雲の上を走る!すべらない靴


雲の上を走る!すべらない靴

ランニングシューズ特許弁理士

onのグリップ力向上シューズ

ナイキの「厚底シューズ」がさまざまな話題を生んだのはご存知の通り。
シューズの世界においては、日々、スポーツメーカー各社がしのぎをけずるテクノロジー合戦が行われているのですが、今回はその中でも特殊なソールで“雲の上”のような履き心地という「オン」のシューズのお話です。こちらのシューズ、ドーナツ型の穴の空いた小さな素材が、靴底にたくさん張り付いているようなソールが特徴。それにより、地面の形状に合わせて、ソールにあるいくつものパーツがバネのように独自に変形し、抜群のクッション性とグリップ力を実現可能に。足元のちょっとした感覚でプレーの質は変わるもの。今までプレー中のスリップで転倒したり、踏み外してミスをしたり、そんな残念なシーンが減るかも!?

■発明のポイント

本発明は、柔軟な靴のソール構造に関する発明であって、地面と靴底とが接するときにおいて、接地面積を大きくすることにより接地時間がながくなりスリップしにくくする発明と推測できます。

主に「軟弾性ミッドソール(20)」、「溝形エレメント(21)」、「縦スロット(22)」および「所定折畳切欠(25)」から構成されている。

【図1】

ランニングシューズ特許弁理士

以下、上図の各部分の名称と主な役割を解説する。

番号 名称 説明
10 アッパー 足を収めるアッパー。ソール以外の部分
20 ミッドソール アウトソール(靴底)とインソール(足裏)との間に入れる軟弾性のパーツ。本発明ではアウトソールをほとんど排除することで、ミッドソールの一部は地面に直接接触している
21 溝形エレメント ミッドソールの長手方向に対し横方向に伸びている。本発明では複数のエレメントが互いにほぼ同一の幅で分配されている
23 エッジストリップ 溝形エレメント21の外部補強を与えるパーツ
24 側面開口 歩行時に作用する力によって閉じる。これにより溝形エレメントの変形が実質的に停止し、次の一歩の蹴り出しのための頑丈な固定表面を形成する
25 所定折畳切欠 溝形エレメントの側面開口24の高さに対応する垂直幅を有し、それぞれ溝形エレメントの側面開口と整列している
26 窪み 所定折畳切欠25に対応する窪み。エレメント21の最後部に設けられている。
27 溝形エレメントの底

本発明のソール構造において、所定折畳切欠25は、溝形エレメント21の側面開口24の高さに対応する垂直幅を有し、それぞれ溝形エレメントの側面開口と整列していることを特徴とする。これによって、溝形エレメントは平底形状を維持した状態でせん断し、地面と靴底が水平滑動(スリップ)するのを防ぐことができる。

また、図1の靴を下から見た図を以下に示す。

【図2 図2の靴を下から示した図】

ランニングシューズ特許弁理士

21:溝形エレメント
22:縦スロット
30:カバー

複数の溝形エレメント21は互いにほぼ同一の幅で分配されている。また、ミッドソール20内のかかと部から指球部にわたって「縦スロット22」が伸びており、ミッドソールを内側部分と周辺部分とに分割している。これにより、地面の形状に応じてミッドソールの内側部分と周辺部分が互いに独立して最適に変形することができ、靴全体としての安定感を保つことができる。
また、溝形エレメントと縦スロットとの間において下方に開口する凹部は、それぞれ底に向かってわずかに広がっていることで、凹部に石が詰まるのを妨げ、ソール構造の自己清掃を促すことができる。

■権利範囲

特許出願のクレーム範囲(概略)は以下の通り。
【請求項1】
以下の構成および特徴を有する柔軟な靴のソール構造
・歩行時、地面に少なくとも部分的に接触する軟弾性ミッドソール(20)
・側面が開口した平底を備え、前記ミッドソールの長手方向に対して横方向に方向付けられており、地面に向かって下方に突出している溝形エレメント(21)
・各溝形エレメント(21)を繋ぎ、溝形エレメント内の溝の断面を狭め、側面開口(24)の高さを決定するエッジストリップ(23)
・溝形エレメント(21)の外側に面するフェース側に設けられており、側面開口(24)の高さに対応する垂直幅を有し整列している所定折畳切欠(25)
・歩行時、垂直及び/又は長手方向に作用する力に応じて、溝形エレメント(21)はその側面開口(24)が閉じるまで垂直及び/又は長手方向に変形され得る

上記のような構成を持つ靴のソール構造は、本発明の権利範囲に含まれる可能性があり、競合他社は注意する必要がある。

■概要

発明の名称:柔軟な靴のソール構造
出願番号:特願2018-512486
公表番号:特表2018-516727
出願日:2016年5月18日
公表日:2018年6月28日
出願人 :オン クローズ ゲーエムベーハー
経過情報:本特許は2016年5月18日に出願がなされ、国内では現在特許審査係属中である。尚、本特許は日本以外に米欧中韓などの先進主要国にも出願が行なわれている。

<免責事由>
本解説は、主に発明の紹介を主たる目的とするもので、特許権の権利範囲(技術的範囲の解釈)に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解を示すものではありません。自社製品がこれらの技術的範囲に属するか否かについては、当社は一切の責任を負いません。技術的範囲の解釈に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解については、特許(知的財産)の専門家であるお近くの弁理士にご相談ください。


Latest Posts 新着記事

知財の主戦場は「充電」から「交換」へ——CATLが先回りする日本市場の布石

世界最大級の車載電池メーカーCATLは、セルやパックの“モノづくり”を超えて、交換式バッテリーによる「BaaS(Battery as a Service)」へと事業射程を拡張している。交換ステーション、共通モジュール、運用ソフト、資産管理—この新モデルが成立するとき、勝負を決めるのは工場規模だけではない。規格化を押さえる特許と、サプライチェーン横断で効くサービス設計の知財である。中国本土では、Si...

環境×技術×知財 BlueArchがつくる“持続可能な海洋モニタリング”の新モデル

海岸林、マングローブ、塩沼、藻場などの ブルーカーボン生態系 は、地球温暖化対応の大きな鍵となる。これらの環境は、陸上森林よりも濃密に炭素を隔離する能力を持つという報告もある。Nature+2USGS+2 だが、こうした海・沿岸域の調査・保全には「アクセス困難」「高コスト」「リアルタイム性の欠如」といった課題が横たわる。ここに、ドローン技術、GPS(あるいは水中位置推定技術)、そして特許設計による...

ファーウェイ、特許で動く EV×5G基地局に見る中国知財の拡張戦略

■ 序章:静かに増える“赤い知財網” 特許庁の公開データを丹念に追うと、近年ひとつの変化が浮かび上がる。日本国内での中国企業による特許出願が、2015年以降、年率二桁で増加しているのだ。 とりわけ通信・電池・モビリティといった「脱炭素×デジタル」分野に集中しており、日本企業が得意とする領域を正面から狙っている。こうした動きの中心にいるのが、通信大手・華為技術(ファーウェイ)である。 米中摩擦のさな...

終わりなき創造の旅 厚木の発明家が挑む“次の技術革命”」

特許数でギネス更新 21世紀のエジソン、厚木に―発明の街が問いかける、日本の未来図 神奈川県厚木市―東京からわずか1時間足らずの距離にあるこの街が、世界の技術史に名を刻んだ。特許数の世界記録を更新した発明家、山﨑舜平(やまざき・しゅんぺい)氏が拠点を構えるのが、まさにこの地である。彼の名がギネス世界記録に再び載ったというニュースは、科学技術の世界だけでなく、日本人のものづくり精神を象徴する話題とし...

知財は企業の良心を映す鏡――4億ドル評決が語るイノベーションの倫理

2025年10月、米テキサス州東部地区連邦地裁で、韓国の大手電子機器メーカー・サムスン電子に対し、無線通信技術の特許侵害を理由に4億4,550万ドル(約690億円)の賠償を命じる陪審評決が下された。この判決は、単なる企業間の紛争を超え、ハイテク産業における知的財産権(IP)の重みを再認識させる事件として、世界中の知財関係者の注目を集めている。 ■ 「技術を使いたいが、支払いたくない」——内部文書が...

知財が揺るがす電機業界――TMEIC×富士電機、UPS特許訴訟の裏側

2025年夏、産業用電源装置分野を揺るがすニュースが伝わった。東芝三菱電機産業システム(TMEIC)が、富士電機の無停電電源装置(UPS)製品が自社の特許を侵害しているとして、韓国において訴訟および輸入禁止の措置を求めた件である。韓国貿易委員会(KTC)は8月下旬、TMEICの主張を一部認め、富士電機製の特定UPSモデルについて韓国への輸入を禁止する決定を下した。日本企業同士の知財紛争が、国外で具...

「JIG-SAW、AI画像技術で米国特許を獲得へ 知財を武器にグローバル競争へ挑む」

はじめに:発表概要と意義 JIG-SAW(日本発の IoT / ソフトウェア/AI ベンチャーと理解される企業)は、米国特許商標庁から「コンピュータビジョン技術」に関する Notice of Allowance(特許査定通知) を取得した旨を、自社ウェブサイトおよびニュースリリースで公表しています。 具体的には、JIG-SAW は「コンピュータビジョン技術、画像処理・画像生成支援技術」分野において...

「特許で世界を包囲する中国 イノベーション強国への加速」

はじめに:なぜ国際特許出願数が注目されるか イノベーション(技術革新)の国際競争力を測る指標として、研究開発投資、論文発表数、特許出願数などが長らく注目されてきました。特に国際特許(例えば、特許協力条約 PCT 出願、あるいは各国出願による外国での保護を意図した出願)は、一国の発明・技術が国際市場を見据えて保護を志向していることを示すため、技術力だけでなく国際志向性の強さも反映します。 近年、中国...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る