7月に出願公開されたAppleの新技術〜熱管理バッテリーケース〜


はじめに

今日のデジタル社会において、スマートフォンやタブレット、ノートブック PC といった電子機器は私たちの生活に不可欠な存在です。これらのデバイスの性能は日々向上していますが、同時に「熱」の管理は避けて通れない重要な課題となっています。効率的な熱管理は、デバイスの性能維持、寿命延長、そしてユーザーエクスペリエンスの向上に直結します。

発明の名称:Case With Thermal Management
出願人名:Apple Inc.
公開日:2025年7月17日
公開番号:US 2025/0233228 A1
https://patents.google.com/patent/US20250233228A1/

従来技術の問題点

電子機器、特にバッテリーを内蔵するポータブルデバイスは、使用中にどうしても熱を発生します。この熱が適切に管理されないと、デバイスの動作が遅くなったり(電力スロットリングによる影響)、バッテリーの性能が低下したり、最悪の場合、デバイスの寿命が短くなる可能性があります。これまでの技術では、バッテリーデバイスは通常、機器の内部に囲まれた環境で保持されており、発生した熱が外部に効率的に逃がされにくいという根本的な問題がありました。例えば、ユーザーがポータブル電子デバイスをポケットなどの狭い空間に収納している場合、放熱の機会が限られ、デバイスの温度がより高くなる傾向がある、と指摘されています。

本出願が開示する解決策

Apple が出願したこの特許は、このような従来の課題を解決するアプローチとして、「バッテリーデバイスに結合可能な熱管理ケース」を開示します。このケースは、バッテリーデバイスの動作中に発生する熱をデバイスから効率的に離して消散させることで、囲まれた環境内でのデバイスの温度上昇を効果的に抑制することを可能にします。これにより、デバイスの性能が制限される「電力スロットリング」の必要性を低減し、大幅に改善された熱放散を実現します。

詳細な技術説明

  • 熱放散のメカニズム
    この発明の核となるのは、ケースが提供する熱放散機能です。ケースは、バッテリーデバイスから熱を取り除き、例えばノートPCの筐体内など、周囲を囲まれた環境内でもデバイスの温度上昇を抑えることができます。また、ケースは、例えばポケット内などの限られた放熱スペースや、周囲温度よりも最大で10度高い環境下でも、十分な放熱能力を維持できるとされます。これは、ケース内に組み込まれたヒートシンクや熱伝導性の高い素材によって実現されます。
  • ケースの構成
    ケース (100) は、バッテリーデバイス (50) を収納する開口部を備えたアウターハウジング (108) を含みます。このケースは、コネクタ (60) を介して外部の電子デバイス (200) に物理的および通信的に接続されることが可能で、バッテリーデバイスがケース内に保持されている間に、外部デバイスとの間で情報を交換できます。さらに、このケースは、バッテリーデバイスを電力源として、外部電子デバイスに電力を供給することもできます。


  • 熱伝導と放熱の構造
    ケースには、熱放散を促進するための「ヒートシンク」(152) や「ヒートパイプ」(160) が組み込まれます。ヒートパイプは、ケースの内部からバッテリーデバイスの熱を効率的に奪い、それをヒートシンクへと伝達する役割を担います。ケースの材料自体も、熱伝導性の高い金属、熱伝導性のフォーム、またはエラストマーなどの複合材料で形成されます。
  • さらに、図7に記載された態様では、ファン184によって冷却されるヒートシンクが設けられます、このヒートシンクは、クリップとともに形成され、ヒートパイプに熱的に接続され、バッテリーデバイスからの熱を放散します。ヒートシンク130には、ファン184は、熱電発電機180によって駆動され、この発電機は熱エネルギーを電気エネルギーに変換し、ファン184の動作を制御するためにヒートパイプと外部環境との間の温度差を利用できるとされています。すなわち、外部環境とバッテリーとの間の温度差が一定以上を超えた時点で、自動的にファンが駆動するという仕組みをとるわけです。
  • クリップと一体性
    クリップによって、バッテリーデバイス (50) をケース (100) に、そしてさらに別の電子デバイス (200) に接続します。このクリップは、バッテリーデバイスから熱を奪う熱伝導性の経路として機能し、特にバッテリーデバイスの一端からケース内部のヒートパイプやヒートシンクへ熱を伝えることができます。

耐久性とパフォーマンスを両立

本発明では、いくつかの放熱技術を組み合わせることで、バッテリーケースを非常に熱輸送しやすい状態にすることで、バッテリーが日常的に使用される環境下で十分な耐熱性熱管理能力を実現しています。バッテリー温度の過度な上昇を防ぎ、プロセッサの電力スロットリングを抑制することで、長期間にわたってその高性能と安定した動作を維持できるようになります。また、過熱によるユーザーの不快感を低減し、デバイスの性能を最大限に引き出すことで、より快適なユーザーエクスペリエンスを提供することにも繋がるとされています。



Latest Posts 新着記事

11月に出願公開されたAppleの新技術〜PCに健康状態センサーをつけるとどうなるのか〜

はじめに もし、あなたが毎日使っているノートパソコンが、仕事や勉強をしながらそっとあなたの健康状態をチェックしてくれるとしたら、どう思いますか? これまで、私たちが使ってきたノートパソコンのような電子機器には、ユーザーの体調をモニターするような高度なセンサーはほとんど搭載されていませんでした。Appleから11月に出願公開された発明は、その常識を覆す画期的なアイデアです。キーボードの横にある、普段...

AI×半導体の知財戦略を加速 アリババが築く世界規模の特許ポートフォリオ

かつてアリババといえば、EC・物流・決済システムを中心とした巨大インターネット企業というイメージが強かった。しかし近年のアリババは、AI・クラウド・半導体・ロボティクスまで領域を拡大し、技術企業としての輪郭を大きく変えつつある。その象徴が、世界最高峰AI学会での論文数と、半導体を含むハードウェア領域の特許出願である。アリババ・ダモアカデミー(Alibaba DAMO Academy)が毎年100本...

翻訳プロセス自体を発明に──Play「XMAT®」の特許が意味する産業インパクト

近年、生成AIの普及によって翻訳の世界は劇的な変化を迎えている。とりわけ、専門文書や産業領域では、単なる機械翻訳ではなく「人間の判断」と「AIの高速処理」を組み合わせた“ハイブリッド翻訳”が注目を集めている。そうした潮流の中で、Play株式会社が開発したAI翻訳ソリューション 「XMAT®(トランスマット)」 が、日本国内で翻訳支援技術として特許を取得した。この特許は、AIを活用して翻訳作業を効率...

特許技術が支える次世代EdTech──未来教育が開発した「AIVICE」の真価

学習の個別最適化は、教育界で長年議論され続けてきたテーマである。生徒一人ひとりに違う教材を提示し、理解度に合わせて学習ルートを変化させ、弱点に寄り添いながら伸ばしていく理想の学習プロセス。しかし、従来の教育現場では、教師の業務負担や教材制作の限界から、それを十分に実現することは難しかった。 この課題に真正面から挑んだのが 未来教育株式会社 だ。同社は独自の AI学習最適化技術 で特許を取得し、その...

抗体医薬×特許の価値を示した免疫生物研究所の株価急伸

東京証券取引所グロース市場に上場する 免疫生物研究所(Immuno-Biological Laboratories:IBL) の株価が連日でストップ高となり、市場の大きな注目を集めている。背景にあるのは、同社が保有する 抗HIV抗体に関する特許 をはじめとしたバイオ医薬分野の独自技術が、国内外で新たな価値を持ち始めているためだ。 バイオ・創薬企業にとって、研究成果そのものだけでなく 知財ポートフォ...

農業自動化のラストピース──トクイテンの青果物収穫技術が特許認定

農業分野では近年、深刻な人手不足と高齢化により「収穫作業の自動化」が急務となっている。特に、いちご・トマト・ブルーベリー・柑橘など、表皮が繊細な青果物は人の手で丁寧に扱う必要があり、ロボットによる自動収穫は難易度が極めて高かった。そうした課題に挑む中で、株式会社トクイテンが開発した “青果物を傷付けにくい収穫装置” が特許を取得し、農業DX領域で大きな注目を集めている。 今回の特許は単なる「収穫機...

<社説>地域ブランドの危機と希望――GI制度を攻めの武器に

国が地理的表示(GI:Geographical Indication)保護制度をスタートしてから10年が経つ。ワインやチーズなど農産物を地域の名前とともに保護する仕組みは、欧米では産地価値を国境を越えて守る知財戦略としてすでに大きな成果を上げてきた。一方、日本でのGI制度は、導入から10年が経った今ようやくその重要性が幅広く認識される段階に差し掛かったと言える。 農林水産省によれば、2024年時点...

保育データの構造化とAI分析を特許化 ルクミー「すくすくレポート」技術の本質

保育業界におけるDXが本格的に進む中、ユニファ株式会社が展開する「ルクミー」は、写真・動画販売や登降園管理、午睡チェックシステムなどを通じて保育の可視化と効率化を支えてきた。その同社が開発した 保育AI™「すくすくレポート」 が特許を取得したことは、保育現場のデジタル化における大きな節目となった。 「すくすくレポート」は、子どもの日々の成長・発達をAIが分析し、保育士の観察記録を補助...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る