ファイザー、ポストコロナの試練:第1四半期8%減収とコスト削減の行方


2025年4月29日、米製薬大手ファイザー(Pfizer)は第1四半期の決算を発表し、売上高が前年同期比で8%減少し137億2,000万ドルとなったことを明らかにしました。この減収の主因は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬「パクスロビド(Paxlovid)」の売上が75%減少したことにあります。しかし、同社はコスト削減策を強化し、調整後1株当たり利益(EPS)を0.92ドルと、アナリスト予想の0.67ドルを上回る結果を示しました。

コロナ関連製品の売上動向

「パクスロビド」の売上は前年同期比で75%減少し、4億9,100万ドルとなりました。これは、COVID-19感染の減少や政府による購入の減少、さらに米国のメディケア改革による価格交渉の強化が影響しています。

一方、COVID-19ワクチン「コミナティ(Comirnaty)」の売上は62%増加し、特に米国市場での需要増加が寄与しました。また、心臓病治療薬「ビンダケル(Vyndaqel)」は33%増、がん治療薬「パドセブ(Padcev)」は25%増、「ローブレナ(Lorbrena)」は39%増と、コロナ以外の主要製品が堅調な成長を示しています。 

コスト削減と利益確保

ファイザーは、2025年末までに45億ドルのコスト削減を見込んでおり、さらに2027年までに総額77億ドルの削減を目指しています。この削減には、製造プロセスの最適化や研究開発の効率化が含まれ、特に研究開発費の5億ドル削減が予定されています。これらの削減策により、同社は利益率の改善を図っています。

第1四半期の調整後EPSは0.92ドルで、前年同期の0.82ドルから12%増加しました。これは、コスト削減と効率化が寄与した結果とされています。

2025年の業績見通しと成長戦略

ファイザーは、2025年の売上高を610億ドルから640億ドル、調整後EPSを2.80ドルから3.00ドルと予想しています。この見通しには、COVID-19関連薬の売上減少を補うための新薬の投入や、がん治療薬の拡充が含まれます。

同社は、2023年12月にがん治療のバイオ医薬品企業「Seagen」を買収し、がん領域での成長を目指しています。また、心臓病治療薬や神経疾患治療薬など、複数の分野で新薬の開発を進めています。これらの取り組みにより、ポストコロナ時代の新たな成長エンジンを構築しようとしています。

課題と展望

ファイザーは、主力製品の特許切れによる売上減少や、競合他社との激しい競争、規制環境の変化など、複数の課題に直面しています。特に、米国のメディケア改革による価格交渉の強化は、収益に大きな影響を与える可能性があります。また、肥満治療薬「ダヌグリプロン(danuglipron)」の開発中止など、研究開発面でも課題が浮上しています。

しかし、同社はコスト削減と効率化を進めることで、利益を確保しつつ、新薬の開発や戦略的買収を通じて成長を目指しています。特に、がん治療薬や心臓病治療薬などの分野での新薬投入が期待されています。また、製造拠点の最適化やデジタル化の推進により、生産性の向上を図っています。

結論

ファイザーは、COVID-19関連薬の売上減少という逆風の中でも、コスト削減と効率化を進め、利益を確保しています。今後は、新薬の投入やがん治療薬の拡充を通じて、成長を目指す方針です。ポストコロナ時代における同社の戦略と取り組みは、製薬業界全体にとっても注目すべきモデルとなるでしょう。


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