前回のコラムで、9月に出願公開されたAppleの特許出願を一つ紹介しましたが、もう一つ、9月22日に出願公開された技術について追加で紹介したいと思います。
発明の名称:LOW-TRAVEL ILLUMINATED KEY MECHANISM
出願公開日:2022年9月22日
特許出願日:2022年1月9日
公開番号:US2022/0300088A1
Appleは薄型キーボードをあきらめていなかった
Appleの薄型キーボードというと、あまり良いイメージを持っていない方も多いかもしれません。かつて、Appleは2015年に発表されたMacbook 12インチモデルのために、薄型キーボード方式であるバタフライキーボードという方式を実装したのですが、ユーザーからの評判は芳しくなく、2019年に発表したMacbook Pro 16インチモデルから、従来方式であるシザーキーボードに戻したという経緯があります。
シザー方式のキーボードは、キーの沈み込みが深いため、キーが打ちやすく、打鍵感に優れるという利点がありますが、さらに薄くするにはやはり原理上限界があります。したがって、Appleとしては、やはり薄型化のためにバタフライ方式を再び採用したいという思いがあるようです。
今回出願公開された発明は、薄型キーボードで、かつ、キートップが光る、いわゆるイルミネイテッドキーボードに関するものです。イルミネイテッドキーボード自体は現在では何も珍しいことはありませんし、シザーキーボードを採用するMacbookではすでにキートップが光るように、キーボードバックライトを装備することも可能です。
しかし、従来のバタフライキーボードでは、構造上、LEDをキー構造に積層することが困難だったため、キートップを光らせることは難しかったそうです。
そこで、キートップ下にLEDバックライトを仕込むのではなく、キー横から導光パネルによって光を移動させることで、キートップを光らせることとしました。以下、図面を中心に、簡単に発明の内容をみてみます。
キー駆動方式は従来のバタフライ型
まず、シザー型とバタフライ型の違いをご存知の方であれば一目瞭然ですが、このキーボードはバタフライ型であることがみてとれます。支持構造120は、柔軟なヒンジと、その上に成形された2つのウイング(122a、122b)によって構成されます。これによりシザー型よりも安定的で堅牢なキー構造となることは、従来から知られているところです。
ウイング122a、122bはキーが押されていないときは互いの間に斜角があるように構成され、キーが押下されたときに実質的に平坦になるように動きます。ウイングの下に配置される触覚ドーム(タクタイルドーム)及び感知膜136が、キーの押下を検知する、実質的なトリガーとなります。このような積層構造をみると、この中に照明のためのLEDを仕込むことはなかなか困難であることが理解できると思います。
以下の図は本発明のキーボードの断面図ですが、実は発光するのは一番下の土台部分にある導光板(Light Guiding Panel : LGP)150です。
図中、L1とあるのが、光です。この導光板はキー配列にしたがって光抽出部154によって発光部位が画定されるように構成されています。
このように、キーの土台となる部材を導光板とし、複数のキーアセンブリ領域にわたって一枚の導光板を共通に用いるところが本発明の最大の特徴です。
そして、導光板150にはキーボード領域外に位置する光源172から、光が導入されます。そして、キーアセンブリが構成される場所で、導光板から光が放出されます。このようにして、キートップ直下のキーアセンブリにLED等の光源を仕込むことなく、つまり、厚さ方向に何ら追加の構成を加えることなく、キートップを光らせることができるようになったというわけなのです。
実装可能性は?
バタフライ方式でもキートップを光らせることができる、という発明を紹介しましたが、バタフライキーボードに対するMacユーザーのアレルギー反応は当時かなり強かったこともあり、筆者としては実装は時期尚早ではないか、という予測をしています。ただし、薄型Macbookが今後発表されたときに、モデル限定のキーボードとして採用される可能性は大いにあるでしょうし、だからこそ開発が進められているということもあるでしょう。
特許出願日からまだ1年も経っていない状況下で予測は難しいですが、今後の製品発表に期待したいと思います。
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