ペロブスカイト太陽電池:特許出願で世界をリードする日本の挑戦


日本発の革新技術:ペロブスカイト太陽電池の可能性

ペロブスカイト太陽電池(PSC)は、2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力教授によって発明された、日本発の次世代太陽電池技術です。軽量で柔軟性があり、製造コストが低いことから、従来のシリコン系太陽電池に代わる新たな選択肢として注目を集めています。特に、都市部のビル壁面や湾曲した屋根、衣服など、これまで太陽電池の設置が難しかった場所でも発電が可能となり、発電の概念を大きく変える可能性を秘めています。

この技術は、従来の太陽電池に比べて重さが100分の1と軽量であり、塗布による製造が可能なため、製造コストの削減や多様な用途への展開が期待されています。また、少ない光量でも発電できる特性を持ち、室内や曇天時でも効率的な発電が可能です。

特許出願数で世界をリードする日本企業

日本は、ペロブスカイト太陽電池の研究開発において高い技術力を有し、多くの特許を取得しています。特許庁の調査によると、2009年から2017年までの特許出願件数では、積水化学工業が148件で1位、富士フイルムが99件で2位、パナソニックが57件で8位にランクインしています。これらの企業は、材料の安定性や耐久性、光電変換効率の向上に関する技術で特許を取得し、国際的な競争力を高めています。

また、特許調査レポートによると、世界107か国を対象に約9,000件の特許の数量解析を行った結果、外国出願のあるファミリー数で見ると、日本が1位となっています。日本の特許件数上位10社の課題は耐久性、光電変換効率、欠陥・バラツキの順であり、これらの課題に対する解決手段が特許として出願されています。

中国の急速な追い上げと国際競争の激化

一方で、中国は政府の強力な支援を背景に、ペロブスカイト太陽電池の研究開発と特許出願を急速に進めています。特に2015年以降、出願件数が急増し、現在では全体の37%を占めており、日本の21.3%を上回っています。中国企業は、既存のシリコン太陽電池にペロブスカイト太陽電池を積層する「タンデム型」技術に注力しており、国際市場での競争力を高めています。

このような状況の中、日本はシリコン系太陽電池での失敗を繰り返さないためにも、さらなる産業競争力の向上が求められます。特に、タンデム型技術への対応や国際特許戦略の強化が重要となります。

日本の強みと今後の課題

日本は、ペロブスカイト太陽電池の主要原料であるヨウ素の生産量が世界シェアの約3割を占めており、原材料の安定供給という強みを持っています。また、材料の安定性や耐久性に関する研究開発では世界をリードしています。しかし、国際市場での競争力を維持・強化するためには、以下の課題に取り組む必要があります。

  1. タンデム型技術への対応: 中国や欧米が注力するタンデム型技術に対して、日本も研究開発を加速し、特許を取得する必要があります。

  2. 国際特許戦略の強化: 国内だけでなく、海外での特許出願を増やし、国際的な特許ポートフォリオを構築することが求められます。

  3. 政府の支援と産学連携: 政府の研究開発支援や、大学・研究機関との連携を強化し、技術革新を促進することが重要です。

実用化に向けた取り組みと展望

日本では、ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた取り組みも進んでいます。例えば、株式会社マクニカは、ペロブスカイト太陽電池の発明者である宮坂力特任教授とともに、環境省の実証事業に採択され、港湾などの苛烈環境における技術開発・実証を行っています。このプロジェクトでは、横浜市の港湾部で、塩害等の苛烈な環境下や、波打った屋根の上、より面積の大きい形状など、様々な条件下で実証を行い、実用化に向けた技術開発を進めています。

また、産業技術総合研究所(産総研)では、世界初となるペロブスカイト太陽電池自動作製システムを開発しました。このシステムは、基板電極の洗浄から電子輸送層、ペロブスカイト層、正孔輸送層の各種材料の積層、裏面電極の蒸着、セルの分離まですべて自動で行うもので、太陽電池性能のばらつきを抑制し、セル作製条件を変えて最適な太陽電池性能が得られる条件を探索することが可能となります。

これらの取り組みにより、ペロブスカイト太陽電池の実用化が進み、再生可能エネルギーの普及に貢献することが期待されています。

まとめ

ペロブスカイト太陽電池は、再生可能エネルギーの普及に向けた鍵となる技術です。日本は特許出願数で首位に立っていますが、中国の急速な追い上げにより、国際競争は激化しています。今後、日本が技術革新と特許戦略を強化し、国際市場での競争力を維持・向上させることが求められます。また、政府の支援や産学連携を通じて、実用化に向けた取り組みを加速し、ペロブスカイト太陽電池の普及を促進することが重要です。


Latest Posts 新着記事

「スマホが鍵」になる電子チケット──受付処理と本人確認の統合技術に関する出願動向

ライブ・コンサート・スポーツイベントなど、あらゆる「場」に人が集まる機会において、電子チケットが急速に普及している。特にコロナ禍以降、非接触・非対面の手段として定着した感のある電子チケットだが、その普及とともに浮上してきた課題がある。それが「不正転売の蔓延」と「受付処理の滞留」である。 この2つの課題に対し、一体どのような技術的解決策が講じられようとしているのか。2024年末から2025年にかけて...

BEV市場に挑むアルファロメオ、次世代『ステルヴィオ』はクーペSUVで再起を狙う

イタリアの名門アルファロメオが手掛けるSUV「ステルヴィオ」が、次世代モデルで大胆な進化を遂げようとしている。現行モデルが登場したのは2016年、ブランド初のSUVとしてスポーティかつラグジュアリーな存在感を放ってきたが、その後の市場の急激な電動化とSUVトレンドの変化を受け、次なる一手が注目されていた。 今回明らかになった次期ステルヴィオの開発情報によれば、最大の変化は「クーペSUV」としての再...

サムスン超えも視野に? LG、“青色りん光”でディスプレイ主導権へ

2025年春、OLED業界の技術革新を象徴する大きなニュースが飛び込んできた。LGディスプレイが、長年「ドリームOLED」と呼ばれてきた“青色りん光OLED”の製品化検証に成功し、量産準備の最終段階に入ったと発表したのである。これはOLED(有機発光ダイオード)ディスプレイの根幹技術を一変させるポテンシャルを秘めており、テレビ、モバイル機器、メタバース端末、そして次世代のマイクロディスプレイ市場に...

ペロブスカイト太陽電池:特許出願で世界をリードする日本の挑戦

日本発の革新技術:ペロブスカイト太陽電池の可能性 ペロブスカイト太陽電池(PSC)は、2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力教授によって発明された、日本発の次世代太陽電池技術です。​軽量で柔軟性があり、製造コストが低いことから、従来のシリコン系太陽電池に代わる新たな選択肢として注目を集めています。​特に、都市部のビル壁面や湾曲した屋根、衣服など、これまで太陽電池の設置が難しかった場所でも発電が可能となり...

知財戦略で世界を制す──中国のAI特許“量的支配”の真意

2025年現在、中国はAI(人工知能)分野における特許出願数・保有件数で世界最多となり、世界全体の6割を占めるに至った。かつては米国・日本・欧州が主導してきたAI研究とその産業応用の潮流は、今や急速にシフトしつつある。特許出願という知的財産の観点から見ても、「AI覇権」の構図は着実に変化している。 中国がここまでの特許大国になれたのは、偶然ではない。むしろ国家的な戦略に基づく極めて計画的な展開であ...

フェラーリ初のEV「エレトリカ」:新生産施設「E-ビルディング」で品質の高い製品を提供へ

フェラーリが2025年10月9日に発表予定の初の完全電動自動車(BEV)に関する詳細が明らかになりつつあります。​このモデルは、フェラーリの伝統を踏襲しつつ、電動化時代における新たなアイデンティティを確立することを目指しています。​ フェラーリ初のEV:名称は「エレトリカ」? 現時点で、フェラーリの初の完全電動自動車の正式名称は発表されていませんが、報道によれば「エレトリカ(Elettrica)」...

ファイザー、ポストコロナの試練:第1四半期8%減収とコスト削減の行方

2025年4月29日、米製薬大手ファイザー(Pfizer)は第1四半期の決算を発表し、売上高が前年同期比で8%減少し137億2,000万ドルとなったことを明らかにしました。​この減収の主因は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬「パクスロビド(Paxlovid)」の売上が75%減少したことにあります。​しかし、同社はコスト削減策を強化し、調整後1株当たり利益(EPS)を0.92ドルと...

都市生活を変える革新──三つ折り構造とバッテリー内蔵の電動アシスト自転車『180Degree』登場

都市生活における移動手段として、自転車は長年親しまれてきました。​しかし、近年の技術革新により、電動アシスト自転車が新たな選択肢として注目を集めています。​その中でも、独自の三つ折り構造とバッテリー内蔵デザインを採用した「180Degree」シリーズは、都市部での移動に革新をもたらす存在として登場しました。​ 三つ折り構造の革新性 「180Degree」シリーズの最大の特徴は、特許取得済みの三つ折...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

大学発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る