溶接業界に大変革 溶接せずに金属を接合する新たな手法で特許取得 低コストでCO2削減


富山県産業技術研究開発センター(高岡市)は、アルミニウムと他の金属を接合する新たな技術を開発し、国内の特許を取得したことを読売新聞オンラインが22年8月21日伝えている。

金属を溶かさず、たたいて接合することで高い強度を保つこの技術は、二酸化炭素(CO2)の排出量削減に向けて、自動車業界では車体や部品の軽量化が求められており、今後の活用が期待される。

金属を接合する場合、従来は金属を溶かして接合する「溶接」が一般的だった。しかし、異なる金属を接合する場合は、溶接した部分に化合物の層ができ強度が弱くなるという欠点があった。同センターが開発した新たな金属接合技術は「 鍛接たんせつ 法」と呼ばれ、金属を溶かさず、300~400度程度の比較的低温の熱を加え、たたいて接合する。この技術、接合部の化合物の層は、1ミリの100万分の1レベルまで薄くでき、高い強度が保てる。

また、接合する時間は0・1秒以下と短時間で、町工場にある一般的なプレス機で加圧できるため、コストも抑えられる。鉄や銅、チタンなど様々な金属とアルミの接合ができる。

新たな金属接合技術は、主に自動車業界での活用が想定され、自動車の車体は鉄が主流だが、アルミは鉄の3分の1の軽さで加工しやすく、比較的安価だ。少ないエネルギーで車を動かせば、CO2排出量を減らせるため、業界では車体を軽くするというニーズが高まっている。

さらに、重くて高価な銅に代わり、アルミを組み合わせてバッテリーの端子を作ることも可能だ。電気自動車(EV)や、水素を動力源とする燃料電池車(FCV)などの開発に欠かせない技術になる可能性がある。

この技術の研究は2008年頃から始め、10年以上経て日の目を見た。同センターは、すでに自動車関連の複数企業と共同研究を進めており、技術の活用方法を検討している。9月には米国や欧州、中国、韓国で関連の特許出願をする予定だという。

アルミは富山県の基幹産業で、アルミの用途が様々な分野に広がることも期待される。開発を担った同センターの山岸英樹・副主幹研究員は「脱炭素に向け、自動車産業の新たな基盤技術になる。使いやすい技術なので、町工場で作る身の回りの日用品の製造にも活用できるだろう」と話している。

革新的な異種金属接合技術「鍛接法」の基本特許の国内特許査定(権利化)について。(富山県HPより引用)

名称:「金属接合方法」
発明者:山岸 英樹 他2名
出願番号:日本国特許 特願2017-243612
特許査定日:令和4年7月5日

概要:カーボンニュートラルに向けて自動車などモビリティの電動化・水素化が急速に進む中、軽量化や機能化のため、車体や電気部品など様々な製品形態に応じた異種金属接合技術の確立が極めて重要な課題となっています。

しかしながら、従来一般に適用されている抵抗溶接法やレーザ溶接法などの溶融溶接法(材料を溶かす手法、液相)で異種金属の接合を行う際は、溶接時の高温による化学反応のために多くの金属の組合せで脆弱な金属間化合物(Intermetallic compound: IMC)が容易に生成、成長してしまい、実用的な接合強度を得られない問題が生じます。例えば鉄鋼とアルミニウム合金の組合せの場合、これらの接合により生成される金属間化合物層の厚さがわずか1μm(1mmの1000分の1)程度であっても、その強度が著しく低下することが知られています。

このため材料を溶かさない固相での様々な接合法が、化合物層の成長抑制のために試みられていますが、加工時間が長いなどの低い生産性や、あるいはそもそも接合強度が低いなどの点で、多くの場合実用化に十分な異材接合法とはなっていません。

本発明は、異なる金属の接合を、加圧により大変形を付与する(接合面積を広げる)と同時に溶かさずに低温で行うことで、この反応層の厚みをナノメートルオーダー(1mmの100万分の1)に抑え込み、接合部の強度が低下する問題を根本的に解決しました(反応層を無害化:IMCフリー)。また瞬時に成形と同時に接合を実現できるため、非常に生産性が高いマルチマテリアル技術となります。

当該技術を用いることで、例えば自動車の車体軽量化や電動車等の駆動用コンポーネントなどの高機能化が実現できることから、既に複数企業と共同研究を進め周辺特許の整備も進めています。

本法は、従来のものづくり(生産技術)における材料制限や生産性を打ち破る次世代の高速・高強度異材接合法として幅広い製品への活用が期待されます。


【オリジナル記事・引用元・参照】
https://www.yomiuri.co.jp/local/toyama/news/20220820-OYTNT50111/
https://you1news.com/archives/63110.html
https://www.pref.toyama.jp/1301/20220808_tokkyo.html


Latest Posts 新着記事

ロボットの動きをAIが特許化する時代に──MyTokkyo.Aiの最新発明抽出事例

家庭内ロボット市場が急速に進化している。掃除ロボットや見守りロボットだけでなく、洗濯物の片付けや調理補助など、従来は人が行ってきた細やかな日常作業を担う“家庭アシスタントロボット”が次のトレンドとして期待されている。しかし、家庭内という複雑な環境で、人に近いレベルの判断と動作を瞬時に行うためには、膨大なセンサー情報を統合し、高度なモーションプランニング(動作計画)を行う技術が不可欠だ。 このモーシ...

「施工会社」から「技術企業」へ──特許資産ランキング2025、鹿島建設が首位に立つ理由

建設業界は今、大きな転換点に立っている。少子高齢化による深刻な人手不足、カーボンニュートラルへの対応、インフラの老朽化、建設コストの上昇など、従来型のゼネコン経営では持続可能でなくなる課題が次々と顕在化している。こうした中、各社が未来の競争力として注力しているのが「特許」だ。特殊技術の囲い込み、施工ノウハウの形式知化、AI・ロボティクス・材料開発などの分野で、知財の強化が急速に進んでいる。 202...

自動車軽量化の裏側で進む加工技術革新──JFEスチールの割れ防止発明が鍵に

自動車の軽量化ニーズが高まり、高強度鋼板(AHSS:Advanced High Strength Steel)が普及するにつれて、プレス成形時の“割れ”は避けて通れない技術課題となっている。特にAピラー下部、サイドメンバー、バッテリーフレームなど、複雑な形状でありながら衝突時に高いエネルギー吸収が求められる部位では、L字形状のプレス部品が多用される。しかし、こうしたL字プレス品は、曲げコーナー部に...

Ouraの提訴が示すスマートリングの“囲い込み競争”──次世代ヘルスデータ戦争へ

ウェアラブルデバイス市場が新たな転換点を迎えている。フィンランド発のスマートリングメーカー Oura(オーラ) が、Samsung(サムスン電子)を含む複数の大手企業を特許侵害で提訴する意向を示したという報道が流れ、業界の緊張感が一気に高まっている。対象は、急速に注目を集める「スマートリング」分野。指輪型デバイスによる健康管理市場はまだ黎明期であり、プレーヤーが少ないからこそ、特許をめぐる争いの影...

アップルはなぜ負けた? 医療特許の壁に直面したApple Watch

米国の特許訴訟市場が久々に世界の注目を集めている。発端は、Apple Watchシリーズに搭載されてきた「血中酸素濃度測定(SpO₂)機能」をめぐる特許訴訟で、米国ITC(International Trade Commission)がアップルに対し“侵害あり”の判断を下したことだ。米国では特許侵害が認められると、対象製品の輸入禁止措置という強力な制裁が発動される可能性がある。今回の判断は、App...

デフリンピック開催に寄せて:「聞こえ」を支えるテクノロジー、人工内耳の「中核特許」

2025年11月、日本では初めてのデフリンピックが開催されています。これは、手話をはじめとする、ろう者の文化(デフ・カルチャー)が持つ独自の力強さに光が当たる、歴史的なイベントです。 https://deaflympics2025-games.jp/   デフリンピックの開催は、スポーツイベントであると同時に「聞こえ」の多様性について考える絶好の機会でもあります。聴覚障害を持つ人々にとっ...

10月に出願公開されたAppleの新技術〜Vision Proの「ペルソナ」を支える虹彩検出技術〜

はじめに 今回は、Apple Inc.によって出願され、2025年10月2日に公開された特許公開公報 US 2025/0308145 A1に記載されている、「リアルタイム虹彩検出と拡張」(REAL TIME IRIS DETECTION AND AUGMENTATION)の技術内容、そしてこの技術が搭載されている「Apple Vision Pro」のペルソナ(Persona)機能について詳説してい...

工場を持たずにOEMができる──化粧品DXの答え『OEMDX』誕生

2025年10月31日、化粧品OEM/ODM事業を展開する株式会社プルソワン(大阪府大阪市)は、新サービス「OEMDX(オーイーエムディーエックス)」を正式にリリースした。今回発表されたこのサービスは、化粧品OEM事業を“受託型”から“構築型”へと転換させるためのプラットフォームであり、現在「特許出願中(出願番号:特願2025-095796)」であることも明記されている。 これまでの化粧品OEM業...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る