監査法人のトーマツ、AIによる不正検知モデルの特許を取得~過去の不適切事例レコメンド機能を実装


デロイト トーマツ グループの有限責任監査法人トーマツ(主事務所:東京都千代田区 包括代表:大久保孝一、以下 トーマツ)は、2022年1月から本格導入を開始している不正検知モデルについて特許を取得したと23年6月9日プレスリリースで公表した。

特許を取得した不正検知モデルは、予測性能に優れる勾配ブースティング技術をベースとして、不均衡データや過剰適合問題への対応、そして別の機械学習モデルで算出された指標を特徴量に追加するなど様々な技術を組合せている。

そこに過去に公表された有価証券報告書および訂正報告書に含まれる財務数値を学習させることで、複数の財務指標から不適切事例と正常事例との相違性を判別し、その結果を不適切事例との近似度として0~1の間のスコアとして表現することができる。

また、結果の説明可能性を高めるために、SHAPと呼ばれるExplainable AI(説明可能なAI)の技術を採用しており、どの指標がスコアに影響しているのかを、スコアへの寄与度として把握することが可能だとしている。また、今回の特許取得に際し、不正リスクが高いと評価された企業と類似した特徴を持つ過去の不適切事例を参照できる仕組みを改善し、指標ごとの実数値とスコアへの寄与度の両面から、類似した傾向を持つ過去の不適切事例をレコメンドするよう見直し、より分析対象企業にマッチした不適切事例を容易に参照することを可能にしている。

不正検知モデルは100社程度に導入中であり、今後はさらに多くの監査業務において活用を進める。また分析結果に基づいて監査先企業との議論をより深化させることで企業のガバナンス向上に貢献する。

今回特許を取得した不正検知モデルや先般特許を取得した複合的異常検知モデルなど、監査品質の向上に資するような新たな技術やツールの開発を進めている。同社は、デジタル化、標準化、集中化、高度なデータ活用の観点から監査プロセスを変革し、高品質で高付加価値な監査を創造する「Audit Innovation®」*を推進し、これまでの価値観や方法論にとらわれることなく、変化するステークホルダーの期待を適時的確に捉え、それらに応え続けていくとしている。

* Audit Innovationは、有限責任監査法人トーマツの登録商標。

【特許番号】 特許第7216854号(P7216854)
【登録日】 令和5年1月24日(2023.1.24)
【発明の名称】 情報処理装置およびプログラム
【特許権者】 【氏名又は名称】有限責任監査法人トーマツ
【発明者】 【氏名】森 孝志、 今井 伸太郎、 三浦 伊織、 吉見 脩平、 山根 青雲

【要約】 【課題】会計処理に不正がある場合に不正の事実を高い精度で推定することを可能にし、且つ、不正と判定する根拠を客観的に提示できるようにする。
【解決手段】情報処理装置10は、取得手段1002と、抽出手段1004と、判定手段1006と、を有する。取得手段1002は、対象事業者についての複数の決算期に係る財務データを取得する。抽出手段1004は、取得手段1002により取得した財務データに基づいて生成される勘定科目ごとに、当該勘定科目に係る値の推移を示す推移情報を抽出する。判定手段1006は、抽出手段1004により抽出された推移情報に基づいて、対象事業者による会計処理における不適切性を判定する。

【選択図】図2


Latest Posts 新着記事

知財の主戦場は「充電」から「交換」へ——CATLが先回りする日本市場の布石

世界最大級の車載電池メーカーCATLは、セルやパックの“モノづくり”を超えて、交換式バッテリーによる「BaaS(Battery as a Service)」へと事業射程を拡張している。交換ステーション、共通モジュール、運用ソフト、資産管理—この新モデルが成立するとき、勝負を決めるのは工場規模だけではない。規格化を押さえる特許と、サプライチェーン横断で効くサービス設計の知財である。中国本土では、Si...

環境×技術×知財 BlueArchがつくる“持続可能な海洋モニタリング”の新モデル

海岸林、マングローブ、塩沼、藻場などの ブルーカーボン生態系 は、地球温暖化対応の大きな鍵となる。これらの環境は、陸上森林よりも濃密に炭素を隔離する能力を持つという報告もある。Nature+2USGS+2 だが、こうした海・沿岸域の調査・保全には「アクセス困難」「高コスト」「リアルタイム性の欠如」といった課題が横たわる。ここに、ドローン技術、GPS(あるいは水中位置推定技術)、そして特許設計による...

ファーウェイ、特許で動く EV×5G基地局に見る中国知財の拡張戦略

■ 序章:静かに増える“赤い知財網” 特許庁の公開データを丹念に追うと、近年ひとつの変化が浮かび上がる。日本国内での中国企業による特許出願が、2015年以降、年率二桁で増加しているのだ。 とりわけ通信・電池・モビリティといった「脱炭素×デジタル」分野に集中しており、日本企業が得意とする領域を正面から狙っている。こうした動きの中心にいるのが、通信大手・華為技術(ファーウェイ)である。 米中摩擦のさな...

終わりなき創造の旅 厚木の発明家が挑む“次の技術革命”」

特許数でギネス更新 21世紀のエジソン、厚木に―発明の街が問いかける、日本の未来図 神奈川県厚木市―東京からわずか1時間足らずの距離にあるこの街が、世界の技術史に名を刻んだ。特許数の世界記録を更新した発明家、山﨑舜平(やまざき・しゅんぺい)氏が拠点を構えるのが、まさにこの地である。彼の名がギネス世界記録に再び載ったというニュースは、科学技術の世界だけでなく、日本人のものづくり精神を象徴する話題とし...

知財は企業の良心を映す鏡――4億ドル評決が語るイノベーションの倫理

2025年10月、米テキサス州東部地区連邦地裁で、韓国の大手電子機器メーカー・サムスン電子に対し、無線通信技術の特許侵害を理由に4億4,550万ドル(約690億円)の賠償を命じる陪審評決が下された。この判決は、単なる企業間の紛争を超え、ハイテク産業における知的財産権(IP)の重みを再認識させる事件として、世界中の知財関係者の注目を集めている。 ■ 「技術を使いたいが、支払いたくない」——内部文書が...

知財が揺るがす電機業界――TMEIC×富士電機、UPS特許訴訟の裏側

2025年夏、産業用電源装置分野を揺るがすニュースが伝わった。東芝三菱電機産業システム(TMEIC)が、富士電機の無停電電源装置(UPS)製品が自社の特許を侵害しているとして、韓国において訴訟および輸入禁止の措置を求めた件である。韓国貿易委員会(KTC)は8月下旬、TMEICの主張を一部認め、富士電機製の特定UPSモデルについて韓国への輸入を禁止する決定を下した。日本企業同士の知財紛争が、国外で具...

「JIG-SAW、AI画像技術で米国特許を獲得へ 知財を武器にグローバル競争へ挑む」

はじめに:発表概要と意義 JIG-SAW(日本発の IoT / ソフトウェア/AI ベンチャーと理解される企業)は、米国特許商標庁から「コンピュータビジョン技術」に関する Notice of Allowance(特許査定通知) を取得した旨を、自社ウェブサイトおよびニュースリリースで公表しています。 具体的には、JIG-SAW は「コンピュータビジョン技術、画像処理・画像生成支援技術」分野において...

「特許で世界を包囲する中国 イノベーション強国への加速」

はじめに:なぜ国際特許出願数が注目されるか イノベーション(技術革新)の国際競争力を測る指標として、研究開発投資、論文発表数、特許出願数などが長らく注目されてきました。特に国際特許(例えば、特許協力条約 PCT 出願、あるいは各国出願による外国での保護を意図した出願)は、一国の発明・技術が国際市場を見据えて保護を志向していることを示すため、技術力だけでなく国際志向性の強さも反映します。 近年、中国...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る