「AIを特許の発明者として認めるように知的財産法を制定すべきだ」と唱えたふたりの専門家


オーストラリアのニューサウスウェールズ大学の2人の学者が「世界各国の政府は、AIに特許の発明者であることを認めるように知的財産法を制定すべき」と主張する論文を発表したことをGigazineは22年5月31日伝え、AIを発明者として認めないことは経済や社会に長期的な影響を与える可能性があるとしています。

AIを特許の発明者として認めるべきだと唱えたのは、法学者のアレクサンドラ・ジョージ氏とAIの専門家であるトビー・ウォルシュ氏です。

現行の法律では、特許の発明者は人間しか認められません。開発者のスティーブン・テイラー氏は、アメリカやイギリスで「AIにも特許を認めるべき」として特許庁を訴えましたが、いずれも敗訴しています。
国際的に特許の基準を設けたのは、1883年に作成された工業所有権の保護に関するパリ条約と、世界貿易機構によって1994年に作成された知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRPIS協定)です。いずれの条約もAIによる発明を想定していません。

TRIPS協定では「製品であれプロセスであれ、すべての技術分野において、進歩性があり、産業応用が可能であるという条件で、あらゆる発明を保護する」とあります。ここに書かれている「発明」「進歩性」「産業応用が可能」という言葉は法的な定義を持ち、どれかを満たしていない場合、特許の発明者であると認められません。

このうち、「発明が先行技術に基づいてその技術分野の専門家が容易に成し遂げることができたものではない」ことを示す「進歩性」という部分で、AIの発明に特許を認めるかどうかが左右されるとジョージ氏とウォルシュ氏は指摘しています。

2人は「裁判所や政府が、AIの発明では特許を取れないと判断した場合、その影響は非常に大きくなります。資金提供者や企業は投資に対するターンが制限されると考えてしまうため、AIを使って特許や有用な技術を追求するインセンティブが損なわれます。社会は人の命を救うような価値ある発明を逃してしまうかもしれません」と主張しています。

ジョージ氏もウォルシュ氏も、テイラー氏の立場に味方しています。両氏は「法律や国際条約を1から作るのは並大抵のことではありませんが、全く作らないままでいることはもっと悪いことでしょう。AIは科学のあり方や発明のあり方を変えつつあります。公共の利益に資するように目的に合った知財法が必要です」と述べました。


【オリジナル記事・引用元・参照】
https://gigazine.net/news/20220531-ai-patent-law/


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