NFTが流行する以前のコンテンツのNFT化について 米国裁判事例から学ぶNFTライセンスビジネスと法律


様々な産業からの進出が相次ぎ、2021年を代表する成長市場の1つとなった「NFT」(Non-Fungible Token:非代替性トークン)。

NFTは、クリエイターの効果的なマネタイズの途を新たに開いたことなどが注目される一方で、著作権その他の権利処理には課題があると言われている。特に、NFTが登場する前に多数の利害関係者が関与して創作され、契約等による権利処理が行われた作品にとっては、NFT化という利用形態が現れたことによって改めて対応が必要になる場合があると考えられると、YAHOOニュースは22年1月1日NFTライセンスビジネスと法律について次のように伝えている。

その代表例は、出資者(製作委員会メンバー各社等)、映像制作会社、監督、脚本家、演出家、カメラマン、美術、俳優、声優など多くのメンバーが関与して創作される映画、アニメ、TV番組等の映像作品やゲーム作品だ。映像作品を製作する際には、劇場配給やTV放送等の一次利用だけでなく、インターネット配信、出版、ビデオグラム化、グッズ化、ゲーム化、さらにはアミューズメントパークでの利用など様々な二次利用も含めて、利用形態ごとのライセンス窓口担当者、各関係者間での利益分配の割合・方法等を契約で取り決めている。
ところが、NFTが流行する前に製作された作品の場合、作品をNFT化する場合を想定した条項を盛り込んだ契約書が締結された例は稀だ。この場合、その作品に関与したメンバーの中で誰がNFT化やそのライセンスをする権利を持つのか、NFT化により得られた収益は誰に、いかなる割合で分配されるのかが不明確となり、トラブルに発展する可能性がある。また、NFT化するためのライセンスを受けようとする側からすると、例えば製作委員会メンバーの中の誰からライセンスを受ければいいのか分かりづらいという問題もある。

こうした問題点が発端となり、2021年11月16日、米国で裁判が起こされた。

クエンティン・タランティーノ氏が、自ら監督・脚本等を務めた映画「Pulp Fiction」の脚本をスキャンしてデジタルデータ化し(未公開の手書きスクリプト及びタランティーノ氏が同映画等の秘密を暴露するコメントなどが含まれたもの)、これをNFT化してオークションに出品しようとした行為につき、同映画の製作・配給を行ったスタジオであるMiramax社が、契約違反、著作権侵害等を理由として訴えを提起したのです。

このMiramax社とタランティーノ氏の事例のように、これまで知られていなかったNFT化という新たな利用形態について、どの当事者がどの範囲で契約上又は著作権法上の権利を持つのかがはっきりしないという状況が発生している。

そこで日本の契約実務をもとに考えてみるに、今後は、映像作品等を製作するための共同事業契約(いわゆる製作委員会契約)や、原作利用許諾契約、監督・脚本・出演等の業務委託契約等の各種契約において、二次利用の形態として「NFT化」を明確に定義し、ライセンスの窓口担当者、収益分配の割合・方法等をあらかじめ規定することを検討すべきかもしれない。

これまでの契約実務の文脈では、NFT化は、例えば自動公衆送信、商品化等のカテゴリーで窓口等を捉えられる場合もあるが、もっとも、一口に「NFT化」といっても、それはデジタルコンテンツの様々な活用方法を実現する手段であるという側面がある。つまり、特定の二次利用に付随してNFT化が伴う場合もあれば、複数の二次利用形態にまたがる場合もありえる。これらは個別の契約書における規定内容次第であり、大きなビジネスになるとすればトラブルも生じやすいといえる。

他の二次利用形態と同様に、NFT化についてもあらかじめ契約でルールを明確にしておくことにより、リスクを軽減することができる。

また、単にNFT化すること自体は著作権を侵害しない行為である場合も多いという点には注意が必要だ。NFT化は、対象となるデジタルコンテンツの所在場所(URL、IPFS等のリンク情報)を記録することなどによって行われることがある。

しかし、URL等の文字列は著作物ではない場合が多く、また、すでにインターネット上に存在するデジタルコンテンツへのリンクを単に張ることだけでは著作権侵害にはならないと理解されている。このため、デジタルコンテンツを新たにインターネット上にアップロードすることなどが伴わない限り、NFT化は著作権を侵害せずに行うことができる(=著作権侵害を理由にNFT化を差し止めることができない場合がある)と整理される余地がある。

そうすると、ライセンスビジネスとしてきちんと管理しながらNFTを取り扱おうとする権利者にとっては、著作権の処理という視点だけではなく、それとは別に、関係者に対して「無断でNFT化をしない」という義務を負わせる契約条項を設けることを検討した方が良いということにもなる。

日本のアニメ、映画、ゲーム、キャラクターなどの作品は、世界的にも高い人気を獲得しているので、それら優れた日本の作品を、NFT化というグローバルな急成長市場に安心して投入でき、また、消費者も安心して購入・利用できる法制度、実務その他の環境を構築することが重要な課題となっている。


【オリジナル記事・引用元・参照】
https://news.yahoo.co.jp/byline/sekimasaya/20220101-00275364


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