災害や緊急事態の最中、電波が届かない状況下でも通信可能に―アップルが「緊急通信システム」の特許取得


大規模な火事や地震、台風などの災害や緊急事態の最中といった、通信が必要な状況のときほど、インフラの故障や障害物による遮断などが起こりがち。アップルが、そうした電波が届かない場所まで通信範囲を広げられる、「緊急通信システム」の特許を取得したことが明らかになったとPHILEWEBは22年7月22日伝えている。。

この特許は主に警察や救急隊員といったファーストレスポンダー(初期対応者)を対象としたもので、2001年の911事件でも、世界貿易センタービルにて被害者の命を救えた可能性がある技術と言える。威力を発揮するのは、本来なら通信網でカバーされているはずの大都市等で、地下街や瓦礫が通信を遮っている場合に機能するシステムだ。

特許は、通信圏内にあるiPhoneやiPad等から、圏外にあるデバイスに通信を中継する方法に関するもので、法的には、法執行機関が携帯電話の通話を傍受する権限を付与されている「合法的傍受」(Lawful Intercept)を基盤としている。

そして技術的には、デバイス同士が基地局やWi-Fiアクセスポイントを経由せず、直接に通信経路を確立できる「近接サービス」(ProSe)に基づいている。ProSe通信には、周波数の利用率を向上させ、全体的なスループットと性能を底上げし、電力消費が節約できるなど多くの利点があるという。

重要なことは、ProSe通信を使うことで、一方の端末が携帯通信ネットワークを使えない場合にも、公共安全ネットワークを提供できるということ。それはモバイル端末(iPhone)等の中継デバイスを経由して、圏外にあるモバイル機器をセルラー通信網に繋げることができる。

とはいえ中継点となるモバイル機器も、セルラー通信網に繋がらなければ機能し得ない。アップルの特許は、図のようにそれを複数のiPhone同士で中継することで解決しようという方向だ。

Image:Apple/USPTO

こうした状況の例としては、公共安全要員(消防士など)のグループが挙げられている。その1人以上の機器が圏外にある場合(屋内やトンネル内など)でも、ProSe通信サービスを使って互いに通信を取り合い、セルラー通信網との接続も確保できるというわけだ。他のメンバーが圏外にいたとしても、たった1人が圏内にいればリレーでき、グループ内や外部とやり取りが可能だ。

この特許の説明は、第一に合法的傍受、第二に緊急通信システムに向けられているが、同じ技術が民生用のiPhoneに実装されることも想定できる。

今年の「iPhone 14」は衛星通信に対応し、圏外でもSOS発信できるとの予想もある。近年のApple Watchも転倒検知や心房細動の検出など「命を救う」ことに重点が置かれており、iPhoneは人間にとっての「携帯端末」としての「本来の役割」の方向に向かいつつあるのかもしれない。


【オリジナル記事・引用元・参照】
https://www.phileweb.com/news/mobile_pc/202207/22/3100.html
https://9to5mac.com/2022/07/20/emergency-communication-system/
https://www.patentlyapple.com/2022/07/apple-has-won-a-patent-relating-to-lawful-intercept-reporting-in-wireless-networks-using-public-safety-relays.html


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