開された特許公開公報 US 2025/0308145 A1に記載されている、「リアルタイム虹彩検出と拡張」(REAL TIME IRIS DETECTION AND AUGMENTATION)の技術内容、そしてこの技術が搭載されている「Apple Vision Pro」のペルソナ(Persona)機能について詳説してい...

工場を持たずにOEMができる──化粧品DXの答え『OEMDX』誕生

2025年10月31日、化粧品OEM/ODM事業を展開する株式会社プルソワン(大阪府大阪市)は、新サービス「OEMDX(オーイーエムディーエックス)」を正式にリリースした。今回発表されたこのサービスは、化粧品OEM事業を“受託型”から“構築型”へと転換させるためのプラットフォームであり、現在「特許出願中(出願番号:特願2025-095796)」であることも明記されている。 これまでの化粧品OEM業...

特許で動くAI──Anthropicが仕掛けた“知財戦争の号砲”

AI開発ベンチャーのAnthropic(アンソロピック)が、200ページ以上(報道では234〜245ページ)にわたる特許出願(または登録)が明らかになった。その出願・登録文書には、少なくとも「8つ以上の発明(distinct inventions)」が含まれていると言われており、単一の用途やアルゴリズムにとどまらない広範な知財戦略が透けて見える。 本コラムでは、この特許出願の概要と意図、そしてAI...

SoC時代の知財戦争──ホンダと吉利が仕掛ける“車載半導体覇権競争”

自動車産業が「電動化」「自動運転」「ソフトウェア定義車(SDV)」へと急速にシフトするなか、車載半導体・システム・チップ(SoC:System­on­Chip)を巡る知財・開発競争が激化している。特に、ホンダが「車載半導体関連特許を8割増加」させているとの情報が注目されており、同時に中国自動車メーカーが特許活動を爆発的に拡大しているとされる。なかでもジーリー(Geely)が“18倍”という成長率を...

試験から設計へ──鳥大が築くコンクリート凍害評価の新パラダイム

はじめに:なぜ“凍害”がコンクリート耐久性の大きな壁なのか コンクリート構造物が寒冷地・凍結融解環境(凍害)にさらされると、ひび割れ・剥離・かさ上がり・耐荷力低下といった劣化が進行しやすい。例えば水が凍って膨張し、内部ひびを広げる作用や、塩分や融雪剤の影響などが知られている。一方、これらの劣化挙動を実験室で迅速に・かつ実サービスに近づけて評価する試験方法の開発は、長寿命化・メンテナンス軽減の観点か...

Perplexityが切り拓く“発明の民主化”──AI駆動の特許検索ツールが変える知財リサーチの常識

2025年10月、AI検索エンジンの革新者として注目を集めるPerplexity(パープレキシティ)が、全ユーザー向けにAI駆動の特許検索ツールを正式リリースした。 「検索の民主化」を掲げて登場した同社が、ついに特許情報という高度専門領域へ本格参入したことになる。 ChatGPTやGoogleなどが自然言語検索を軸に知識アクセスを競う中で、Perplexityは“事実ベースの知識検索”を強みに急成...

特許が“耳”を動かす──『葬送のフリーレン リカちゃん』が切り開く知財とキャラクター融合の新時代

2025年秋、バンダイとタカラトミーの共同プロジェクトとして、「リカちゃん」シリーズに新たな歴史が刻まれた。 その名も『葬送のフリーレン リカちゃん』。アニメ『葬送のフリーレン』の主人公であるフリーレンの特徴を、ドールとして高精度に再現した特別モデルだ。特徴的な長い耳は、なんと特許出願中の専用パーツ構造によって実現されたという。 「かわいいだけの人形」から、「設計思想と知財の結晶」へ──。今回は、...

“低身長を演出する靴”という逆転発想──特許技術で実現した次世代『トリックシューズ』の衝撃

ファッションと遊び心を兼ね備えた新発想のシューズ「トリックシューズ」が市場に登場した。通常、多くの「シークレットシューズ」や「厚底スニーカー」は身長を高く見せるために設計されるが、本モデルは逆に身長を「低く見せる」ための構造を意図しており、そのためにいくつもの特許技術が組み込まれているという。今回は、このトリックシューズの設計思想・技術構成・使いどころ・注意点などを掘り下げてみたい。 ■ コンセプ...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る