アイデアを形に──。どんなに素晴らしいアイデアも頭の中にあるだけでは価値を生み出さない。アイデアを「創造」する。創造されたものは「保護」することで尊重される。こうしてアイデアは社会で「活用」される。「知的創造サイクル」と呼ばれるこのプロセスは産業競争力を高める上で欠かせないものだ。そして知的財産教育の重要な柱でもある。
従来の知財教育といえば、特許の制度やルールを教える「保護」に焦点を絞った知識供与をイメージするが、「創造」から「活用」まで一貫して、実体験として会得することに挑んだ事例がある。学生が取得した特許で工業製品の商品化に成功した「ハトギプロジェクト」について、ビジネス情報サイトWEDGE Infinityが22年3月26日伝えている。
「ハトギ」とは刃物の研ぎ器のことで、発明者は沼津工業高等専門学校機械工学科5年生の鈴木涼太さんだ。鈴木さんは1年生のときからそのTKYに所属し、2017年のパテントコンテストに刃研ぎ器の発明を応募した。
このコンテストは高校生から大学生を対象に文部科学省、特許庁、日本弁理士会、工業所有権情報・研修館が主催するもので、優秀な発明やデザイン(意匠)は特許の出願支援を受けることができる。鈴木さんは優秀賞を受賞したことで、翌年に特許出願と権利化を行い、発明の「保護」を経験。いよいよその権利を「活用」するため、仲間に声をかけ、商品化を目指してハトギプロジェクトを立ち上げた。
20年、商品化に成功した彼らは再びパテントコンテストの表彰台に立った。同コンテストの作品が事業化された初の事例として、特許庁長官賞を受賞したのだ。
だが、そもそもなぜ刃研ぎ器なのか。鈴木さんは刃物には長さがあって、カーブもあるのに、市販の研ぎ器では一様には研げない。刃の根本と先端では刃をあてる角度も変えないといけない。さらに研ぐ人のさじ加減が求められる。だから、どんな人でも、刃物のどこを研いでも、常に同じ角度で、同じ切れ味になる研ぎ器が欲しかったという。
そこで考案したのは、2つの面で刃物を挟むことによって刃の研磨角度を一定に保つことができる研ぎ器だ。並行に配置された2つのブロックが刃物の下でつながり、刃物は自由に動かすことができる。
では、鈴木さんはなぜ1人ではなく、チームで商品化する道を選んだのか。「ぼくはスケジュール管理が苦手で、授業の課題もパテントコンテストの応募もいつも締め切りギリギリになってしまう。商品化を進めるには、マネジメントしてくれる人が必要だった」と話す。大津教授からも「自分と違うものを持ったメンバーを集めなさい」と助言を受け、新たに5人を招集した。
まるで一つの企業のように役割分担を敷いた5人だが「コンテストやレースに参加するのと、商品化を目指すのはまったく別物だった」と紆余曲折の道のりを振り返る。最も難航したのは「誰向けの商品にするのか」というターゲットの選定だった。
「いわゆるビジネスモデルの考え方でいくと最もメジャーな層、この場合は包丁を使う頻度が多い一般家庭に向けて商品化することを当初考えていました。でも、そういう層は包丁よりも高価な研ぎ器を買うとは思えず、コストを抑えるには量産できる製造方法で作ることを考えなければなりませんでした」と宮本さん。
だが、金型による量産を想定すると、使用できる材料にも形状にも制約が生じた。妥協して作っても、試作コストすら採算が取れないかもしれない。行き詰まった彼らに、大津教授が提案したのは「TRIZ(トリーズ)」という発想法を組み込んでブランディングを行うことだった。
TRIZとは、膨大な特許文献の分析から、問題解決のための着眼点や思考プロセスを体系化した理論。発明を40個のパターンに分類した「40の発明原理」がそのツールとして使われている。大津教授は「本質を見出し、それを解決するのがTRIZの基本。本質を見出すために、まず矛盾点を炙り出します」と話す。
例えば、音声をクリアに聞き取るためにマイクの感度を高めると雑音もさらに取り込まれ……。というように、あることを改善しようとして意図せず別の問題が生じることがある。これを技術的矛盾という。彼らの場合も、量産化にとらわれたことで、本来作りたいものを作れない、という矛盾を抱えていた。
TRIZの考え方に基づき、すべての選択肢を一から見直していった結果、彼らは一般家庭向けではなく、刃物に対しこだわりを持ったマニア向けの受注生産に舵を切った。研ぎ器の本体は耐摩耗性に優れた樹脂のブロックから削り出し、ステンレスの刃をレーザーカットして取り付けた。バネが伸縮することで刃物をうまく挟み、支える。鈴木さんが木を削って作ったプロトタイプでも、量産製造でもかなわないものが形になった。
「かっこいい」。試作品を初めて目にしたとき、彼らの迷いは吹き飛んだ。そして読みは見事に的中。金物の展示会に出展すると、さっそくプロの目に留まった。1日に何十本も包丁を研ぐ職人から「今すぐほしい」と申し出があった。すでに販売実績もあり、今後はさらに細かなニーズに応えるため改良し、洗練させたいと話す。
一連の活動を振り返り、鈴木さんは「かつてはアイデアがあっても想像の域を超えなかったが、形にするための思考法を得られたことが最大の収穫」と話す。部長の鈴木檀さんや宮本さんは「思いがあるだけではものづくりはできない。商品が世に出るまでのプロセスを学ぶことができた」と話す。
「本物への挑戦」が重要だと語る大津教授。本物に触れることで理想と現実のギャップに気づく。溝を埋めるべき課題が見えれば、解決に向け動くことができる。これも「トングスモデル」と呼ばれるTRIZの原理だ。
【オリジナル記事・引用元・参照】
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/26137
* AIトピックでは、知的財産に関する最新のトピック情報をAIにより要約し、さらに+VISION編集部の編集を経て掲載しています。
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