株式会社トランスジェニック(以下、トランスG)は、2025年6月に「エクソンヒト化マウス」に関する特許を欧州で取得したことを発表しました。この技術は、従来のヒト化マウスモデルの課題を克服し、疾患研究や創薬支援において新たな可能性を開くものとして注目されています。本稿では、この技術の概要、適用例、特許取得の意義、技術的背景と課題、今後の展開について詳述します。
1. エクソンヒト化マウス技術の概要
従来のヒト化マウスでは、ヒト遺伝子のエクソン(タンパク質をコードする部分)のみを導入することが一般的でしたが、イントロン(非コード領域)や遺伝子発現制御領域はマウス由来のままであることが多く、これが発現量や組織特異性の不一致を引き起こす原因となっていました。トランスGの新技術では、エクソンをヒト化しつつ、イントロンや遺伝子発現制御領域はマウス由来のままにすることで、ヒト遺伝子の発現パターンを量的・組織特異的に正常に再現することが可能となります。これにより、疾患モデルとしての精度が向上し、治療法の開発や有効性の検証において有用なツールとなります。
2. 主な適用例と研究成果
この技術を用いて、以下の疾患モデルマウスの作製が成功しています:
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アミロイドーシス治療法開発向け「トランスサイレチン(TTR)エクソンヒト化マウス」
家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)の原因遺伝子であるTTRのエクソンをヒト化したモデルマウスです。これにより、TTR遺伝子の発現の組織特異性や血中量が正常であることが確認され、FAPの病態解明や治療法の検証に有用なモデルとして期待されています。 -
COVID-19研究用「ACE2エクソンヒト化マウス」
新型コロナウイルスの感染受容体であるACE2のエクソンをヒト化したモデルマウスです。これにより、ACE2の発現パターンが正常に再現され、ウイルス感染メカニズムの解明や治療法の開発に寄与することが期待されています。
これらのモデルマウスは、核酸医薬や遺伝子治療の効果を評価する上で極めて有用とされています。特に、遺伝子発現の組織特異性や量的な再現性が重要な疾患モデルにおいて、従来のヒト化マウスモデルでは再現が難しかった発現パターンを正確に再現することが可能となり、研究の精度向上が期待されています。
3. 特許取得の意義と今後の展開
欧州での特許取得により、トランスGはこの技術の独占的な利用権を得ることとなり、知的財産基盤の強化が図られました。これにより、エクソンヒト化マウスを用いた疾患モデルの作製受託、販売、共同研究の展開が進むとともに、非臨床試験の相談も増加しています。今後、これらのモデルを活用した創薬支援サービスの充実が期待されます。
また、特許取得に伴い、同技術を用いた新たな疾患モデルの開発が進むとともに、医薬品の開発や治療法の検証において重要な役割を果たすことが期待されます。特に、遺伝子発現の組織特異性や量的な再現性が重要な疾患モデルにおいて、エクソンヒト化マウス技術は従来のヒト化マウスモデルでは再現が難しかった発現パターンを正確に再現することが可能となり、研究の精度向上が期待されています。
4. 技術的背景と課題
エクソンヒト化マウス技術は、ゲノム編集技術を駆使してマウスTtr遺伝子のエクソンのみをヒト化することで、発現量や発現パターンを正常に再現することを目指しています。これにより、従来のヒト化マウスモデルの課題であった発現の不一致を克服し、疾患研究や創薬支援においてより精度の高いモデルが提供されることとなります。
しかし、全長のゲノムDNAをヒト化することには技術的な課題があり、大きな外来遺伝子配列を導入すると、内因性遺伝子の発現や調節に影響を与える可能性があります。そのため、エクソンヒト化というアプローチは、現実的かつ効果的な手段として注目されています。
また、エクソンヒト化マウス技術を用いた疾患モデルの作製には、高度なゲノム編集技術や遺伝子導入技術が必要となるため、技術的なハードルが高いことも課題とされています。そのため、技術の普及や応用には、技術者の育成や設備の整備が重要となります。
5. 結論
トランスGのエクソンヒト化マウス技術は、従来のヒト化マウスモデルの課題を克服し、疾患研究や創薬支援において新たな可能性を開くものとして注目されています。欧州での特許取得により、同社はこの技術の独占的な利用権を得ることとなり、今後の展開が期待されます。この技術を活用することで、より精度の高い疾患モデルの提供が可能となり、医薬品の開発や治療法の検証において重要な役割を果たすことが期待されます。