知財が揺るがす電機業界――TMEIC×富士電機、UPS特許訴訟の裏側


2025年夏、産業用電源装置分野を揺るがすニュースが伝わった。東芝三菱電機産業システム(TMEIC)が、富士電機の無停電電源装置(UPS)製品が自社の特許を侵害しているとして、韓国において訴訟および輸入禁止の措置を求めた件である。韓国貿易委員会(KTC)は8月下旬、TMEICの主張を一部認め、富士電機製の特定UPSモデルについて韓国への輸入を禁止する決定を下した。日本企業同士の知財紛争が、国外で具体的な行政措置にまで発展するのは極めて異例だ。

■UPS市場を巡る競争と特許の攻防

UPS(Uninterruptible Power Supply:無停電電源装置)は、停電や電圧変動の際に電力を安定供給し、設備を保護する装置だ。データセンター、半導体工場、医療設備など、社会インフラを支える基幹システムに不可欠な存在である。この分野は近年、エネルギー効率化やデジタル化の波を受けて、各社が技術革新とシェア拡大を競い合っている。

TMEICは、電力変換技術やインバータ制御技術において長年の実績を持ち、「三レベル変換回路(3-level UPS)」に関連する複数の特許を保有している。これに対し、富士電機は高効率・高信頼性を謳う自社製UPS「UPS7000HX-T3」などを展開しており、海外市場でも販売を拡大していた。両社の製品が同じ産業顧客層を狙っていたこともあり、競合関係は極めて近い。

■韓国での訴訟と輸入差止め決定

TMEICは2024年、日本国内で富士電機を相手取り、UPS関連の特許侵害訴訟を東京地裁に提起した。これと並行して、韓国でも富士電機製UPSの輸入・販売が自社特許を侵害しているとして、韓国貿易委員会(KTC)に申立てを行った。

その結果、2025年8月28日、KTCはTMEICの訴えを認め、富士電機のUPS製品のうち特定モデルについて「不公正貿易行為」と判断。韓国内への輸入を禁止する決定を下した。さらに、富士電機が主張していた「特許の無効性」についても、韓国知的財産庁が8月18日に却下を決定しており、特許自体の有効性も確認された形だ。

つまり、韓国ではTMEICの特許が有効であり、富士電機製品がそれを侵害している―という二重の判断が下されたことになる。

富士電機はこの決定に対し、「内容を精査のうえ、控訴や異議申し立てを検討する」との声明を発表した。輸入禁止措置は企業の国際供給網に直結するため、仮に最終的に確定すれば韓国市場での事業展開に大きな影響を及ぼすことになる。

■特許紛争の本質:技術か、戦略か

今回の争いの焦点となったのは、UPSの変換回路構成や制御方法に関する技術だ。三レベルインバータ方式は、従来の二レベル方式に比べて高効率・低損失を実現できるが、その構成やスイッチング制御は極めて高度であり、各社が独自のノウハウを持つ。

こうした分野では、技術の「差」よりも「特許の守り方・使い方」が勝敗を分ける。特許を盾に相手の市場参入を制限する「防御戦略」と、訴訟リスクを抑えるためにクロスライセンスを結ぶ「共存戦略」が交錯する。今回のTMEICの行動は、単なる特許保護にとどまらず、グローバル市場での競争優位を確保するための明確な戦略的行動と見ることができる。

一方の富士電機にとっても、韓国市場は重要な海外拠点の一つであり、技術面・法務面の両方で早急な対応が求められる。特許を回避した再設計や、ライセンス交渉など、複数の選択肢が模索される段階に入ったといえる。

■韓国の知財制度と特許訴訟の潮流

今回の件を特徴づけるのは、「韓国での輸入差止め」という行政的な措置である。KTC(Korea Trade Commission)は、不公正貿易行為を規制する権限を持ち、知的財産権侵害が認められた場合には輸入禁止を命じることができる。これは日本の特許訴訟とは異なる行政判断であり、より迅速かつ実効性の高い手段といえる。

さらに韓国では、特許権者に有利な制度改正が進んでいる。近年の法改正では、輸出行為をも侵害に含める判断が拡大されるなど、権利行使の範囲が強化されている。こうした背景も、今回のTMEIC側の申立てを後押しした要因の一つとみられる。

■企業に突きつけられる“グローバル知財リスク”

今回の事例は、製品の開発・販売が国境を越えて行われる時代において、知的財産権のリスクがいかに複雑化しているかを象徴している。たとえ日本国内で問題がなくても、他国での特許侵害が認定されれば、輸入・販売が制限される可能性がある。
とりわけUPSのように部品や制御ソフトウェアが複数国で製造・組立てされる製品では、どの工程が侵害に該当するかの線引きが難しい。

企業に求められるのは、製品設計段階からの「特許クリアランス」と、各国の制度を見据えた「知財マネジメント」である。知財はもはや法務部門の課題ではなく、経営戦略そのものに直結するテーマとなっている。

■結び―国際知財紛争の新時代へ

TMEICと富士電機、いずれも日本を代表する電機メーカーであり、技術的な信頼性と品質で業界を牽引してきた。その両者が、国外で特許をめぐって真っ向から争う構図は、国際市場の厳しさを物語っている。

今後、富士電機が控訴を通じて巻き返しを図るのか、あるいは両社がライセンス交渉などで和解を模索するのか、動向は注目される。
だが、いずれの結末であっても一つ確かなのは、知財を制する者がグローバル産業競争を制する時代に入ったということだ。

TMEICと富士電機の争いは、単なる企業間紛争ではない。技術立国・日本における「知財の攻防」の縮図であり、今後の産業界全体に深い示唆を与える事件となるだろう。


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